専属契約 ~俺はおまえの愛玩奴隷~

黒巻雷鳴

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chapter.02

契約成立

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 走行中の車内で、谷村は淡々と契約期間中の注意事項を詳細に説明した。それらの身勝手なルールに目新しさはなく、VIPの顧客にはありがちの、手垢にまみれた守秘義務の羅列だった。
 性的嗜好に関する項目も多数あったが、そのすべては許容範囲内で別段問題はなく、この長期契約は時間だけとの戦いになるだろうと思われた。
 ほんの些細なフェチズムにも応えてみせるのが航のこの仕事に対するプライドで、そのプライドを持つからこそ、今日まで彼の魂は百出する主人たちに汚染どくされることはなかった。
 性倒錯の世界のなかで、本当の自分を保つことができる秘訣は、相手の要求を完璧にこなし、あえて受け身のまま主導権を握って〝ゲーム〟をコントロールすることだと、航は数々の専属契約の経験を経て学んでいた。
 だが、それが両刃の剣となって多くの人々と自らを傷つける結果になるとは、このときの航はまだ気づかずにいた。



「──以上が、この契約のすべてになるわね。なにか質問はある?」
「別にないです」
Goodグッド! なら、承諾してくれるわよね?」
「はい。そのために来ました」
「フフッ、素直な子は好きよ。……ところで洲崎クン、あなた女性のほうの経験は何人くらいかしら?」
「……五人だったと思います」
「顔はいいのに、随分と少ないわね。避妊はしないタイプ?」
「……なければ付けません」
「そう。私の裸を見たら勃起する?」
「……あの、この質問も契約と関係があるんですか?」
「いいえ、ただの世間話よ。まだ到着しないから、お喋りでもして時間を潰したかったの。そこの堤は寡黙な男だし、あなたを乗せるまではつまらなくって、強いストレスを感じていたわ」

 言葉の最後で谷村はため息をつき、首を小さく左右に振った。
 それならそれで、もう少し広がりそうな話題をくれれば最低限の受け答えはしてみせるのにと航は呆れるが、すぐに頭を切り替える。

「それじゃあ、俺も谷村さんに個人的な質問をしていいですか?」
「あら、どんな素敵なゲームが始まるのかしら? いいわよ、訊いてみて」
「俺の裸を見たら、興奮しますか?」

 真剣な眼差しの航の問いに、谷村は視線を逸らすこともなく、また、即答もしなかった。きっと、質問の真意を探っているのだろう。

「そうね、マキシサイズ・・・・・・次第かしらね。顔だけじゃ満足できないもの」
肉体からだの相性は大切ですから、当然のことだと思います。もっとも、見てくれだけの速射ちじゃ結局は同じですけど」
「言葉に重みがあるわね」
「ええ、俺の体験談です」

 航の返しに、谷村は含み笑いを浮かべたままジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出して耳に当てる。着信音が聴こえなかったので、マナーモードなのだろう。

「遅くなりました、すみません。……はい、そうです。契約は無事に成立しましたので、そちらに向かっているところです。……はい、とてもユニークで素直な子です」

 通話の相手は新しい御主人様なのか、それとも別の関係者なのか。航はそれ以上気にかけずに、自分のスマートフォンのホーム画面を見る。ステータスバーに通話アプリの着信の表示があった。

(えっ、茉莉花まつりか?)

 それは、一年以上も音信不通となっていた元同棲相手からのメッセージ。
 今さらなんの用件があるのか、心当たりなどまるでない。
 アプリをひらいて起動させている最中、通話を終えた谷村が話しかけてきたので、すぐにスマートフォンの画面を閉じた。
 あとで確認すればいいと航は考えていたが、このときすでに、既読の表示がついてしまっていた。

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