専属契約 ~俺はおまえの愛玩奴隷~

黒巻雷鳴

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chapter.03

湖畔にて2

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 目覚めた航が、いつものようにスマートフォンに手を伸ばし、時刻を確認する。夜会が終わり、解放されてからまだ三時間ほどしか経過していなかったが、二度寝する気にはなれなかった。
 一糸纏わぬ身体を起こし、サイドテーブルに置きっぱなしにしていたペットボトルのミネラルウォーターを口に含む。生温いそれは、咽喉のどの渇きを潤すことなく、昨夜の記憶を呼び戻しただけで終わった。


     *


 着替えを終えて大階段を降りる途中、谷村と鉢合わせた。
 夜会では顔を合わせる機会がなかったので、どこか変に懐かしさを感じてしまう。

「あら? まだ起きてたの?」
「いえ、さっき目覚めたばかりです。谷村さんこそ、まだ寝ないんですか?」
「私は今からよ。洲崎クンもちゃんと眠らなきゃダメよ? 夜会の後なんだから」
「ありがとうございます。でも、なんか寝つけなくって……ちょっと湖畔を散歩してから部屋に戻るつもりです」
「散歩? ふーん……それじゃあ、私も一緒にいいかしら? 新鮮な朝の空気を吸ってから眠ることにするわ」
「ええ、それは全然構いませんよ。あっ、因みに近くにコンビニって……」
「ないわね。車で十五分くらい走ればあったと思うけど」
「十五分ですか……」
「ウフフ、散歩じゃなくてジョギングのつもりで行かなきゃ。あ、飲み物の自販機なら、そこまで遠くはないわよ?」

 そんな雑談を交えながら屋敷を出るふたり。徐々に昇る太陽が世界を燃やし尽くすように光を放ち、やがてすぐに雲のなかへと消えた。
 神秘的な光景にほんの一瞬だけ目を細める。同じ空のはずなのに、都会ではこれほど鮮やかに見ることができないのはなぜだろう。ふと、航は思った。


 林道を抜けて湖にたどり着く。
 早朝のこの時間でも、自分たち以外に遊歩道を走るランナーの姿や犬の散歩をする人影がちらほらと見て取れた。

「おはようございます」

 ランニングウェアを着た老齢の男性から挨拶をされたので、航もすかさず「おはようございます」と返せば、微笑む谷村が航の横顔をのぞき込む。

「あら……洲崎クンて、もうここの常連さんなの?」
「いえ。ただ、挨拶くらいはしとかないと」
「ごめんなさい、私って無愛想な女だから」
「え? いや、そういう意味じゃ……」

 その後も何人かとすれ違ったが、カジュアルな服装の航とスーツ姿の谷村のカップルが異質に映ったのか、少々奇異な目で見られたような気がした。


 ──ガッシャーン!


 突然の物音にふたりが顔を向けると、いつかの少女が自転車ごとまた湖に落ちそうになっていた。今日は学生服ではなく、ハーフパンツの体操服姿だ。

「キミは、あのときの……大丈夫? 怪我してない?」

 近づいて来る航に、少女は視線を泳がせたまま「大丈夫です」とだけ小さな声で答える。今回もまた、頬や耳朶まで熟した林檎のように紅く染まっていた。

(朝練の時間にも会えてラッキーだと思ったら、彼女連れじゃん!)

 うっすらと涙ぐむ少女に、谷村も安否を気遣って声をかける。

「涙が出てるけど、どこか痛いんじゃない?」
「(痛いのは、わたしの恋心だよ!)いえ……あの、大丈夫なんで…………ありがとうございます」
「よそ見は危ないから、本当に気をつけてね?」
「……はい」

 結局少女は、ふたりに視線を一度も合わせることもなく、自転車を立ち漕ぎして去って行った。

「洲崎クン、あの子のこと知ってるの?」
「名前までは知りませんけど、一応……顔見知りでいいのかな……」
「フフッ、あなたって誰からもモテモテなのね」
「はい?」

 すっかりと小さくなった少女の背中をみつめながら、航はその言葉の意味を理解出来ずにいた。

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