年下の彼女ができました

黒巻雷鳴

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年下の彼女ができました

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「えっ? あの……その……うん…………はい」

 毎年恒例の新年会。会社の若手同僚たちは年々集まりが悪くなっている。そんな新年会の二次会の最中、俺(35歳)は、居酒屋チェーン店のトイレの前で9歳年下の同僚女性に酔った勢いで愛の告白をした。
 具体的な文言なんて何も覚えてはいないが、多分「俺と付き合ってください」的なとても単純シンプルな内容だったと思う。
 それでも彼女は──彼女も酔っていたからなのか──俺の告白を承諾し、受け入れてくれたようだ。

「ほ……本当にオッケーなの?! や、やったぁぁぁ! うひょー!」
「ちょっ、ちょっと! 声が大きいですってば!」

 よりいっそう頬を赤らめた彼女が、前屈みになって両手でガッツポーズも決める俺の手首を掴んでいさめる。何気にふれた細い指が、ひんやりと冷たくてとても心地よかった。

「あっ、ゴメンゴメン。つい興奮しちゃって……ははは……」
「もう。あの……私たちが付き合うこと、ふたりだけの秘密にしておいてくれませんか? みんなに知られると恥ずかしくって……社内恋愛って、なんか働きづらいっていうか、その……」
「働きづらい……か。うん、そうだね……そうしよう」

 たしかに、同僚や上司たちから、ことあるごとに囃し立てられたりするのは嫌だ。アラフォーになり、性格が丸くなった俺でも軽くイラっとしてしまう。まだ20代前半の彼女なら尚更、それらの扱いにはたえられないだろう。

「ごめんなさい、ワガママを言っちゃって」
「ううん! そんなことないからさ、全然気にしなくていいよ。あっ、後でLINEを教えてくれないかな?」

 俺のそんな言葉に彼女は天使のような笑顔を見せると、「別に今でもいいじゃないですか」そう言ってくれてすぐにスマホを取り出し、その場でIDを交換してくれた。

 こんなグダグダな感じだったけれど、これが年下の彼女と付き合い始めた、俺の記念すべき1ページ──のはずだった。
 スマホを持つ彼女の、左手の薬指に光る指輪リングに気づくまでは……。




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