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2話 地震と歪み
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朝早く、突然地面が割れた。
轟轟と怖ろしい音を立てて、私の家は縦に横に大きく揺さぶられた。
突然のことで頭が真っ白になったが、一緒に寝ていた父と母にしがみついて、私はとにかくその揺れが収まるのを待った。
「地震だね。みのり、離れないでね。」と母が言う。
やがて揺れは収まったが、大きな“声”が聞こえたのはその後だ。
グオォォォォォォォ。
その音は、何かの唸り声のように聞こえた。
何か大きな獣の、唸り声。
2階の窓がなかなか開かなくて苦労した。開けて、町を見る。私の家は町の高台にあるので、2階の窓からは町が一望出来る。
びっくりした。
町が昨日までの姿とまるで違っているのだ。
道路が陥没し、電信柱や木々が至る所で倒れて辺りの車を潰している。水道管が破裂したのか、マンホールの蓋が勢いよく空へと舞い上がり、水が溢れ出す。学校の方を見ると、窓ガラスが割れて、建物のあちこちにヒビが入っているのが見える。
そうだ、夏美ちゃんの家は。夏美ちゃんの家の方角を見ると、その辺りは被害が少ないように見えて、安心する。
「なんだか被害のある地域にバラつきがあるな。」と父が言う。
自分の家の周りは特に被害がある家はなく、ある一定の地域だけが壊されている。
その壊され方は、まるで巨大な何かがその場所を踏みつけたかのようだ。
外に出て、父と母は近所の人と無事を確かめ合い、余震があるかもしれないからまだ警戒しないとね、と話し合っている。
マンホールがあった所には消防車が向かっている。学校には多分、先生たちが集まるのだろう。今日の授業は恐らく中止だ。だって地震が起こったのだから。
地震は確かに起きた。
だけど、本当に地震が起きただけ?
先生の話が頭に浮かんだ。
人食い大猿は、「龍」によって退治された。
でも実際に大猿が倒された所を確認した村人はいない。
昨日の話では、そう解釈できる。
だけどもし、大猿が何らかの形で生き永らえていたとしたら。
・・・。
本当に馬鹿げた話だ。だけど、わたしにはそれが真実のように思えてならなかった。夏美ちゃんに会わなくては。彼女にこの考えを、話さなくちゃいけない。
両親が近所の人と話しているのを見て、こっそり抜け出した。
夏美ちゃんの家までは走って5分もかからない。
見えた。が、なんだか様子がおかしい。
夏美ちゃんの家は無事だ。だけどその周りの建物がみんな何かに潰されたかのように破壊されている。
空から俯瞰できたなら、恐らく夏美ちゃんの家の周りを円で取り囲む形になっているだろう。
「夏美ちゃーん!」
と叫ぶ。
家は無事だが、なんだか胸騒ぎがした。彼女の父と母が家から出てくるのが見えた。
「おじさん、おばさん、夏美ちゃんは?」
彼女の姿が見えない。不安な気持ちがどんどんと大きくなる。
「分からないんだ。突然大きな揺れがきたと思ったら、巨大な“何か”が私達の家の前に現れた。そうしたら夏美がその“何か”と喋りはじめたんだ。」
と彼女の父親が言う。
「なんて?夏美ちゃんはなんて言っていたの?」
「『分かった。行くから。もうこの町で暴れるのはやめて。』と。」
そう、みのりちゃんに伝言を頼まれたの、と母親が言葉を続ける。
「『みのり、伝説が蘇っちゃたのかも。私のことは心配しないで。』って言っていたわ。伝説って何のことなの?」
夏美ちゃんの母親は動揺し、泣きながらも彼女の伝言を伝える。
やっぱりそうだ。
先生が言っていた、あの大猿だ。
夏美ちゃんの家を後にして、学校に向かう。先生に話を聞かないと。夏美ちゃんが殺されてしまう。
学校に到着する。学校の外には先生たちが集まっていた。その中に、吉村先生がいた。
「先生!」
真っ直ぐに先生の所に向かい、夏美ちゃんの家で聞いた話と、自分の考えを説明する。すると先生は考え込むような顔をし、無言になった。
「先生、夏美ちゃんを助けに行かないと!夏美ちゃんが大猿に殺されちゃう!」でもどうすればいいのだ。伝説の龍も、少女も、オカリナも、何もない。そもそもそんな不確かなものに頼るなんて、どうかしている。だが、この状況がもうすでに、現実から遠く離れているのだ。
「・・・。昨日先生が最後の方にした話を覚えているかい?」
と先生がようやく口を開いた。
「最後の方?山が五つあって、神様が祀られているっていう話?」
「そう。それと祠の話だ。この町の民俗資料館には祠が作られたと記載してある。だから先生もみんなに祠の話をした。だけどその祠は、実際には存在していないものなんだ。」
「え、どういうこと?」
「先生がまだ20代の頃、本当にそうした祠が存在するのかを調べるため、政府による調査隊が結成された。実は先生もその一員だった。この町の山はそんなに広くはない。しかし3か月間続けられた調査で成果は一つもなかった。わざわざ国の予算を使ったプロジェクトで、成果が一つもなかったのだから、それ以降同じ調査を続けるための費用を政府は出すわけには行かなかった。」
先生は無念そうに首を振る。
「祠も、オカリナも、そして龍も、何も見つかっていない。残っているのは文書だけなんだ。」ただ、と先生は続ける。
「文書にはこうある。『禍現れし時、祈り子在す。願いし時、その存在姿現す。』と。いいかい、今聞いたみのりの話と、私のこれまでの研究結果からだせる結論はこうだ。恐らく、祠とオカリナは”時空が歪んでいる場所”の中にある。」
「時空が、歪んでいる場所?だけどそれは、どこにあるの?」
「恐らくその歪みの世界は、私達が暮らすこの世界から遠く離れた場所に位置しているようで、実はすぐ近くにあるものなんだ。科学的な言葉を使うと、“平行世界”の一種でね。昔、巨大な龍が大猿にしたことは、ただその歪みに大猿を連れて行ったというだけだったんだ。」
先生の説明は私にはとても難しい内容だった。それでも夏美ちゃんを助けるために、脳みそをフル回転させて話を聞く。
「つまり、別の世界に連れて行かれたから村には現れなかったけど、大猿は死んでいなかったってことなんだね。」わたしはようやく、わたしの中に1つの答えをもつ。
「そうだ。今回起こった地震が、その時空の歪みをこの世界と繋げてしまった。大猿は龍から受けたダメージを長い年月の間に回復させて、またこちらの世界にやって来た。昔から天災は、あらゆる世界の歪みを引き起こす。だからつまり、その歪みを修正することが出来れば夏美を取り戻すことが出来るのかもしれない。だけど・・・。」
「先生、時間がありませんよ!すぐに調査隊結成の準備を。」
吉村先生より一回り若い男の人が先生に声をかけてくる。
「分かった、すぐ行く・・・。とにかくだ。夏美のことは先生たちに任せてみのりは両親のそばにいるんだ。分かったね。」
と言うと、吉村先生は踵を返して先ほど声をかけてきた男と行ってしまった。
先生が行ってしまった後、聞いた話が頭の中でぐるぐると回って、混乱する。混乱している中でも、ただ一つのことだけは分かった。
先生は、嘘をついている。
先生はきっと、夏美ちゃんのことはもう諦めている。
もう大猿に殺されてしまったと思っている。
だけど・・・と言った時の先生の悲しい眼が物語っていたのだ。
このままでは、本当に夏美ちゃんがこの世界からいなくなってしまう。
轟轟と怖ろしい音を立てて、私の家は縦に横に大きく揺さぶられた。
突然のことで頭が真っ白になったが、一緒に寝ていた父と母にしがみついて、私はとにかくその揺れが収まるのを待った。
「地震だね。みのり、離れないでね。」と母が言う。
やがて揺れは収まったが、大きな“声”が聞こえたのはその後だ。
グオォォォォォォォ。
その音は、何かの唸り声のように聞こえた。
何か大きな獣の、唸り声。
2階の窓がなかなか開かなくて苦労した。開けて、町を見る。私の家は町の高台にあるので、2階の窓からは町が一望出来る。
びっくりした。
町が昨日までの姿とまるで違っているのだ。
道路が陥没し、電信柱や木々が至る所で倒れて辺りの車を潰している。水道管が破裂したのか、マンホールの蓋が勢いよく空へと舞い上がり、水が溢れ出す。学校の方を見ると、窓ガラスが割れて、建物のあちこちにヒビが入っているのが見える。
そうだ、夏美ちゃんの家は。夏美ちゃんの家の方角を見ると、その辺りは被害が少ないように見えて、安心する。
「なんだか被害のある地域にバラつきがあるな。」と父が言う。
自分の家の周りは特に被害がある家はなく、ある一定の地域だけが壊されている。
その壊され方は、まるで巨大な何かがその場所を踏みつけたかのようだ。
外に出て、父と母は近所の人と無事を確かめ合い、余震があるかもしれないからまだ警戒しないとね、と話し合っている。
マンホールがあった所には消防車が向かっている。学校には多分、先生たちが集まるのだろう。今日の授業は恐らく中止だ。だって地震が起こったのだから。
地震は確かに起きた。
だけど、本当に地震が起きただけ?
先生の話が頭に浮かんだ。
人食い大猿は、「龍」によって退治された。
でも実際に大猿が倒された所を確認した村人はいない。
昨日の話では、そう解釈できる。
だけどもし、大猿が何らかの形で生き永らえていたとしたら。
・・・。
本当に馬鹿げた話だ。だけど、わたしにはそれが真実のように思えてならなかった。夏美ちゃんに会わなくては。彼女にこの考えを、話さなくちゃいけない。
両親が近所の人と話しているのを見て、こっそり抜け出した。
夏美ちゃんの家までは走って5分もかからない。
見えた。が、なんだか様子がおかしい。
夏美ちゃんの家は無事だ。だけどその周りの建物がみんな何かに潰されたかのように破壊されている。
空から俯瞰できたなら、恐らく夏美ちゃんの家の周りを円で取り囲む形になっているだろう。
「夏美ちゃーん!」
と叫ぶ。
家は無事だが、なんだか胸騒ぎがした。彼女の父と母が家から出てくるのが見えた。
「おじさん、おばさん、夏美ちゃんは?」
彼女の姿が見えない。不安な気持ちがどんどんと大きくなる。
「分からないんだ。突然大きな揺れがきたと思ったら、巨大な“何か”が私達の家の前に現れた。そうしたら夏美がその“何か”と喋りはじめたんだ。」
と彼女の父親が言う。
「なんて?夏美ちゃんはなんて言っていたの?」
「『分かった。行くから。もうこの町で暴れるのはやめて。』と。」
そう、みのりちゃんに伝言を頼まれたの、と母親が言葉を続ける。
「『みのり、伝説が蘇っちゃたのかも。私のことは心配しないで。』って言っていたわ。伝説って何のことなの?」
夏美ちゃんの母親は動揺し、泣きながらも彼女の伝言を伝える。
やっぱりそうだ。
先生が言っていた、あの大猿だ。
夏美ちゃんの家を後にして、学校に向かう。先生に話を聞かないと。夏美ちゃんが殺されてしまう。
学校に到着する。学校の外には先生たちが集まっていた。その中に、吉村先生がいた。
「先生!」
真っ直ぐに先生の所に向かい、夏美ちゃんの家で聞いた話と、自分の考えを説明する。すると先生は考え込むような顔をし、無言になった。
「先生、夏美ちゃんを助けに行かないと!夏美ちゃんが大猿に殺されちゃう!」でもどうすればいいのだ。伝説の龍も、少女も、オカリナも、何もない。そもそもそんな不確かなものに頼るなんて、どうかしている。だが、この状況がもうすでに、現実から遠く離れているのだ。
「・・・。昨日先生が最後の方にした話を覚えているかい?」
と先生がようやく口を開いた。
「最後の方?山が五つあって、神様が祀られているっていう話?」
「そう。それと祠の話だ。この町の民俗資料館には祠が作られたと記載してある。だから先生もみんなに祠の話をした。だけどその祠は、実際には存在していないものなんだ。」
「え、どういうこと?」
「先生がまだ20代の頃、本当にそうした祠が存在するのかを調べるため、政府による調査隊が結成された。実は先生もその一員だった。この町の山はそんなに広くはない。しかし3か月間続けられた調査で成果は一つもなかった。わざわざ国の予算を使ったプロジェクトで、成果が一つもなかったのだから、それ以降同じ調査を続けるための費用を政府は出すわけには行かなかった。」
先生は無念そうに首を振る。
「祠も、オカリナも、そして龍も、何も見つかっていない。残っているのは文書だけなんだ。」ただ、と先生は続ける。
「文書にはこうある。『禍現れし時、祈り子在す。願いし時、その存在姿現す。』と。いいかい、今聞いたみのりの話と、私のこれまでの研究結果からだせる結論はこうだ。恐らく、祠とオカリナは”時空が歪んでいる場所”の中にある。」
「時空が、歪んでいる場所?だけどそれは、どこにあるの?」
「恐らくその歪みの世界は、私達が暮らすこの世界から遠く離れた場所に位置しているようで、実はすぐ近くにあるものなんだ。科学的な言葉を使うと、“平行世界”の一種でね。昔、巨大な龍が大猿にしたことは、ただその歪みに大猿を連れて行ったというだけだったんだ。」
先生の説明は私にはとても難しい内容だった。それでも夏美ちゃんを助けるために、脳みそをフル回転させて話を聞く。
「つまり、別の世界に連れて行かれたから村には現れなかったけど、大猿は死んでいなかったってことなんだね。」わたしはようやく、わたしの中に1つの答えをもつ。
「そうだ。今回起こった地震が、その時空の歪みをこの世界と繋げてしまった。大猿は龍から受けたダメージを長い年月の間に回復させて、またこちらの世界にやって来た。昔から天災は、あらゆる世界の歪みを引き起こす。だからつまり、その歪みを修正することが出来れば夏美を取り戻すことが出来るのかもしれない。だけど・・・。」
「先生、時間がありませんよ!すぐに調査隊結成の準備を。」
吉村先生より一回り若い男の人が先生に声をかけてくる。
「分かった、すぐ行く・・・。とにかくだ。夏美のことは先生たちに任せてみのりは両親のそばにいるんだ。分かったね。」
と言うと、吉村先生は踵を返して先ほど声をかけてきた男と行ってしまった。
先生が行ってしまった後、聞いた話が頭の中でぐるぐると回って、混乱する。混乱している中でも、ただ一つのことだけは分かった。
先生は、嘘をついている。
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