32 / 65
3章
もっちーズ、偵察する 3
しおりを挟むボソボソ、ボソボソ……。
もっちーズと兵たちが見つめる先で、ミルトンは一言二言ローブの男と言葉を交わし、中へと入っていった。
すかさずもっちーズたちがしまった扉や窓にぴったりと張りつき、中の様子を観察しはじめた。
パン種でできた体は変幻自在にちょっとした隙間にも体がミラクルフィットするらしく、その監視する様はさながらプロのような佇まいさえ漂わせていた。
「すごい……。見ろよ、あの身のこなし」
「俺、もっちーズたちに弟子入りしようかな……」
「俺も……」
これまで幾度となく追跡に失敗している兵たちにとって、もっちーズたちの活躍は実に輝いて見えた。そもそもがパン種でできている聖力から生まれた生き物であるからして、弟子入りも何もないのだが。
ボロ屋からは薄く光が漏れている以外、人のいる気配はない。けれどもっちーズたちが時折送ってくるジェスチャーからすると、どうやら中には四人のローブの男がいるらしい。
その男たちとミルトンとが何やら声をひそめ、話をしていることまではわかった。けれどさすがに何を話しているのかまでは聞き取れないらしかった。
「俺たちが近づいたらさすがに気配でバレるしな……」
「あぁ。もし俺たちがここまでついてきたことがバレて、アジトを変えられたら厄介だ」
「となると、ここまでか……」
あのローブは、よく呪術者たちが着ているものとよく似ている。となればあの風貌からして、幻影を生み出している呪術者であることは確かだろう。
呪術者たちがひそんでいる居場所を突き止められただけでも、相当な収穫に違いない。
兵たちはこくりとうなずき合い、今夜のところはここまでにして気づかれないうちに引き上げることにしたのだった。
数時間後、さっそく大臣を通じて呪術者たちの居所を突き止めたことが国王に伝えられた。
「そうか! しかもゲルダンとミルトンとが、それらの者たちに命じて術を行使させていると確認までできたとは……、実によくやった」
「ははっ! ありがたき幸せにございますっ」
ようやく国王から明るい言葉をかけられ、大臣も監視に当たっていた兵たちの顔にもほっと安堵の色が浮かんだ。
「して、そのもっちーズとやらの働きによりわかったことをもう少し詳しく申せ! シェイラよ」
その後戻ってきたもっちーズたちの話から、さらにいくつかのことがわかった。
それを皆に伝えるためにシェイラもこの場に呼ばれていた。
「は、はいっ! ええと、呪術者は全部で四人だそうです。ひとりが長身でひょろっとした細身の鋭い目つきの男で、もうひとりは小太りでずっとぶつぶつ何かあやしい呪文のようなものを口にしていたそうです」
「呪文だと? それはもしや幻影を呼び出していた最中だった……ということか?」
その問いに、シェイラはしばし考え込み首を横に振った。
「多分違うと思います。何かの術であることに間違いはなさそうですけど、その間幻影を生み出すために描かれた陣は反応していなかったそうなので……」
部屋の中にまるで宙に浮き上がったふたつの陣があった、と昨夜ボロ屋の窓からのぞいていたもっちーズが教えてくれた。
それによれば幻影の気配を強く漂わせるものがひとつ、もうひとつはさらに禍々しい気を放つ嫌な気配の陣だったらしい。そしてその陣のかたわらには、とんでもない量の古い本やら紙が散らばっていたとかなんとか。
「しかもおかしなことに、その陣の方はミルトンも何をしているのかわからないみたいで……」
「え……? それは一体どういうことだ? シェイラ」
驚きを含んだリンドの声に、振り向く。
「ええっと、それがですね……」
部屋の中をのぞいていたもっちーズたちによれば、ミルトンはその術を見て何をしているのかとたずねたらしい。けれど呪術者たちはそれには答えず、『ゲルダン侯爵殿とミルトン殿には関係のないことですよ』などとほくそ笑んでいたのだ。
「ゲルダンもミルトンも知らない術を……?」
リンドの顔に鋭い色が走った。
気持ちはわかる。ゲルダンたちが命じた以外の術も仕掛けているのだとしたら、ゲルダンたちを捕まえたところで術による被害は終わらない可能性があるのだから。
となれば、一体何の術を行使しようとしているのかがどうにも気になる。
「もっちーズちゃんたちの勘では、その陣からはすごく嫌な感じがしたそうです。何かものすごく悪いものがうごめいているような……」
幻影よりも悪いものを呪術者たちが生み出そうとしているのだとしたら、それこそ国中がパニックになる。これ以上わけのわからないものは、正直ごめんこうむりたい。
「……ふむ。ということは、もしや他にも何か術を発動しようと企んでいる可能性もあるな」
国王も嫌な予感を感じているのだろう。物憂げな顔で顎をなで、低くうなった。
「あ、あとそれからもっちーズちゃんたちによれば、残りのふたりはその長身と太めの男に逆らえない様子だったように感じたみたいです」
四人の呪術者たちはきっと、対等な関係ではないのだろう。まるで怯えるように命令されて動いていたというから、細身と太めのふたりが残りのふたりに命令を下す形で動いているのかもしれなかった。
奴らが一枚岩でないのなら、そのふたりを締め上げれば一体これ以上何を企んでいるのかを白状させることができるかもしれない。
そう告げれば、国王もリンドも大臣たちも大きくうなずいた。
「相わかった。ともかくも此度の追跡、まことによくやった。これだけわかっただけでも、今後の対策を練るには十分だ。大臣、連日監視に当たっていた兵たちにもよくやったと伝えよ」
「ははっ! ありがとう存じますっ」
「それからシェイラ。そなたのもっちーズたちを同行させよという提案のおかげで、ゲルダンたちと呪術者たちの関わりがはっきりした。もっちーズとやらも、存分に愛でてほめてやるといい」
とにもかくにも、またしてももっちーズたちの大手柄にどこか誇らしい気持ちではにかむシェイラだった。
23
あなたにおすすめの小説
誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが
迷路を跳ぶ狐
ファンタジー
魔法もろくに使えない役立たずと言われ、婚約者にも彼の周りの人達にも馬鹿にされてきた私。ずっと耐えてきたつもりだったけど、誰もがこんな私よりも、もっと優秀な魔法使いがいたはずなのに、とため息をつく。
魔法によって栄え、王都にまでその名を知らしめた貴族の婚約者は、「なんでこんな役立たずが……」と私を蔑み、城の中で魔法使いたちを統率する偉大な魔法使いは、「こんな女がこの領地を任されるだなんて! なんて恐ろしく愚かなことだ!!」と嘆く。
貴族たちに囲まれ詰られて、婚約者には見放され、両親には罵声を浴びせられ、見せ物のように惨たらしく罰せられた。「なんでこんな役立たずがこの城に来たんだ……」そう落胆されながら。
魔法が苦手でここを出る手段はないけど……もうこんなところにいられるか!
そう決意した私に、私を虐げていた誰もが腹を立てる。激しくぶたれた私は、機嫌を損ねた残忍な竜たちに、枷をされて隣の領地まで連れて行かれることになった。
重労働を言いつけられ、魔物や魔獣、竜たちがうろつく森の城についてからは、暗く小さな部屋に放り込まれた。
たった一人で食事をして、何もない部屋から見窄らしい格好で窓の外を見上げる。
なんだこれ…………
「最高…………」
もう、私を踏み躙る奴らに好きに扱われることはないんだ! それだけで、何もかもが最高!!
金もなければ能力もまるでない! 魔法すらまともに使えない! だけど今は思いのままに身につけに行ける!! 何もないのでこれから欲しいもの全部、手に入れに行きます!
そんな風にして竜族の城に住むことになった私。気づいたらやけに皆さんとの距離が近い? 元婚約者も「戻って来い」なんてうるさいけど、知りません!! 私は忙しいので!
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
【完結】西の辺境伯令嬢は、東の辺境伯へと嫁ぐ
まりぃべる
ファンタジー
リューリ=オークランスは十七歳になる西の辺境伯の娘。小さな体つきで見た目は大層可憐であるが、幼い頃より剣を振り回し馬を乗り回していたお転婆令嬢だ。
社交場にはほとんど参加しないリューリだが一目見た者は儚い見た目に騙され、見ていない者も噂で聞く少女の見た目に婚約したいと願う者も数多くいるが、少女はしかし十七歳になっても婚約者はいなかった。
そんなリューリが、ある事から東の辺境伯に嫁ぎ、幸せになるそんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界でも同じような名前、地名、単語などがありますが関係ありません。
☆現実世界とは似ていますが、異なる世界です。現実ではそんな事起こる?って事も、この世界では現象として起こる場面があります。ファンタジーです。それをご承知の上、楽しんでいただけると幸いです。
☆投稿は毎日する予定です。
☆間違えまして、感想の中にネタバレがあります…感想から読む方はお気をつけ下さい。
薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました
佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。
ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。
それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。
義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。
指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。
どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。
異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。
かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。
(※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる