聖女は今日も今日とてパンをこねる 〜平凡なパン屋の娘が、ご神託と王子の愛で救国の聖女になりました

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

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3章

もっちーズ、偵察する 3

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 ボソボソ、ボソボソ……。

 もっちーズと兵たちが見つめる先で、ミルトンは一言二言ローブの男と言葉を交わし、中へと入っていった。

 すかさずもっちーズたちがしまった扉や窓にぴったりと張りつき、中の様子を観察しはじめた。
 パン種でできた体は変幻自在にちょっとした隙間にも体がミラクルフィットするらしく、その監視する様はさながらプロのような佇まいさえ漂わせていた。
 
「すごい……。見ろよ、あの身のこなし」
「俺、もっちーズたちに弟子入りしようかな……」
「俺も……」

 これまで幾度となく追跡に失敗している兵たちにとって、もっちーズたちの活躍は実に輝いて見えた。そもそもがパン種でできている聖力から生まれた生き物であるからして、弟子入りも何もないのだが。

 ボロ屋からは薄く光が漏れている以外、人のいる気配はない。けれどもっちーズたちが時折送ってくるジェスチャーからすると、どうやら中には四人のローブの男がいるらしい。

 その男たちとミルトンとが何やら声をひそめ、話をしていることまではわかった。けれどさすがに何を話しているのかまでは聞き取れないらしかった。

「俺たちが近づいたらさすがに気配でバレるしな……」
「あぁ。もし俺たちがここまでついてきたことがバレて、アジトを変えられたら厄介だ」
「となると、ここまでか……」

 あのローブは、よく呪術者たちが着ているものとよく似ている。となればあの風貌からして、幻影を生み出している呪術者であることは確かだろう。
 呪術者たちがひそんでいる居場所を突き止められただけでも、相当な収穫に違いない。

 兵たちはこくりとうなずき合い、今夜のところはここまでにして気づかれないうちに引き上げることにしたのだった。
 
 数時間後、さっそく大臣を通じて呪術者たちの居所を突き止めたことが国王に伝えられた。

「そうか! しかもゲルダンとミルトンとが、それらの者たちに命じて術を行使させていると確認までできたとは……、実によくやった」
「ははっ! ありがたき幸せにございますっ」

 ようやく国王から明るい言葉をかけられ、大臣も監視に当たっていた兵たちの顔にもほっと安堵の色が浮かんだ。

「して、そのもっちーズとやらの働きによりわかったことをもう少し詳しく申せ! シェイラよ」

 その後戻ってきたもっちーズたちの話から、さらにいくつかのことがわかった。
 それを皆に伝えるためにシェイラもこの場に呼ばれていた。

「は、はいっ! ええと、呪術者は全部で四人だそうです。ひとりが長身でひょろっとした細身の鋭い目つきの男で、もうひとりは小太りでずっとぶつぶつ何かあやしい呪文のようなものを口にしていたそうです」
「呪文だと? それはもしや幻影を呼び出していた最中だった……ということか?」

 その問いに、シェイラはしばし考え込み首を横に振った。

「多分違うと思います。何かの術であることに間違いはなさそうですけど、その間幻影を生み出すために描かれた陣は反応していなかったそうなので……」

 部屋の中にまるで宙に浮き上がったふたつの陣があった、と昨夜ボロ屋の窓からのぞいていたもっちーズが教えてくれた。
 それによれば幻影の気配を強く漂わせるものがひとつ、もうひとつはさらに禍々しい気を放つ嫌な気配の陣だったらしい。そしてその陣のかたわらには、とんでもない量の古い本やら紙が散らばっていたとかなんとか。

「しかもおかしなことに、その陣の方はミルトンも何をしているのかわからないみたいで……」
「え……? それは一体どういうことだ? シェイラ」

 驚きを含んだリンドの声に、振り向く。

「ええっと、それがですね……」

 部屋の中をのぞいていたもっちーズたちによれば、ミルトンはその術を見て何をしているのかとたずねたらしい。けれど呪術者たちはそれには答えず、『ゲルダン侯爵殿とミルトン殿には関係のないことですよ』などとほくそ笑んでいたのだ。

「ゲルダンもミルトンも知らない術を……?」

 リンドの顔に鋭い色が走った。

 気持ちはわかる。ゲルダンたちが命じた以外の術も仕掛けているのだとしたら、ゲルダンたちを捕まえたところで術による被害は終わらない可能性があるのだから。
 となれば、一体何の術を行使しようとしているのかがどうにも気になる。

「もっちーズちゃんたちの勘では、その陣からはすごく嫌な感じがしたそうです。何かものすごく悪いものがうごめいているような……」

 幻影よりも悪いものを呪術者たちが生み出そうとしているのだとしたら、それこそ国中がパニックになる。これ以上わけのわからないものは、正直ごめんこうむりたい。

「……ふむ。ということは、もしや他にも何か術を発動しようと企んでいる可能性もあるな」

 国王も嫌な予感を感じているのだろう。物憂げな顔で顎をなで、低くうなった。

「あ、あとそれからもっちーズちゃんたちによれば、残りのふたりはその長身と太めの男に逆らえない様子だったように感じたみたいです」

 四人の呪術者たちはきっと、対等な関係ではないのだろう。まるで怯えるように命令されて動いていたというから、細身と太めのふたりが残りのふたりに命令を下す形で動いているのかもしれなかった。
 奴らが一枚岩でないのなら、そのふたりを締め上げれば一体これ以上何を企んでいるのかを白状させることができるかもしれない。

 そう告げれば、国王もリンドも大臣たちも大きくうなずいた。

「相わかった。ともかくも此度の追跡、まことによくやった。これだけわかっただけでも、今後の対策を練るには十分だ。大臣、連日監視に当たっていた兵たちにもよくやったと伝えよ」
「ははっ! ありがとう存じますっ」
「それからシェイラ。そなたのもっちーズたちを同行させよという提案のおかげで、ゲルダンたちと呪術者たちの関わりがはっきりした。もっちーズとやらも、存分に愛でてほめてやるといい」

 とにもかくにも、またしてももっちーズたちの大手柄にどこか誇らしい気持ちではにかむシェイラだった。

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