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5:恋をした
しおりを挟む――約束の日曜日。
早川くんとぼくは水族館に行った。
遊園地やホテルが併設された、海に面した大きな水族館。
早川くんは、白のTシャツとジーンズ姿だった。
左手首に、ぼくが贈ったブレスレットが光っているのを見て、ドキッとする。
私服姿の早川くんは、いつもより大人っぽく見えた。
派手な金髪と抜群のスタイルの良さで、遠目にもかなり目立つ。
近くにいた女の子たちが早川くんを見て何かコソコソ話をしている。
水族館の入り口に突っ立っていたぼくに早川くんが、
「とりあえずイルカの水槽のところに行こうぜ」
と声をかけてくる。
早川くんはこの水族館によく来ているようで、入場のとき、年間パスポートを見せていた。
明るい陽光の降り注ぐアーチ型の水槽を見上げる早川くんの目が、子どものようにキラキラ輝く。
イルカや色とりどりの小さな魚たちが、真っ青な水のなかを悠然と泳いでいる。
「……ここに来ると沖縄の海を思い出すんだ」
アーチの下を歩きながら、早川くんは言った。
「東京に来たころ、向こうが恋しくなって――練習がつらくて仕方ないとき、ここに来て気持ちを紛らわせてた」
そして、
「おまえはずっと東京に住んでるのか?」
と聞いてくる。
ぼくは、うん、と答える。
「――家族は?」
「え?」
「その――弟とか、妹とか――いんの?」
「あ――ううん、いない。ひとりっ子」
「そうか」
そんな感じだよな、と、早川くんはつぶやいた。
「すごく大切に育てられてる感じだ」
「……早川くんは――」
思いきって、ぼくは[[rb:訊 > たず]]ねる。
「きょ――きょうだいとか――いるの……?」
「――ああ」
妹がひとり、と早川くんは言う。
「ちょっと歳が離れてて、いま小学6年生かな。ダンサーになりたいって、スクールに通ってる」
「へぇ……」
早川くんの妹ならきっとすごく可愛いんだろうな、と思った。
「でも、おふくろひとりだから大変で――おれも奨学金はもらってるけど、いろいろ苦労かけてるから、早くプロになって金を稼ぎたいんだよな」
すごいな、とぼくは感心した。
ぼくは、いままで、当たり前のように親にお金を出してもらっていた。中学受験するための塾も、大学受験のために通い出した塾も、そうしてもらうのが当然と思っていた。
腕時計を見た早川くんが、
「そろそろ外のショーがはじまるから見に行かないか。午前中のほうが空いてるから」
と言う。
ぼくたちは、イルカのショーを見た。
青空いっぱいに跳躍する大きな白い体と、跳ね上がる水しぶき。
それから、ペンギンを見たり、水槽いっぱいのイワシの大群を見上げたり、砂に隠れるチンアナゴを探したりした。
あっという間にお昼の時間になり、レストランの外に人が並び出す。
「――メシ、どうする?」
「あ、お弁当作ってきたよ」
「……え?」
「そんなに大したものじゃないけど――よかったら――食べない?」
☆☆☆☆☆
芝生広場のベンチに腰を下ろし、リュックから保冷バッグに入ったお弁当箱を取り出す。
唐揚げと、卵焼きと、ソーセージと、韓国風海苔巻きと、ブロッコリーとプチトマト。
ナプキンの上に置いたお弁当箱の中身を見た早川くんは、
「……これ全部おまえが作ったの?」
と目を見張る。
「うん」
「……すげぇな」
「――料理は好きなんだ。両親が共働きで、小さいころからよく自分でお昼を作って食べたりしてたから」
さ、食べて、と、ぼくは勧める。
早川くんは、一瞬ためらってから、爪楊枝を刺した卵焼きを口に入れる。
「――甘い……」
「あ、ごめん――しょっぱいほうが好みだった? どっちにしようか悩んだんだけど、今日は甘いのにしようかなと思って――」
「――いや、大丈夫。どっちも好きだから。……美味いよ」
ぼくはホッとした。
今度はしょっぱいのを作るね、と言おうとして、ふと、今度はあるんだろうかと考えた。
海から吹いてくる潮風が、早川くんの金色の前髪をサラサラと揺らす。
陽の光を受けて、まるで天使が踊っているみたいだ。
午後は、館内の魚たちをじっくり見た。
早川くんは魚が泳いでいるのを見るのが好きみたいだった。
「――こんな狭い水槽に閉じ込められているのに、なんだか自由だよな」
ジーンズのポケットに手を入れながら、水槽に顔を近づけ、早川くんは言う。
帰る前に、お土産屋に立ち寄った。
入ってすぐの壁面に、海の生物のぬいぐるみたちが大量に積み上げられていた。
ふわふわした、中くらいの大きさの白いイルカのぬいぐるみ。
(……可愛い――)
思わず手に取って見ていると、早川くんが、
「――ほしいのか?」
と聞いてきた。
「あ――う、うん――」
「だったら買ってやるよ」
「えっ……?」
ぼくの手からぬいぐるみを取った早川くんは、レジに行き、会計を済ませた。
「はい」
ぬいぐるみの入ったビニール袋を差し出されたぼくは、「あ、ありがとう」と受け取った。
すると早川くんは、
「これの――お返し」
左手首に着けていたブレスレットを指さし、にっこりと笑った。
その笑顔を見た瞬間、ぼくの胸はきゅんっ、と鳴った。
ああ――
やっぱり、そうなんだ。
心臓をぎゅっと直につかまれたようなこの思い。
セフレなのに。
ぼくは早川くんに恋をしてしまった。
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