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9:変わりゆく季節
しおりを挟む夏が過ぎ、新学期になった。
早川くんは、大会に向けて、ハードな練習を重ねていた。
平日も休日もほとんど休みはなく、会えるのは二週間に一度くらい。
午後から練習が休みになり、久しぶりに会うことになった。
9月下旬――まだ夏の暑さの残る日曜日。
神保町の駅前にあるファストフードの店で待ち合わせた。
約束の時間から20分ほど過ぎ、早川くんは店に現れた。
二階の窓際のカウンター席に座っていたぼくのもとに来て、
「遅くなってごめん」
と頭を下げる。
「来る前にシューズを見てこようと思って――」
スポーツショップの名前の入った大きな紙袋。
このあたりは、スポーツ用品の専門店が多い。
別にいいよ、と、ぼくは読んでいた本をリュックにしまった。
早川くんは、制服姿だった。
袖に校章の刺繍が入った白の半袖シャツに、緑のタータンチェックのネクタイ。
ネクタイを緩め、「暑いな……」とつぶやく。
走ってきたのか、首筋に玉のような汗が光っている。
「――まだ昼、食ってないの?」
Sサイズのドリンクの紙コップが載ったトレイを見て、聞いてくる。
「あ――うん。早川くんが来てから注文しようと思って――」
「だったらカレー食べに行こうぜ。すごく美味い店があるから」
早川くんが連れていってくれたのは、駅の近くにある、地下のインドカレー店だった。
独特のリズムのインド音楽の流れるなか、辛口のキーマカレーとマトンカレーを、ふたりで汗をかきながら食べた。
早川くんはナンを3枚もお替わりした。
食べ終わって地上に出ると、さっきよりも太陽が眩しく感じた。
強烈な日差しの照り付けるコンクリートの地面に、ユラユラと陽炎が立ちのぼっている。
腕時計は、午後の2時を指していた。
「あのさ――」
顔を上げたぼくに、
「暑いから――どっかで休憩しないか?」
早川くんは言う。
「今日は少しゆっくりできるから」
それは、ホテルに行こう、という誘い文句だった。
「……うん――」
ぼくは、うなずいた。
なんとなく――流れでそうなるのはわかっていた。
食欲を満たしたら、次は性欲――そういうことなんだろう。
ここらへんなら湯島かな、と、はずむ声でつぶやいた早川くんは、
「歩くと暑いから、電車で行こうぜ」
地下鉄の駅の入り口に向かって歩き出した。
ついて行こうとしたとき、
「……さとり――?」
後ろから呼びかけられ、ぼくは振り返った。
「――やっぱり――」
聞き覚えのある懐かしい声。
「――里李だろ?」
その声の主を見た瞬間、ぼくのなかで、記憶の扉が開いた。
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