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12:先生と僕
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鏑木先生から連絡が来たのは、神保町で再会した二週間後だった。
待ち合わせ場所は、神保町の紅茶専門店。
夏の強い陽射しは和らぎ、10月の街には、金木犀の甘い香りが漂っていた。
「――里李は、紅茶が好きだったよな?」
ウェッジウッドのイチョウ柄のティーカップに注がれたアッサムミルクティーと、白い大きな皿に盛り付けられたフライドポテトとサンドイッチ。
ランチをご馳走してくれた鏑木先生は、琥珀色の紅茶をゆっくりと味わってから、
「この間話してた数学のテキストだけど――」
年季の入った木の椅子に置いていた書店のビニール袋から、問題集を取り出した。
「とりあえず3冊。最難関大向けのものを用意した。里李はもう基礎はできてるだろうから、あとは応用問題を解いて、いろんな作図に対応できるようになれば、きっと点が取れてくるはずだ」
付箋の貼られたページを開き、
「とりあえずここまで、家で解いてきて。わからないものは答えを見て、それでもわからなかったら印をつけて。来週の日曜、またここで会って、わからなかったところは教えてあげる。――それでいい?」
と言う。
「……あの――」
リュックから財布を取り出す。
「テキスト代――あと、授業料は――」
「ああ。いいよ、そんなの」
「でも……」
「いいんだ。そんなこと気にしないで。おれが好きでやってることなんだから」
柔和な笑みを浮かべた鏑木先生は、
「とりあえず来週の日曜。また会える?」
と確認してくる。
「………」
ぼくは、早川くんのことを考えた。
もうすぐ大会が始まると言っていたから、しばらく休みはないだろう。
けれど、もし――。
黙り込んだぼくに、鏑木先生は、
「まだわからないなら、ムリしなくていい。大丈夫そうだったら会おう」
と言ってくれた。
結局、早川くんから連絡はなかった。
次の日曜日、ぼくは鏑木先生と会った。
ノートに解いてきた答えを見て、先生は途中の問題点まで丁寧に説明してくれた。
(……わかりやすい――)
おそらく先生自身も、問題を解いてきてくれているのだろう。
そうでなければ、こんなに的確な解説はできない。
文系で大学受験したのに、理系の、かなり難易度の高い問題も教えられる。
本当に頭がいいんだな、とぼくは感心した。
「……大丈夫?」
1時間ほど経ったところで、先生は、ペンをとめ、
「少し疲れたんじゃない? 甘いものでも食べる?」
新しい紅茶と、ブルーベリーのチーズケーキを注文してくれた。
食べながら、ニューヨークのロースクールにいたときの話や、趣味のカメラの話などしてくれる。
先生のしてくれる話はどれも興味津々で――昔、勉強の休憩時間に、一緒におやつを食べながら、目を輝かせて話を聞いたことをぼくは思い出した。
ふたたび勉強を開始した――そのとき、テーブルの上に置いていたスマホが揺れた。
画面を見て息を呑む。
早川くんからの着信だった。
待ち合わせ場所は、神保町の紅茶専門店。
夏の強い陽射しは和らぎ、10月の街には、金木犀の甘い香りが漂っていた。
「――里李は、紅茶が好きだったよな?」
ウェッジウッドのイチョウ柄のティーカップに注がれたアッサムミルクティーと、白い大きな皿に盛り付けられたフライドポテトとサンドイッチ。
ランチをご馳走してくれた鏑木先生は、琥珀色の紅茶をゆっくりと味わってから、
「この間話してた数学のテキストだけど――」
年季の入った木の椅子に置いていた書店のビニール袋から、問題集を取り出した。
「とりあえず3冊。最難関大向けのものを用意した。里李はもう基礎はできてるだろうから、あとは応用問題を解いて、いろんな作図に対応できるようになれば、きっと点が取れてくるはずだ」
付箋の貼られたページを開き、
「とりあえずここまで、家で解いてきて。わからないものは答えを見て、それでもわからなかったら印をつけて。来週の日曜、またここで会って、わからなかったところは教えてあげる。――それでいい?」
と言う。
「……あの――」
リュックから財布を取り出す。
「テキスト代――あと、授業料は――」
「ああ。いいよ、そんなの」
「でも……」
「いいんだ。そんなこと気にしないで。おれが好きでやってることなんだから」
柔和な笑みを浮かべた鏑木先生は、
「とりあえず来週の日曜。また会える?」
と確認してくる。
「………」
ぼくは、早川くんのことを考えた。
もうすぐ大会が始まると言っていたから、しばらく休みはないだろう。
けれど、もし――。
黙り込んだぼくに、鏑木先生は、
「まだわからないなら、ムリしなくていい。大丈夫そうだったら会おう」
と言ってくれた。
結局、早川くんから連絡はなかった。
次の日曜日、ぼくは鏑木先生と会った。
ノートに解いてきた答えを見て、先生は途中の問題点まで丁寧に説明してくれた。
(……わかりやすい――)
おそらく先生自身も、問題を解いてきてくれているのだろう。
そうでなければ、こんなに的確な解説はできない。
文系で大学受験したのに、理系の、かなり難易度の高い問題も教えられる。
本当に頭がいいんだな、とぼくは感心した。
「……大丈夫?」
1時間ほど経ったところで、先生は、ペンをとめ、
「少し疲れたんじゃない? 甘いものでも食べる?」
新しい紅茶と、ブルーベリーのチーズケーキを注文してくれた。
食べながら、ニューヨークのロースクールにいたときの話や、趣味のカメラの話などしてくれる。
先生のしてくれる話はどれも興味津々で――昔、勉強の休憩時間に、一緒におやつを食べながら、目を輝かせて話を聞いたことをぼくは思い出した。
ふたたび勉強を開始した――そのとき、テーブルの上に置いていたスマホが揺れた。
画面を見て息を呑む。
早川くんからの着信だった。
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