セフレに恋をした

東雲ゆめ

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20:12月29日

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 翌日、ぼくは高熱を出した。

 季節柄、インフルエンザの検査をしたけれど反応は出ず、おそらくウィルス性の風邪だろうとお医者さんは言った。

 40度近い熱が3日も続き、何も食べられず脱水状態になりかけ、お母さんに車で病院に連れていってもらい、点滴をした。
 4日目にやっと熱が下がり、ゼリーを少し食べた。
 5日目には、ようやく起き上がって、家のなかを歩けるようになった。
 からだじゅうの熱を出しきったからか、不思議と頭はさっぱりしていた。

 パジャマを脱ぎ、よそいきの服に着替えたぼくは、1階に下り、リビングの壁に掛けられた大きなカレンダーの日付を見た。

 ――12月29日。
 早川くんのバスケの、全国大会の決勝の日。
 
 ……あれから、早川くんからの連絡は途絶えていた。
 早川くんのチームが決勝に残ったことは、ネットニュースで知った。
 今日優勝したらMVPは確実といわれるほど、早川くんは活躍していた。

 決勝開始時刻は、昼の12時。
 柱時計の針は、10の数字を指していた。

(……そろそろ出よう)

 そのとき、リビングのドアが開き、大きなスーツケースを提げたトレンチコート姿のお父さんが姿を現した。
 お父さんと会うのは久しぶりだった。
「……どこか行くの?」
 コートを着たぼくに、聞いてくる。
「あ、うん――ちょっとバスケの試合を見に――」
「バスケ?」
 お父さんの後ろから現れたお母さんが、
「里李のお友だちが、バスケをしてるのよ。今日の新聞にも出てたわよね。早川くん、現時点で、今回の大会の得点王だって」
 ポストから取ってきた郵便物をダイニングテーブルに置きながら、説明する。
「……うん」
「――そんなすごい子と、どこで友だちになったんだ?」
 いきなり聞かれて、ぼくはことばに詰まった。

「え――え――えっ……と――」
 チラッ、と時計を見上げ、
「――ごめん、試合がはじまっちゃうから、またあとで――」
「――体はもう大丈夫なの? 車で送っていこうか?」
「大丈夫。電車で行くから」
 体調を気にかけるお母さんを安心させるように微笑んだぼくは、リュックをしょって家を出た。

 会場の体育館は、むせかえるような熱気で満ちていた。
 早川くんが事前に送ってくれていたチケットの、スタンドの指定席に座る。
 コート全体がよく見渡せる一番前の席だった。

 バスケは、4クォーター制で、1クォーターが10分。
 クォーターごとに2分間の休憩を挟む。前半の2クォーターが終わったら10分のハーフタイムがあり、そして後半。同点だった場合、さらに5分間の延長があるというルールだった。

 生でバスケの試合を見るのは、その日がはじめてだった。

 早川くんがシュートを決めるたび、スタンドのあちこちから黄色い歓声が沸き上がる。
 バスケが好き、というより、早川くんのことを好きな女の子たちが、たくさん来ているようだった。

 ぼくは、祈るように両手を握りしめながら、早川くんだけを見ていた。
 茶色い床の上を躍動する、赤いタンクトップのユニフォームの長い手足。相手のリバウンドを奪う高いジャンプと、光る汗――。

 試合は延長戦に突入し、ラスト2秒。2点のビハインドで早川くんの放ったロングシュートがゴールネットを大きく揺らした。
 試合終了のブザー音とともに、ベンチから次々と飛び出してくる選手。
 歓喜の輪の中心でもみくちゃにされ、晴れやかな笑顔を見せる早川くん。

 (ああ――)
 ぼくは思った。
 よかった。ほんとうによかった。
 早川くんの願いが叶って――よかった。

 張りつめていた緊張が解けたのか、激しい頭痛がした。
 病み上がりで、ムリをしたせいだろうか。こめかみがズキズキと割れるように痛い。
 出口が混む前に帰ろうと立ち上がったとき――グルグルと地球が回るような眩暈に襲われ、ぼくは、その場に崩れ落ちた。

 意識を手放す瞬間、嵐のような歓声のなか、「……さとりっ――?」という早川くんの声が、聞こえたような気がした――――。







 
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