セフレに恋をした

東雲ゆめ

文字の大きさ
23 / 36

23:涙の両想い

しおりを挟む
 
 家に着いたときには、日が落ちかけていた。
 ひとけのない路上で、向き合ったぼくらは、どちらともなく手を握った。
「あの――」
 早川くんを見上げ、
「さっきの返事――だけど――」
 ずっと言おうと思っていたことばを切り出す。 

 そのとき、ガタッと音がし、家の門扉が開いた。
 中から姿を現したお父さんが、ぼくの手を握っている早川くんを見て、「このっ……!」と突進し、殴りかかってくる。
 不意を衝かれた早川くんは地面に崩れ落ちる。

「……ッ――!? ……なっ――なんでっ……!?」

 急いで早川くんに駆け寄ったぼくに、
「離れなさい」
 お父さんは険しい顔で言う。
「こいつが――こいつが――おまえのことを……」

 その後ろから聞こえてきた、
「――やめて」
 という声。
 お母さんだった。

 切れた唇の端を拭いながら立ち上がった早川くんに、
「……ごめんなさいね」
 と頭を下げたお母さんは、
「せっかく送ってくれたのに申し訳ないけれど――今日はもう帰ってくれるかしら? ……これから里李に大事な話をするから」
 穏やかな――だけど有無をいわさぬ声で告げた。


 ……リビングのダイニングテーブルには、一枚の封筒が置かれていた。

 A4サイズの、白い紙封筒。
 差出人の名前はない。

「……あなたが出かけたあと、開けてみたの」
 お母さんは、ぼくにそれを差し出し、
「……自分で見てごらんなさい」
 と言う。
 ぼくはおそるおそる、封筒のなかに入っていたものを取り出した。

 2枚の写真――早川くんとぼくが、渋谷のラブホテルに入っていくところと、出てくるところの――。

 縁側に立ったお父さんは、厚いビロードカーテンの隙間から、庭の池を眺めていた。ピンと伸ばされたその背中は、ぼくを固く拒んでいるように見えた。

「……あなたが誰を好きになろうが、お母さんは反対しないわ。それはとてもステキなことだから。――でもね、あなたたちはまだ高校生なの」

 お母さんは、震えるぼくの肩にそっと手を置く。

「……いますぐ結論を出せとはいわない。でも、いまのあなたたちにとって、いちばん大切なことは何なのか――誰かに指示されるのでなく、自分たちでよく考えてごらんなさい」

 感情を抑えたそのことばが、カラカラに渇いた胸の砂地に、じんわりと染み込んでいく。


           ☆☆
        

 その夜、早川くんは、電話をくれた。
 ぼくの話を聞いた早川くんは、「そっか……」とつぶやき、
「……ごめんな――」
 と言った。
「おまえにも――お父さんにも、お母さんにも――いっぱいつらい思いをさせた……」
「ううん――」
 部屋のベッドの上で、ぼくは首を振った。
「――早川くんだけが、悪いわけじゃないから――」
 きっといろんな糸がもつれて、こんがらがってしまったのだと思う。

 ――この写真を送ってきた人が誰なのか、ぼくは見当がついていた。でも、その人を責める気にもなれず――すべては、ぼくの優柔不断が招いた結果なのだと思った。

「……すぐに会いたいけど、明日から全日本の強化合宿があるんだ」
 早川くんはすまなそうに詫びる。

「東京に帰ってくるのが1月3日の夜で――おまえのお父さんはいつまでこっちにいる?」
「5日まで――」
「だったら、4日に会いに行くよ。午前中どっかで会って、話をしよう。それからご両親に謝りに行くから」
「うん……」
「ごめんな、そばにいてやれなくて――」
「ううん……」
「毎日、電話するから」
「うん」
「LINEもまめにするから」
「うん……」
「また熱出さないように――今日は早く寝ろよ」
「……うっ――ん……」
「……――泣いてるのか――?」
「……ちがっ――……」
「――ウソつくなよ――ほんとうは泣いてるんだろ……?」
「……うっ……」

 しゃくりあげたぼくは涙をぬぐう。

「――大丈夫だから。ちゃんと話せば、きっとわかってもらえる」
 ぼくを懸命に励ます早川くんの声。

「だからお願いだからもう、泣かないで……」

 優しいその声色に、ぼくはまたぽろぽろ泣いてしまう。

 こんなに大好きなのに――なんでもっと早く思いを伝えなかったんだろう。

「……好き――――」

 ぼくは言った。

「早川くんが――――大好き……」

 電話の向こう側で、早川くんが息を呑むのが伝わってくる。

 長い沈黙のあと、
「……ありがとう」
 早川くんは言った。
 
「おれもおまえのことが――世界でいちばん、大好きだよ」

 夢のようなその告白を、目をつむり、泣きながら聞いた。

 ――会いたい。
 いますぐにでも飛んでいって、早川くんのたくましい腕に抱かれたい。
 
 


 その日、ぼくらはようやく両想いになった。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

処理中です...