セフレに恋をした

東雲ゆめ

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25:遥かな約束

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「……正直、最初は見た目で――すごい可愛いって一目惚れして――でもそのうち、だんだん中身も可愛いと思うようになって――里李と会ってると、ありのままの自分でいられる感じがして、それがすごく楽しくて――里李のすべてが愛おしくなっていって……」
 ポツリ、ポツリ、とそれまでの思いをさらうように打ち明ける。

「――男とか、女とか、そういうことはどうでもよくて――相手が里李だったから、惚れたんだと思います」

「……そうか――」
 お父さんは、納得したようにうなずき、
「――立ちなさい」
 と早川くんを促す。
「……はい」
 ゆっくりと立ち上がった早川くんを見上げ、
「ずいぶん、大きいんだな」
 感心したように、
「何センチあるんだ?」
 と聞く。
「――196センチです」
「そんなに……」
 お父さんは、
「――私は183センチ。里李の母親も、172センチだ」
 と言った。
「ふたりとも大きい。なのに、里李は、なかなか大きくならなかった――」
 記憶の箱の蓋を開けるように、語りだす。

「……里李が生まれたとき、私は里李を、スポーツ選手にしたいと思った。妻も私も学生時代ずっとスポーツをしていたし、里李は小さいころから足が速く、運動神経もよかった。
 ただ、里李はなかなか体が大きくならず――そのうえ、女の子みたいな――いや、こういう言い方はダメだな……お人形さんみたいな――とでも言ったらいいんだろうか? 
 とにかく可愛らしくて、そのせいで、小学生になったころから性的ないたずらをされることが多くなった。危険を感じた私は、必要なとき以外、里李をあまり外に出さなくなった。
 高学年になって塾に通うようになると、車で迎えに行ったり、GPSを持たせたり、家の近くをパトロールしたり――とにかく、里李を怖い目に遭わせないよう、必死だった――

 お父さんは、話を続ける。

「――中学に入って、里李は陸上をはじめた。もともと足が速かった里李は、都大会に出場できるようになった。だが、中2のころ、次第に体格差で不利になっていき……結局それ以上記録を伸ばせず、里李は陸上をやめた。
 高校になって、私が教えた将棋を、本格的に始めてくれたときは本当に嬉しかった。こちらに帰ってきたとき、里李と盤を挟むのが何より楽しくて――里李の笑顔を見ることが、私の最大の喜びだった。
 里李は本当に親思いで――自分のことより、周りのことを考えて行動できる――心の美しい子なんだ」

「はい……」
「――……里李が君を選んだのなら、それはしかたない。男同士だからどうこうとは、私も妻も思わない。だけど、この先――もし里李を悲しませるようなことがあったら、私は君を絶対にゆるさない」
「……お父さん――」
 口を挟もうとしたぼくを、そっと手で制した早川くんは、
「お父さん――」
 まっすぐな目で、
「――この先、里李をほんとうにしあわせにできるのか――いまは正直、自信がありません」
 と言った。
「だけど、里李をしあわせにしてやりたい……その気持ちは、誰にも負けないと思ってます」

「………」
「――バスケでプロになって、自立した生活ができるようになったら、里李と一緒に暮らしたい。ずっと、ずっと、里李のそばにいたい。里李を世界一、いや宇宙一しあわせにしてやりたい……」

 涙が――ぼくの頬をこぼれ落ちる。

「だからそのために、いまは一度、別れて――――お互い、バスケと勉強に集中して、その夢が叶ったらまた会おうと、里李と話しあって決めました。……おれたちはまだ子どもで――このまま、ふたりでいたら、きっとお互いダメになってしまいそうな気がするから――だからいまは、ほんの少しだけ離れて……また会える日まで――がんばろうと……」
 早川くんの目も、赤くなっていた。

「……そうか」
 お父さんは、
「おまえたちが決めたことだ。好きにしなさい」
 とだけ言った。

「――座りなさい。お茶が冷めてしまう」
 お母さんは、早川くんを窓際の日の当たる席に導き、
「甘いものは食べられる? この水ようかんはね、里李の大好物で、箱根で買ってきたのよ」
 と微笑む。
「はい――」
 ありがとうございます、と頭を下げた早川くんに、
「よかったら、君のことを教えてくれないか? バスケはいつからやってるんだ?」
 正面の席に座ったお父さんが聞く。
 

 それからぼくたちは、長いあいだ、話をした。
 庭の縁石に来たメジロが、小皿の米粒をつつく。
 柔らかな午後の日差しが、ぼくらを暖かく包み込む。


 それはかつて、幼かったぼくとお父さんが、縁側で将棋をしたときと同じ――凪のように穏やかな時間だった。










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