セフレに恋をした

東雲ゆめ

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26:最後のデート

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 翌週の休日。

 ぼくらは海に行った。
 朝からどんよりした灰色の雲が空一面広がり、天気予報には雪マークが付いていた。
 
 ――湘南の海沿いにある水族館。

 薄暗い館内で手をつなぎ、水槽のなかを泳ぐ魚たちを眺める。
 青いドームのなかをユラユラと漂うクラゲや、幻想的な魚のショー。
 早川くんは、魚を見て、「なんだか自由だな」とはもう言わなかった。
 だけど相変わらず、泳ぐ魚を見るのは好きなようで、ずっと笑顔でいた。

 お昼前に水族館を出て、海に面した公園と海岸を結ぶ遊歩道に小さなレジャーシートを広げ、お弁当を食べることにした。
 風はないけれど、太陽がまったく出ないので、昼になっても気温が上がらず寒い。
 鼻の頭を赤くしたぼくの頬にそっと手を触れ、
「……寒い?」
 と早川くんは聞く。
 うなずいたぼくに、
「――食べたらすぐあっためてやるから――ちょっと、待ってて」
 と言う。

 ――唐揚げと、きんぴらごぼうと、プチトマトとブロッコリーと、ツナとたまごのサンドイッチと、肉巻きおにぎりと、卵焼き。
「……すごい豪華だな」
「……卵焼き食べて」
 ぼくが渡した、爪楊枝を刺した卵焼きをひとくち食べた早川くんは、
「――うん……」
 と頬をゆるめた。
「すげぇ、うまい」
「この前のは甘かったから、今日はしょっぱいのにしたんだ」
「……どっちも、うまいよ」
 早川くんは、ぼくの頭を、くしゃくしゃっ、と優しく撫でる。

 連休だからか、寒いのに、公園にはけっこう人がいた。
 暖かそうなコートを着込んだ家族連れや、成人式帰りらしき振袖姿の女の子たち……。
 ぼくが作ってきたお弁当を、あっという間にたいらげてくれた早川くんは、うさぎのかたちをしたデザートのりんごを食べてから、
「――里李」
 お弁当箱をナプキンでくるみ、保冷バッグに入れてリュックにしまったぼくを甘い声で呼んだ。

「おいで」

 ぼくは、両手を広げる早川くんに、そっと身を寄せる。
 早川くんはぼくをぎゅっと強く抱きしめ、
「こうすれば少しはあったかい――だろ?」
 と言う。

「うん……」

 ぼくのダッフルコートのフードを頭に被せ、
「……こうして見ると、おまえってホント、顔ちっせぇのな――」
 感心したように言う。
「――弁当、うまかった。ありがとう」
「うん――」
「里李は料理が上手いよな」
「――……好きだから」
「きっといい奥さんになるぜ。あ、おれの奥さん――ってことだからな」
「う……うん――」
「……一緒に暮らしたら、おまえの手料理――毎日、食べさせてくれるか?」
「――うん……」
「――やった――」

 ぼくを腕のなかにすっぽりと包み込んだ早川くんは、

「――早く大人になりたいな……」

 そう切なそうにつぶやいた。






 
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