26 / 36
26:最後のデート
しおりを挟む翌週の休日。
ぼくらは海に行った。
朝からどんよりした灰色の雲が空一面広がり、天気予報には雪マークが付いていた。
――湘南の海沿いにある水族館。
薄暗い館内で手をつなぎ、水槽のなかを泳ぐ魚たちを眺める。
青いドームのなかをユラユラと漂うクラゲや、幻想的な魚のショー。
早川くんは、魚を見て、「なんだか自由だな」とはもう言わなかった。
だけど相変わらず、泳ぐ魚を見るのは好きなようで、ずっと笑顔でいた。
お昼前に水族館を出て、海に面した公園と海岸を結ぶ遊歩道に小さなレジャーシートを広げ、お弁当を食べることにした。
風はないけれど、太陽がまったく出ないので、昼になっても気温が上がらず寒い。
鼻の頭を赤くしたぼくの頬にそっと手を触れ、
「……寒い?」
と早川くんは聞く。
うなずいたぼくに、
「――食べたらすぐあっためてやるから――ちょっと、待ってて」
と言う。
――唐揚げと、きんぴらごぼうと、プチトマトとブロッコリーと、ツナとたまごのサンドイッチと、肉巻きおにぎりと、卵焼き。
「……すごい豪華だな」
「……卵焼き食べて」
ぼくが渡した、爪楊枝を刺した卵焼きをひとくち食べた早川くんは、
「――うん……」
と頬をゆるめた。
「すげぇ、うまい」
「この前のは甘かったから、今日はしょっぱいのにしたんだ」
「……どっちも、うまいよ」
早川くんは、ぼくの頭を、くしゃくしゃっ、と優しく撫でる。
連休だからか、寒いのに、公園にはけっこう人がいた。
暖かそうなコートを着込んだ家族連れや、成人式帰りらしき振袖姿の女の子たち……。
ぼくが作ってきたお弁当を、あっという間にたいらげてくれた早川くんは、うさぎのかたちをしたデザートのりんごを食べてから、
「――里李」
お弁当箱をナプキンでくるみ、保冷バッグに入れてリュックにしまったぼくを甘い声で呼んだ。
「おいで」
ぼくは、両手を広げる早川くんに、そっと身を寄せる。
早川くんはぼくをぎゅっと強く抱きしめ、
「こうすれば少しはあったかい――だろ?」
と言う。
「うん……」
ぼくのダッフルコートのフードを頭に被せ、
「……こうして見ると、おまえってホント、顔ちっせぇのな――」
感心したように言う。
「――弁当、うまかった。ありがとう」
「うん――」
「里李は料理が上手いよな」
「――……好きだから」
「きっといい奥さんになるぜ。あ、おれの奥さん――ってことだからな」
「う……うん――」
「……一緒に暮らしたら、おまえの手料理――毎日、食べさせてくれるか?」
「――うん……」
「――やった――」
ぼくを腕のなかにすっぽりと包み込んだ早川くんは、
「――早く大人になりたいな……」
そう切なそうにつぶやいた。
10
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる