セフレに恋をした

東雲ゆめ

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27:愛してる

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 立ち上がった早川くんは、ぼくを海岸に誘った。
 手をつないで歩きだしたぼくらを、振り袖姿の女の子の集団がヒソヒソと指さす。

 ちらっ、と横目で見たぼくを、
「……いいから――気にするな」
 早川くんは、ぼくの頭をぎゅっと胸に押し付け、庇ってくれた。
 そうするとよけい注目を浴びてしまい――ぼくは、耳たぶまで真っ赤になった。
 
 ぼくの手を引いて砂浜に行き、
「海はいいよな」
 とつぶやく早川くん。

「――内地の人間は海水浴が好きだけど、うちなーんちゅはあまり泳がないんだぜ」
「えっ、そうなの――?」
「ああ。紫外線が強いし――せいぜいテラスでバーベキューするか、海を眺めるくらいだな」
「――そうなんだ……」
「ああ。学校にプールもなかったし――考えてみたら、ちゃんと泳ぎを習ったことって一度もないな」
「意外――」
 すごく泳げそうなのに、と言ったぼくに、
「――たぶんおまえのほうが上手だよ。いつか……一緒に沖縄に帰ったら、おれに泳ぎを教えてくれるか?」
「……うん」

 沖縄、と聞いて、ぼくは思い出した。

「昔――ぼくが幼稚園生だったころ、家族で沖縄の離島に行ったことがあるんだ。ぼくの誕生日のお祝いで、海がすごくキレイで、太陽が眩しかったのを覚えてる」
「へぇ――そういえば、おまえの誕生日ってまだ聞いてなかったよな?」
「……うん」
「ごめん、大事なことなのに――いつなんだ?」

「……7月の――12日」

「えっ……?」
 早川くんは目を丸くした。
「それってもしかして――」

「うん……」
「マジかよ――」
 早川くんは、信じられない、というような顔をした。

「あの日――はじめて水族館に行った日じゃん――」
 
 なんで言わなかったんだよ、とぼくの手を強く握る。
「知ってたら、お祝いしてやったのに――プレゼントとか……」
「……でもイルカのぬいぐるみ、もらったし」
「あんなのじゃなくて、もっとちゃんとした――」
「あのぬいぐるみもちゃんとしたプレゼントだよ。それに――」

 押し寄せる波の音を聴きながら、
「早川くんとはじめてデートできたことが、ぼくにとっては、何よりのプレゼントだったから……」
 と微笑む。

「…………」
 早川くんは、ぼくをぎゅっと抱き寄せた。

「――今日って1月の12日だよな」
「うん……」
「半年過ぎちゃったけど――誕生日、おめでとう」
「……ありがとう」
「――里李」
「……はい?」
「――愛してる」
「…………」
「――愛してる。いまも、これからも、この先も――ずっと……」

「……ぼくも――」
 ぼくは、早川くんの大きな背中に手を回した。


「ぼくも早川くんを――愛してる……」



 
 ……いつしか舞い降りてきた雪の花びらが、ぼくらの肩に淡々と降り注ぐ。

 その冷たさも、空の重さも、海の黒さも何も感じないほど、お互いの存在だけ確かめあったぼくらは、雪風のなか抱き合い、何度も何度もキスをした。

 ――別れる前の、最後のデート。

 明日からは、もう会えない。話せない。

 その苦しさに圧し潰されそうになったぼくは思わず、
「――したい……」
 とつぶやいた。
「早川くんと――セックス……したい」
「……里李――」

 ぬるい涙の流れるぼくの頬を親指の腹で拭った早川くんは、
「おれも――」
 とつぶやく。

「おまえんなか――指入れてぐちゃぐちゃにして――いいカンジに熱くなったところにチンポ突っ込んでガンガンに突きたい――」
「……うっ――ううっ――んっ……」
「――ダメだ、想像するだけで勃ってきたな――」
 ぼくの頭にそっと触れ、
「――約束しただろ? 次に会うときまでしないって」
 と言う。

「うん――」
「もし今日セックスしたら、お父さんとお母さんを裏切ることになる。だから今日はキスまで――な?」
「は……い――」

「――泣かないで……」
 あのトパーズ色の瞳でぼくをじっと見つめた早川くんは、
「会えないあいだ、おまえの笑顔をずっと想っていたいから――今日は笑っていてほしいんだ――」

 そのことばに、ぼくは笑おうとした。
 だけど涙があふれてとまらない。泣きながら、けんめいに笑おうとするぼくを見て、
「……可愛いな――」
 と微笑んだ早川くんは、震えるぼくの瞼にそっと唇を押しあてた。


 まるで初恋のはじまりのような――逆回転した映画のワンシーンのような、その思い出を胸に、ぼくらは別れた。
 


      ☆☆☆

 

 一週間後、神保町の喫茶店で鏑木先生に会った。
 テキストに付箋を貼った、わからなかった箇所をすべて教えてもらったあと、ぼくは箱に入れた腕時計を先生に返した。

「……何も聞かないんだね――」
 神妙な顔つきでそれを受け取った先生に、
「……いままで、ありがとうございました」
 ぼくは、頭を下げた。

「――里李……」
 テーブルの反対側で身を乗り出した先生は、
「――あんなヤツのことなんて忘れて――大学を卒業したらおれと一緒にアメリカに――」
「先生」
 ぼくは首を振った。
「ごめんなさい」
 腑に落ちない表情の先生にきっぱりと告げる。

「ぼくはもう――全部、早川くんのものですから」

 たとえ、いまは一緒にいられなくても――ぼくは信じていた。


 ぼくらはまたいつの日か、きっとひとつになれる。




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