セフレに恋をした

東雲ゆめ

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28:ハッピーバースデー

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 それから1年と2カ月。
 ぼくらは、一度も会わなかった。
 LINEも何も交わさず、連絡もとらない。
 ただ、早川くんのインスタグラムだけは、毎日欠かさずチェックしていた。
 バスケのこと、日常のこと、おしゃれのこと……。

 早川くんは、SNSをまめに更新してくれるようになった。
 まるでぼくへのひそかなメッセージのような、ハッシュタグが付けられた記事。
 早川くんがひとりで水族館に行ったとき。
 『#会いたい』『#またいっしょにいこう』『#大好きだ』……。

 その投稿を見たとき、部屋のベッドの上で、スマホを握りしめ、ぼくは泣いた。
 そのわずかな光のきらめきだけで、未来が、見える気がした。

 ――7月9日。
 早川くんの18回目のバースデー。
 ハッピーバースデーの文字であふれるインスタグラムに、メッセージを書き込んだ。

『お誕生日おめでとう からだに気をつけてね』

 数分後、返信がついた。

『ありがとう。勉強、がんばれよ』
 

 ――3日後。
 ぼくの誕生日。
 家の郵便受けに入っていた誕生日プレゼントを見つけたのはお母さんだった。

 コンコンッ、とドアをノックし、部屋に入ってきたお母さんは、勉強していたぼくに、青い小さな紙袋を手渡した。
「ポストに入ってたわよ」
 その紙袋の表にテープでとめられていたメモ帳の文字。

『里李のお母さんへ
 今夜――里李に電話してもいいですか?   早川 紺』

「……お母さん、明日は出張だから、今夜は早く寝るわ」
 にっこりウィンクしたお母さんは、
「お誕生日ケーキ買ってきたから、夕ご飯のあと一緒に食べましょ。里李の好きな、ピエール・エルメのチョコレートケーキよ」
 一階に下りていった。

 紙袋を握りしめたぼくは、ベッドに移動した。
 透明なビニールで覆われた紙袋の封をそっと開け、青いラッピングのリボンをほどく。
 白鳥のイラストの描かれた、濃いブルーの長方形の箱。
 中に入っていたのは、シルバーのうさぎのキーチェーンだった。

「うわぁ……」
 キラキラしたクリスタルのネックレスの光る、4センチほどの高さの、丸っこいうさぎ。
 薄ピンク色のフェイクファーのしっぽが、フサフサしている。

(すごく可愛い……)

 もしかして――ぼくが以前、うさぎを飼っていた話をしたからだろうか。

「なんか……おまえってうさぎみたいだよな――」
 と言われたときのことを思い出す。
 早川くんはいったいどんな気持ちで、このプレゼントを選んでくれたんだろう……?

 夕ご飯とケーキを食べたあと、急いでお風呂に入って、部屋に戻った。
 問題集を解こうとしたけれど、まったく手につかない。
 そわそわして、気持ちだけ、どこか遠くの草原をさまよっているみたいだ。

 9時ごろ、早川くんから電話が来た。
 震える手で、LINE電話の応答ボタンを押す。

「……はい……」
「――里李?」

 早川くんの声。
 とたん、鼻の奥がツンと熱くなる。

「うん……」
「よかった――お母さん大丈夫だった?」
「うん……」
「すげぇ迷ったんだけど、やっぱりどうしても、おめでとうがいいたくて――……ほんとうは会って話したいけど、それはできないからな」
「うん……」
 興奮しているのか、早川くんはいつもより饒舌じょうぜつだった。

「なんか家でお祝いしたの?」
「うん、チョコレートケーキ食べて……お父さんとお母さんからって、グッチのお財布もらった」
「へぇ。よかったな」
 早川くんの優しい声が、耳をくすぐる。
「里李の親御さん、センスよさそうだもんな」

「……早川くんも――」
 ぼくは言う。

「プレゼントありがとう。すごい可愛い。うさぎのキーホルダー」
「気に入ってくれた?」
「うん。大好き。あのしっぽも――ずっと触っていたいくらい――」
「よかった。何にしようか、ずっと考えてて……こないだ練習が休みだった日、池袋行って、デパートぐるぐる回ってさ。ちょっと女の子っぽいかなとも思ったんだけど、里李ならこんなの喜ぶんじゃないかなって思って――」

「うん。すごく嬉しかった。……なくすとイヤだから、部屋に置いておいてもいい?」
「いいよ。おまえにあげたものなんだから、好きにすればいい」
「……ありがとう。宝物にするね」
「大げさだな」
 ふっという笑い声。

「……来年は、プレゼント、一緒に買いに行こうな」
「……うん……」

 お互い、少し言葉に詰まる。
 
「あの――」
 話を切り出したのは、ぼくだった。

「早川くんの誕生日プレゼント――あげられなくてごめんね……」
「ああ――いいよ、そんなの。インスタにメッセージもらったし。ありがとうな」
「ううん……」
「……ふたりとも18歳になったな」
「そうだね」
「結婚って――18からできるんだっけ?」
「うん、男女ともに18歳から――」
「じゃあ、おれたちもう結婚できるんだな」
「……う……うん――」
「いまはまだ早いかもしれないけどさ、はたちになったら、一緒に指輪買いに行こう。それでおまえが大学卒業したらしようぜ――結婚」
「…………」
「びっくりした?」
「……うん。すごく……」
「おれは本気だから。もうこの先、おまえ以外の誰かを好きになることなんてぜったいにない」
「……うん……」
「いまは少しずつ法律も変わってきてるし、あと4年くらいしたらきっと、おれたちみたいなカップルも少しは生きやすい世の中になってるんじゃないかって思うんだ」
「うん……」
「そのときはまたちゃんとプロポーズするから。とりあえず今日はお誕生日おめでとう」
「…………ありがとう……」

 涙がひとしずく、頬を流れ落ちる。

 そのかすかな嗚咽を聞きとめたのか、早川くんは、
「……もしかして、泣いてる……?」
 心配そうな声で聞いてきた。

「……ご……ごめん――なんか胸がいっぱいになって……」
 涙を拭いたぼくは、明るい声を出そうとした。
 だけど声がふるえてうまくいかない。

「……ごめんね、泣いてばかりで――」
「いや――いいよ……だけど、電話だとやっぱり限界があるよな――ホントはもっと抱きしめたり、キスしたりしてやりたい……」
 電話の向こうで、ため息をついた早川くんは、
「――そういえばおまえさ……」
 ふと声色を変え、

「その――おれのこと考えて――したり……する?」
 と聞いてきた。





 
 




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