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63(side:龍一)
しおりを挟む俺とほのかを繋ぐのは所詮金だけだ。
その問題がなくなれば、彼女は俺の元を去っていくのだろう。
だというのに俺はこの後に及んでなお、未練がましくほのかに嫌われることを恐れていた。
(馬鹿みたいだ)
彼女が俺を好きになんてなる未来があるはずないのに。それを夢想し続けているだなんて。
VIPルームにほのかを呼ぶ。俺の顔を見た彼女は可哀想な程に青褪め、足を震わせている。
あからさまに俺に怯えているのだ。
こんな状態で彼女に好かれるだなんてもはやそれはただの幻想だろう。
叶わない夢を見ていた愚かな自分。
そんな自分とは決別する時だ。
意地の悪い態度を取って彼女を追い詰める。
みるみるうちに泣きそうな顔をするほのかに、ほぞを噛む。
本当は彼女に笑って欲しかった。
なのにその夢が叶わないからと言って、大人気なく彼女を虐げて何になる?
そう理性が訴える。それを聞かないために度数の強いアルコールを飲んで打ち消す。
(酒が不味いな)
ほのかが自分に酌をしてくれるなら、どんな安酒も美酒に変わると思っていた。しかし。彼女が泣きそうになる顔を見ながら飲む酒はやけに苦く感じる。
(早めにチェックをして切り上げるか……?)
だが、そうなると彼女は店に取り残されて他の客の相手をすることになるだろう。それでは俺が店に来た意味がない。
煙草を吹かしながら、チラリと彼女を見やる。
ほのかの衣装は花柄のミニドレスだ。そのドレスの丈は短く、座るだけで生地がズリ上がり、下着が見えそうなギリギリのラインになっている。
水商売に慣れた女であれば、ドレスと太ももの間にハンカチを置いて、必要以上の肌の露出を避ける。
だが、ほのかは他の女達のようにそれをすることなく、無防備に白い太ももを晒しているのだ。
更に言えば、ざっくりと開いた胸元は少し屈むとブラの柄も覗かせていた。だが反対に背筋を伸ばせば、薄い生地が肌に張り付いてブラのホックの位置すら知らせることになる。
こんなにセクハラしやすいであろう格好のほのかを他の男の席に付ける選択肢なんか存在しない。
というより、いかにも触ってください、といわばんばかりの姿で席に着こうとするほのかの無防備さに些か頭が痛くなる。
だからつい彼女を必要以上に貶す言葉が口から出てしまうーーそれが、いけなかったらしい。
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