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64(side:龍一)

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 ほのかが何をしようと俺には関係のないという言葉だけは到底許せるものではなかった。
 まして彼女は他の男と枕をしてでも借金を返せるのならばそれでも良いと言ったのだ。
 例えその言葉が売り言葉に買い言葉ゆえのものだとしても、そのようなことを想像するだけでも、はらわたが煮え返りそうだ。


 「……ふざけるなよ」

 唸るような低い声で呟く。
 怒りで目の前が真っ赤になり、いっそのことほのかを永劫に閉じ込めてやろうかとすら思った。
 厳重に鍵を掛けて彼女を独り占め出来るのだとしたら、どれ程に甘美なことか。
 ほのかの心がそれで閉ざされたとしても、彼女の人生丸ごと独占出来る権利。やろうと思えば、それは実現可能なものなのだ。


(マンションに戻ったら、本当にやってやろうか)


 未だ煮えたぎる怒りに任せて、その算段を考える。
 途中、やってきたボーイには延長を伝え、再び二人きりになった場所でほのかにきつく当たれば、追い詰められた彼女は部屋を抜け出した。


(計算通りだ)

 その間にボーイを呼んで、ドンペリを注文しておく。
 彼女の戻りを飲みながら待っているから先にボトルを開けて欲しい、とボーイに頼む。男はその言葉を疑うことなく二つのグラスに酒を注いで出て行った。

      
 その間にほのかは席に戻ってこなかった。一人きりの空間で懐からある物を取り出す。
 ラベルも貼られていない黒い硝子瓶に入っているのは遅効性の催淫薬。無味無臭の液体であるそれに違法な物は入っておらず、身体にも害のないものだ。
 遅効性の薬の効果自体も弱く、ただ一夜のスパイスとして楽しむもの。
 それを彼女に使用するか否かを吟味して、止める。


 違法性のないものとはいえ、よく分からない薬を彼女に使いたくなかった。
 なれば、とこの場所からほのかを早く帰らせる策は……単純に酔わせることだろう。
 既に彼女は俺という金払いの良い客を得た。
 そんな彼女を店としては是が非でも雇いたいと思っているはずだ。
 ゆえに俺が延長せずに帰れば、酒に酔ってしまった彼女を労わるためにも、優しい言葉で宥めて早めに帰すに違いない。


 そして、その計画は案の定上手くいった。
 戻ってきた彼女は気まずそうに俯いては、チマチマと酒を飲む。
 お互いに喋らない分、酒のペースが早い。
 それを流し見て、俺は口角を上げた。

(ほのかがマンションに帰ったら絶対にもう外には出してやるものか)

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