思い込みの恋

秋月朔夕

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(……やっぱりね)


 蓮くんと登校したせいで、想像通り注目されていた。教室で自分の席に座っていれば、あからさまにチラチラとこちらを見てはわたしの名前を会話に出されている。予想していたとはいえやはり憂鬱な気持ちになった自分の顔を隠したくて、本を読んでいるフリをした。


 わたしのことを話しているのだろうけど、中途半端に気遣っているからか微妙に声は小さいと感じる。
 そのせいでわたしの噂をしているのだと思うけれど会話の中身はどのようなものか分からない。
 だからこそ余計になんの話をしているのか気になってモヤモヤしてしまう。


(あーあ。こうなるから嫌だったのよ)


 教室の時計を見ればホームルームが始まるまで後十分もある。こんな風に自分のことを憶測や想像で語られるくらいなら、直接どうして彼と一緒に登校してきたのか、と理由を尋ねられたほうがずっとマシだ。

 教室が針の筵のように感じる。こんなに居心地が悪いのなら、いっそのこと保健室で休んでしまいたい。けれどそんなことをすればまたいらぬ憶測が飛び交うのだろう。そうなれば余計に噂が出歩いて収拾つかなくなってしまいそうだ――とりあえず今はただ我慢するしかない。


(早く先生が来ればいいのに……)

 一刻も早くこの苦痛な時間が終わってほしいという気持ちが強いからか時計の針が中々進まないように感じられる。
 けれど、どうせホームルームが始まっても結局その後でまた好き勝手言われるのだろうと思うと想像するだけで気分が悪くなってくる。


(本当にもうこれ新手の拷問よね。蓮くんも今頃わたしと同じ状態なのかしら)

 もっとも蓮くんだったら今日に限らず、毎日なにかしらの噂をされているのだろう。彼の場合は華があるがゆえに、良くも悪くも注目される存在だ。本人はもう慣れているかもしれないけれど、こんなのが毎日だったら大変そうだと思った。

(わたしだったら絶対無理だわ)


 仕方ないとはいえ、よくこんなこと耐えられるものだ。人の噂も七十五日というが、一日すらまともに耐え切れる気がしない。出来るなら物事は穏便に済ませたいとは思っているけれど、残念ながらわたしはもともと気が長いほうではない。

 もう、いいや。こんな苦痛をずっと味わうんだったら自分から話し掛けよう。そう思って椅子から立ち上がろうとした時だった。


「え」
 突然、彼女達がスマホを見ては騒ぎ出す。そして今度は遠慮なくこちらをじっと見つめてきた。穴があきそうなほどわたしを凝視する彼女達の勢いに、たじろいで結局立ち上がることは出来ない。


 急にどうしたのだろうと見上げれば、三人組の子の一人と目が合う。そして、何かゴニョゴニョと相談したかと思えば、おずおずと遠慮がちに近付いてきた。その様子を見た女子達はお喋りを止めて、わたしの方を注視している。真剣な面持ちにたじろぎそうになる。


「水本さん」
「う、うん?」

 しまった。久しぶりに女子に話し掛けられたから緊張して声が裏返ってしまった。クラス中の女子が固唾を呑んでこの状況を注視しているのだと思うと尚更恥ずかしい。

「あのさ……」
「うん」
「…………」
「どうしたの?」
「えっと、ね」

 クラスの清純派アイドル田中さんがここにきてまだもじもじとした態度をとるのはとても可愛らしいが、どうにもじれったくて、もどかしい。
 どうせ切り込まれるのなら、遠慮せずに切り込んできてくれたほうが気が楽なのに。


「あの、葉山くんと水本さんって……」
「うん」



 そこまで聞いておいてなんで押し黙るのか。田中さんの後ろで彼女の友達がこっそり頑張れと口パクで応援していた。そんなもの田中さんには見えるわけないし意味ないのにな、とどこか冷静に考える自分が可笑しかった。それに頑張るのはどちらかというと答えないといけないわたしのほうじゃないか。



 そしてややあって深呼吸をして田中さんは覚悟を決めた顔でわたしに向き合う。



「二人は付き合っているの?」
「……うん」

 予想通りの質問を答えた瞬間に教室が騒ついた――けれど、続けられた言葉が予想外過ぎて今度はわたしが騒つく番になる。


「え、やっぱりそうなんだっ! じゃあ、葉山くんが一目惚れしたっていうのも本当なの?」
「……は?」



 ――ああ、もう。本当になんで彼はこうもわたしに爆弾を投げつけるのか。



 

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