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しおりを挟む一刻も早く会話を切り上げなければ、自覚した闇に引き摺り込まれそうな感覚に陥って恐ろしい。
だからこそ尚更嫌な男として彼女を挑発した。
「じゃあ、どうするの? 俺をセンセー達の所まで連れてく? 服装違反ですー、って。でもそんなのしたら面倒なことするなって睨まれるだけだよ」
「面倒?」
「そりゃね。いちいち親にチクるなんてダセェ真似なんかしねぇけど、教師からしたらそんなん知らないし。腫れ物に触るなんて誰だって嫌だろーし」
動揺のまま衝動的に口走ったせいで、思わず本音が見え隠れする愚痴を吐いてしまう。
こんな格好悪いこと言うつもりはなかった。
それなのに口を滑らせたのは、離れようと焦っていた気持ちが大きいのかもしれない。
(この期に及んでナニ悩み相談みたいな話しちゃってんの。すげぇ格好悪いんですけど。しかも離れようとしてんのにこれじゃ話長引くじゃん)
今までの自分では人前で弱みを見せるだなんて信じられない。自分の感情を吐露してしまったことが気恥ずかしくて、もう呼び止められようとも、このまま立ち去る気でいたのに。
「じゃあ自分から『腫れ物』にならなければいいじゃない」
今までの俺の悩みを吹き飛ばすかのように快活に言い放たれたことに驚いて、身体を硬くするとそのまま俺のシャッツのボタンが細い指で丁寧に閉められていく。
「……なんでこんなことするの?」
「だってもったいないわ。確かに明るい髪色は今すぐに直せないけどボタンをきちんと留めて、あとはピアスさえ外せばもう服装チェックはクリアするんだから」
「…………噂話とかで聞いてねぇの? この髪、地毛だし」
母から譲り受けた明るい髪。日本では目立つ色。
ミーハーな奴からはハリウッドで女優をしていた母のことを根掘り葉掘り聞かれたというのに。
自分もテレビやCMに出ていた過去がある。だからそれなりに知名度はあったと自負していたのに。彼女の口から飛び出たのはあっさりとした言葉だった。
「お生憎様。そういうこと教えてくれる友達居ないの」
「ふっ……はははっ! 最高! 友達居ないって……そんなんで知らねぇとかある?」
「だって事実だし……」
拗ねる彼女は俺の存在を学校での噂話くらいの存在だと思っているんだな。
(ってかテレビ見てなかったのか?)
そういえば彼女は休み時間も基本的に勉強ばかりしていた。そんなに肩肘張らなくてもいいんじゃないかと見ていたが、もしかしたら家でもそんな感じで娯楽のない生活なのかもしれないとこの時はそう考えていたが――後に彼女の家にテレビ自体が置いてなかったと知るのはもう少し先の話。
ジト目でこちらを見る彼女が可愛くて、可笑しい。
声に出して笑えば、胸がポカポカと温かい気持ちになっていく。
つい先程までは面倒臭い対象と思っていたのに、そんな思いが霧散していく。
(そうか。これが愛しいって気持ちか)
気付いたらもう遅い。なるほどな、と納得しながらも彼女を狙っている連中の事を一人一人思い浮かべながら、この先どうするか思案する。
巧妙な手口で彼女を取り囲もうとする奴らだ。
家の力、財力、この先の名声も約束されている奴らにどう対抗し、どうやったら守れるか。
強行な手段を取られたら、彼女なんか一溜まりもないだろう。
(俺が守らなきゃいけない)
絶対に彼女を不幸な目に合わせたくなかった。
籠の鳥なんかではなく、自由に羽ばたいてほしい。
この時は、まだそう思っていたのだ。
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