光と瘴気の境界で

天気

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プロローグ

腕の中で

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 体が、微かに上下に揺れる。

(……あれ……?)

 まぶたの裏がじんわり熱い。
 喉がひどく乾いて、胸の奥が痛むように締めつけられる。

 息が、うまく吸えない。

「……っ、は……」

 かすかな吐息は、森の冷たい空気に溶けて消えた。
 その小さな声に反応するように、抱えていた人物が足を止める。

 低く、落ち着いた声が頭上から降ってきた。

「……起きているのか」

 耳に響く声は、妙に安心感があった。
 けれど、うまく焦点が合わないまま、はるはぼんやりと目を開く。

 視界に映るのは、銀灰色の髪と青い瞳。
 鋭いはずなのに、どこか柔らかく光っている。

「……っ、く……るしい……」

 それだけを絞り出した瞬間、アルバートは腕に力を込め、
 はるの体が揺れないようしっかりと抱き支えた。

「瘴気だ。長く吸えば命に関わる」
「……しょ、……き……?」

 はるの小さな呟きに、アルバートは短く続ける。

「心配するな。もうすぐ安全圏に出る。……俺が結界を張っている」

 声は低く、寡黙なのに不思議と落ち着く。
 けれど、呼吸は浅く、肺が焼けるように苦しい。

 熱に浮かされた意識の中で、はるは弱く首を振った。

「……あ、つ……い……」

「発熱している。瘴気を吸った者に多い症状だ」

 足音がひとつ、二つ。
 周囲を歩く騎士たちの気配が遠くに感じる。

 その中で、唯一はっきり届くのは、アルバートの胸の鼓動だった。
 規則正しく、揺れのたびにあたたかい。

「……だい、じょぶ……?」

 はるの言う“誰が”を問うまでもなく、
 アルバートは一瞬だけ目を細めた。

「――心配するのはお前ではない」
「……?」

「――安心しろ。」

 その断言は、言葉以上の強さを帯びていて、支えてくれている腕に少し力が入り言葉の意味がすっと胸に入ってくる。

 あぁ……安心していいんだ……。

 胸の奥にある苦しさは変わらないはずなのに、
 その声が響いた瞬間だけ、痛みが少し薄れた気がした。

 熱で霞む視界の向こうで、アルバートの青い瞳が静かに揺れる。

「眠れ。ここから先は……俺が運ぶ」

 その言葉に、はるの意識はふっと緩む。
 重さに抗えず、ゆっくりと目を閉じる。

 最後に感じたのは、
 額に張り付いた髪を優しく払うように触れた彼の手の温度と、腕に支えられている確かな安心だった。



 ――そして、再び意識は闇に沈んだ。







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