15 / 57
14
しおりを挟む凪は、眠れていなかった。
目を閉じると、静けさの中に余計な考えが浮かぶ。
同じ屋根の下にいるのに、声が遠い。
――距離を、取られている。
それを理解してから、胸の奥がずっとざわついていた。
朝。
キッチンに立つと、鷹宮がすでにコーヒーを淹れていた。
「……おはようございます」
「ああ」
短い返事。
凪は、テーブルの端に座る。
沈黙。
この空気が、耐えられなくなってきている自分に気づく。
「……僕」
声が、少し震えた。
鷹宮は、カップを置く。
「無理に話さなくていい」
その言葉が、凪の胸を締めつけた。
「……違います」
凪は、視線を上げる。
「無理じゃ、ないです」
むしろ、話さなければ、壊れてしまう気がした。
「鷹宮さんが……」
言葉が詰まる。
「急に、遠くなった気がして」
鷹宮の眉が、わずかに動く。
「僕、何か……悪いことをしましたか」
凪の声は、抑えようとしても、滲んでしまう。
「もし、そうなら」
一拍置いて。
「ちゃんと、直します」
その言葉に、鷹宮の胸が痛んだ。
――違う。
直すべきなのは、自分だ。
「凪」
低く、しかしはっきりと呼ぶ。
「君は、何も悪くない」
「……なら」
凪は、唇を噛んだ。
「どうして、距離を取るんですか」
真正面からの問い。
逃げられない。
鷹宮は、しばらく沈黙したあと、言った。
「……近づきすぎた」
凪は、息を呑む。
「それが、君にとって負担になると思った」
「……負担」
凪は、小さく首を振る。
「そんなふうに、思ったことは……」
なかった。
むしろ、救われていた。
「……でも」
凪は続ける。
「遠くなるほうが、怖いです」
その言葉は、震えながらも、確かだった。
鷹宮は、ようやく理解する。
距離を取ることで、
凪の不安を、増やしていたこと。
「……すまない」
その謝罪は、初めてだった。
凪は、驚いたように目を見開く。
「鷹宮さんが、謝る必要は……」
「ある」
鷹宮は、凪のほうを向いた。
「俺は、自分の感情を、理由にした」
それ以上は、まだ言えない。
だが、抑えるのをやめた。
「凪」
一歩、距離を縮める。
「君を、手放したくないと思った」
凪の喉が、鳴る。
「……それは」
意味を、理解してしまう。
胸が、苦しい。
嬉しいのに、怖い。
「……僕」
凪は、俯く。
「そんなふうに思われる資格、ないです」
健気で、自己評価の低い言葉。
それが、鷹宮の心を強く揺らした。
「資格の話じゃない」
静かに、しかし強く。
「俺が、そう思っただけだ」
沈黙が落ちる。
凪は、涙をこぼさないよう、必死だった。
今、触れたら、壊れてしまいそうだったから。
二人の間にあるものは、
まだ名前を持たない。
けれど、確実に、
触れないでいた感情が、姿を現し始めていた。
21
あなたにおすすめの小説
僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ
MITARASI_
BL
I
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
Ⅱ
高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。
別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。
未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。
恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。
そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。
過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。
不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。
それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。
高校編のその先を描く大学生活編。
選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。
続編執筆中
君に不幸あれ。
ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」
学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。
生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。
静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。
静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。
しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。
「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」
玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。
それから十年後。
静は玲に復讐するために近づくが…
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
強欲なる花嫁は総てを諦めない
浦霧らち
BL
皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。
そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。
やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。
エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。
強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。
※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。
※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。
※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。
※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。
手の届かない元恋人
深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。
元彼は人気若手俳優になっていた。
諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる