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しおりを挟む鷹宮の声が、倉庫の冷たい空気を切り裂いた。
「――凪!!」
凪は、弾かれたように顔を上げた。
滲む視界の向こうに、確かにその姿がある。
幻じゃない。
そう思った瞬間、張り詰めていた何かが、音を立てて崩れた。
「……たか……みや、さん……」
喉が震え、声が途切れる。
「来るな!」
男の一人が怒鳴り、凪の前に立ちはだかる。
次の瞬間、鷹宮は一切の躊躇なく間合いに踏み込んだ。
怒りを隠しもしない、低い声。
「手を離せ」
その迫力に、男たちの動きが一瞬止まる。
「何だよ、てめえ」
「俺の――」
鷹宮は一度、言葉を切った。
そして、はっきりと言い切る。
「俺の大切な人に、触るなといっている」
凪の胸が、ぎゅっと締め付けられた。
そこへ、外から複数の足音が響く。
芦屋とSPが雪崩れ込むように倉庫へ入ってきた。
「警察もすぐ来ます」
芦屋の冷静な声に、男たちの顔色が変わる。
「ちっ……!」
逃げようとしたところを、SPに押さえ込まれ、床に組み伏せられる。
最後に残ったのは、父親だった。
「……凪」
その名を呼ぶ声に、鷹宮は鋭く振り返る。
「近づくな」
父は、怯えたように一歩下がった。
「俺は……助かりたかっただけだ」
「そのために、お前は何をしたんだ」
鷹宮の声は、静かだった。
だが、その静けさが何よりも恐ろしい。
「二度と、凪の人生に関わるな」
父は何も言えず、視線を落とした。
鷹宮はそれ以上、目もくれなかった。
急いで凪の元へ駆け寄り、縄を解く。
「…凪、凪。聞こえるか」
凪は、何度も瞬きをする。
体が熱く、寒く、感覚が曖昧だった。
「っ……はぁ…ごめっ……なさい……」
その言葉に、鷹宮の動きが止まる。
「謝るな」
きっぱりと言い切り、コートを脱いで凪を包み込む。
「何も悪くない」
抱き寄せられた瞬間、凪の体から力が抜けた。
「……こわ、かった……」
子どものような声。
鷹宮は凪を強く、しかし壊れないように抱きしめる。
「もう終わった。俺がいる」
凪は、鷹宮の胸に額を押しつけ、嗚咽を漏らした。
震えが止まらない。
涙が、止まらない。
――助かった。
そう思った途端、今まで堪えていた恐怖が、すべて溢れ出す。
「どこか痛むか?」
「はぁっ…さむくて、あついっ…から、だがへん…で」
サイレンの音が近づく中、鷹宮は凪を離さなかった。
芦屋がそっと声をかける。
「……救急も呼びます」
「頼む」
凪は、意識が遠のきながらも、必死に鷹宮の服を掴んだ。
「……はな、さないで……」
その小さな願いに、鷹宮は凪の耳元で囁く。
「離さない」
それは約束だった。
もう、「守るだけ」では済まされない。
凪の名前を呼びながら、鷹宮ははっきりと理解していた。
この手を離す選択肢は、最初から存在しないのだと。
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