この冬を超えたら恋でいい

天気

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 凪が部屋に戻ったあとも、鷹宮はしばらくソファに座ったままだった。

 グラスの中の水は、もうぬるい。

 ――困るか、だと。

 凪の問いが、何度も頭の中で繰り返される。

 困るわけがない。
 だが、楽になることもない。

 鷹宮は、ゆっくりと目を閉じた。

 凪を守る。
 それだけのつもりだった。

 傷ついた人間を、これ以上壊さないために、
 安全な場所を用意する。

 それなのに。

 あの夜、凪が自分から触れてきた温度。
 今日、名前を呼ばれたときの声。

 ――欲しい。

 思ってしまった時点で、もう線は越えている。

 鷹宮は、立ち上がり、ベランダに出た。

 冷たい空気が、肺を刺す。

 夜景の光を見下ろしながら、拳を握る。

 「……馬鹿だな」

 自分に向けた言葉。

 凪は、まだ不安定だ。
 頼る先を、間違えれば、また傷つく。

 ――それでも。

 凪が、他の誰かに触れられる想像だけで、
 胸の奥が黒くなる。

 「……独占欲、か」

 自嘲する。

 大人の余裕なんて、とっくにない。

 部屋に戻ると、廊下の向こうに、凪の部屋の灯りが消えているのが見えた。

 もう、眠ったのだろうか。

 鷹宮は、その扉の前で足を止める。

 ――起こすな。

 そう自分に言い聞かせる。

 ノックすれば、答えてくれるだろう。
 凪は、拒まない。

 それが、何より怖かった。

 鷹宮は、踵を返し、自室へ向かった。

 ベッドに腰を下ろしても、眠気は来ない。

 天井を見つめながら、思う。

 ――このままじゃ、駄目だ。

 守るふりをして、縛っているだけになる。

 凪が、自分の気持ちに気づき始めていることも、分かっていた。

 あの目。
 あの間。

 逃げ場を、作らなければならない。

 だが同時に、
 もう少しで手を伸ばしてしまいそうな自分がいる。

 「……この冬を越えたら」

 ぽつりと、独り言が落ちた。

 凪が、もう少し強くなって。
 自分が、覚悟を決められたら。

 その時は。

 「……恋でいい、か」

 答えは、もう決まっていた。

 ただ、言葉にする勇気が、
 まだ足りないだけだった







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