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あざといやり方
するとセリカが「そういえば」と言わんばかりに鞄の中を探り、机の上に一枚の封筒を放り出した。
鮮やかな桃色の、いやらしいほど光沢を帯びた紙。金の箔押しがこれでもかと主張しており、見る者の目を刺す。見慣れた“シルビア様特製”の招待状だった。
「……これ、朝にシルビアから渡されたの」
セリカは忌々しげに封筒を指で弾いた。
「カレンが登校する前だったんだけど、わざわざ待ち構えてたみたいで。すっごく偉そうに胸を張って、“親友なのに招待されたことがなかったのでしょう?私は違いますわぁ”って、わざとらしい笑顔で渡してきたの」
言葉を真似るセリカの口調がまた腹立たしくて、私は思わず苦笑してしまった。
容易に目に浮かぶ。シルビアはいつだって、相手の心をざらつかせるような言い方を選ぶ。
声色は甘く、仕草はお淑やかに。それでいて、しっかりと刃を忍ばせてくるのだ。
「姑息ですわね」
ステラが静かに吐き捨てた。表情は凍りついたように冷ややかで、唇の端がぴくりと吊り上がる。
セリカは小さく頷き、さらに続けた。
「ね? まるで私たちの関係を壊そうとしてるみたいで。でも、私は分かってた。カレンが私を招待しなかったのには、きっと理由があるって。だって、カレンは大事な時に絶対に私を外さなかったから。今日、ちゃんと理由を聞いて、やっぱりそうだったって思えたの。だから、これは私達の様な人が行くべきじゃない」
そう言い切って、セリカはその招待状をまるで汚物のように指先で突き、遠ざける。
ステラがすぐに相槌を打つ。
「まったく、品位に欠ける招待状ですわ。お父様に見せていただいた時、家族全員が呆れてしまいましたの。カレンの時の招待状は、真っ白な封筒に繊細で控えめな華が描かれていて、本当に息を呑むほど美しいものでした。あの時は、紙一枚にも誇りが宿っていると感じましたのに」
セリカも深く頷き、唇を尖らせる。
「私も見せてもらったことあるから覚えてる。あれは“本物”だったよ。これはただ派手に飾り立てればいいって勘違いしてるだけ。見た瞬間に、シルビアらしいなって思った」
二人の真っ直ぐな言葉に、胸の奥が熱くなった。
私の努力は、無駄じゃなかった。
細かい所まで気を配り、誰もが気持ちよく招待を受けられるよう心を砕いてきたこと。二人はちゃんと覚えていてくれた。
「ありがとう……」
込み上げる涙を堪えながら、笑みを返す。
するとステラがわずかに目を細めて、真剣な声音で続けた。
「しかし、こうなると、ゼット殿下の件は賛成せざるを得ませんわね。アルファード殿下の誕生日パーティーの行く末を思うと、背筋が寒くなります」
彼女の言葉に、私も深く息をついた。
「知らないわ。何度も言うけど、私にはもう関係のないことだから」
そう告げた瞬間、二人が驚いたように顔を見合わせた。
「どうしたの?」
と私が首を傾げると、ステラが真面目な声で言った。
「いえ、本気で前向きになられたのだと感じましたの」
「だね。もっと引きずってると思ってたから」
セリカも素直に頷く。
私は少し笑って肩を竦めた。
「私もね、ずっと引きずると思ってた。でも……オデッセイ様と会えることが、今は本当に楽しみなの。あの方の役に立ちたくて、国外のことを必死に勉強してるのよ」
「……なるほどね」
セリカが感心したように呟き、ステラは小さく肩をすくめた。
「出ましたわね、国内より国外を見ようとする奇妙な思考。まったく、カレンらしいですわ」
呆れたような二人に、私は頬をふくらませて「いいじゃない」と反論した。
そんな空気のまま、ちょうどケーキとお茶が運ばれてきた。香ばしい紅茶の香りと甘いクリームの匂いに包まれると、張り詰めた気持ちがふっとほどけ、私達は笑いながら、ケーキが美味しいとか、今度ある試験の事とか、そんな話で盛り上がった。
鮮やかな桃色の、いやらしいほど光沢を帯びた紙。金の箔押しがこれでもかと主張しており、見る者の目を刺す。見慣れた“シルビア様特製”の招待状だった。
「……これ、朝にシルビアから渡されたの」
セリカは忌々しげに封筒を指で弾いた。
「カレンが登校する前だったんだけど、わざわざ待ち構えてたみたいで。すっごく偉そうに胸を張って、“親友なのに招待されたことがなかったのでしょう?私は違いますわぁ”って、わざとらしい笑顔で渡してきたの」
言葉を真似るセリカの口調がまた腹立たしくて、私は思わず苦笑してしまった。
容易に目に浮かぶ。シルビアはいつだって、相手の心をざらつかせるような言い方を選ぶ。
声色は甘く、仕草はお淑やかに。それでいて、しっかりと刃を忍ばせてくるのだ。
「姑息ですわね」
ステラが静かに吐き捨てた。表情は凍りついたように冷ややかで、唇の端がぴくりと吊り上がる。
セリカは小さく頷き、さらに続けた。
「ね? まるで私たちの関係を壊そうとしてるみたいで。でも、私は分かってた。カレンが私を招待しなかったのには、きっと理由があるって。だって、カレンは大事な時に絶対に私を外さなかったから。今日、ちゃんと理由を聞いて、やっぱりそうだったって思えたの。だから、これは私達の様な人が行くべきじゃない」
そう言い切って、セリカはその招待状をまるで汚物のように指先で突き、遠ざける。
ステラがすぐに相槌を打つ。
「まったく、品位に欠ける招待状ですわ。お父様に見せていただいた時、家族全員が呆れてしまいましたの。カレンの時の招待状は、真っ白な封筒に繊細で控えめな華が描かれていて、本当に息を呑むほど美しいものでした。あの時は、紙一枚にも誇りが宿っていると感じましたのに」
セリカも深く頷き、唇を尖らせる。
「私も見せてもらったことあるから覚えてる。あれは“本物”だったよ。これはただ派手に飾り立てればいいって勘違いしてるだけ。見た瞬間に、シルビアらしいなって思った」
二人の真っ直ぐな言葉に、胸の奥が熱くなった。
私の努力は、無駄じゃなかった。
細かい所まで気を配り、誰もが気持ちよく招待を受けられるよう心を砕いてきたこと。二人はちゃんと覚えていてくれた。
「ありがとう……」
込み上げる涙を堪えながら、笑みを返す。
するとステラがわずかに目を細めて、真剣な声音で続けた。
「しかし、こうなると、ゼット殿下の件は賛成せざるを得ませんわね。アルファード殿下の誕生日パーティーの行く末を思うと、背筋が寒くなります」
彼女の言葉に、私も深く息をついた。
「知らないわ。何度も言うけど、私にはもう関係のないことだから」
そう告げた瞬間、二人が驚いたように顔を見合わせた。
「どうしたの?」
と私が首を傾げると、ステラが真面目な声で言った。
「いえ、本気で前向きになられたのだと感じましたの」
「だね。もっと引きずってると思ってたから」
セリカも素直に頷く。
私は少し笑って肩を竦めた。
「私もね、ずっと引きずると思ってた。でも……オデッセイ様と会えることが、今は本当に楽しみなの。あの方の役に立ちたくて、国外のことを必死に勉強してるのよ」
「……なるほどね」
セリカが感心したように呟き、ステラは小さく肩をすくめた。
「出ましたわね、国内より国外を見ようとする奇妙な思考。まったく、カレンらしいですわ」
呆れたような二人に、私は頬をふくらませて「いいじゃない」と反論した。
そんな空気のまま、ちょうどケーキとお茶が運ばれてきた。香ばしい紅茶の香りと甘いクリームの匂いに包まれると、張り詰めた気持ちがふっとほどけ、私達は笑いながら、ケーキが美味しいとか、今度ある試験の事とか、そんな話で盛り上がった。
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