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本編
506 誰かの仕業
研究用の魔物たちが飼育されている部屋に入ると、
「グルルルル!」
「ガルッ!」
「ゴォアッ!」
「シャーッ!」
獅子、虎、熊、蛇など。
獰猛で大きな魔物が、小さな魔物を取り囲んでいた。
「脱出会議?」
「いや、もう脱出してるじゃん」
全ての檻から魔物たちは抜け出して自由のみである。
そして、明らかに会議ではなく、捕食の場面だった。
「ぶひぶひ……っ」
取り囲まれている小さな魔物には見覚えがある。
調理実習室で飼われていた子オークのピーちゃんだった。
「あれは、ピーちゃん……」
「ピーちゃん? なんだし? 知り合い?」
「いや、食材」
調理実習のために、料理研究クラブのマッドな料理を食べさせられ育てられていた存在。
なんだか、そう考えると少し可哀想に思えてくる。
「食材なら、誰かがここの魔物たちに餌をあげてるってことだし?」
「……わからん」
ドアの隙間から覗いて確認するが、中に人の存在は見られなかった。
そもそも、餌をやるために一々檻から魔物を出すのかって話。
「七不思議って、勝手に檻の鍵が開いてしまうとかそんな感じだっけ?」
「ううん」
俺の問いかけにジュノーは首を横に振る。
「聞いた話にはそんなのなかったし」
「だよな」
夜な夜な魔物たちが抜け出すための集会を開く。
それがジュノーから聞いた最後の七不思議だった。
だが、今目の前にあるのはもろに脱出後。
さすれば脱出会議ではなく。
誰が子オークを食べるかの話し合いの様にも思えた。
食わずに取り囲んでガルガルグルグル唸ってるしね。
「ひょっとして、魔物たちの脱出会議の成果がたった今実った結果かもしれないし?」
「どうだろ」
だとしたら、とんでもないタイミングで宿直業務を受けてしまったな。
ある程度の魔物なんて俺は平気だけど。
もし、普通の宿直のおっさんがこの場に来ていたら危険な状況だっただろう。
しかし、違和感がすごい。
檻に入れられた魔物たちが外に出る手段は、檻や鍵を壊すしかない。
だが、錠前はすべて正規の手段で開けられているようだった。
そこから結びつく答えは──、
「ねえ、ピーちゃんそろそろ食われそうだし?」
「え?」
「今、お尻と両足をコバルトライオン、あとは他で分けろって話がまとまったし」
「あ、会話聞こえてたんだ?」
俺が何も言わなくても勝手に説明してくれるとは、さすがサモンモンス達の通訳係である。
魔物言語のプロフェッショナルだ。
「トウジ、餌だったとしてもなんか可哀想だし」
「わかってるよ、助ける」
ピーちゃんはそもそもここじゃなくて調理実習室の檻にいた。
どっちにしろ食べられてしまう運命なのだけど、今ではない。
ピーちゃんが魔物に食われてしまえば、宿直担当の俺の管理責任問題を問われる。
だから、ここにいる魔物は全部檻の中に戻し、ピーちゃんも元の場所に返すのだ。
「しかし、気になるなあ……ピーちゃんがなんでここに……」
開いている鍵よりも、さらに謎が深い部分である。
ピーちゃんが調理実習室の檻の中にいたのは、夕方頃に確認済みだった。
「七不思議、一つ追加? 八不思議になるし?」
「いや、多分面白半分でここに連れてきた奴がいるだろ」
敵意を向けたら襲ってくる精霊。
トラップ型や、走って踊るだけの悪魔。
俺が実際に目にした七不思議はどれも噂通りの代物だった。
そんな状況で急に七不思議の連中がアドリブを効かせる訳がない。
故に、開けられた鍵とピーちゃんから結びつくのは、誰かのいたずら。
過去にライデンをいじめていたクソガキもこの学院の生徒である。
面白半分のストレス解消でおいたが過ぎるアホは必ずいるだろうよ。
俺の世界にも、そうやって小動物を殺す糞ガキがごまんといたんだから。
「とにかく、この状況をなんとかしよう」
胸糞悪いガキも探さなきゃいけなくなったが、それは魔物を全部檻に戻してからである。
まったく、とっ捕まえたらロイ様かキングさんを呼んで折檻だな、折檻。
「ったく……なんで俺がいる時に──」
悪態をついている最中だった。
──ドン!
と、背中に強い衝撃を感じる。
「うおっ!?」
「わわっ!?」
思いっきり蹴られた様な感覚とともに、俺とジュノーは部屋の中へと強制的に押し込まれた。
体が浮いた状態ですぐに後ろを振り向く。
黒い影が、廊下の奥に立っていて杖を俺に向けているのが見えた。
ライトで照らすと、フードを深く被りそのまま窓の外へ飛び出していく。
「あいつか! この犯人! くそっ!」
暗がりで顔を確認することはできなかったのが悔やまれる。
つーか、さっきの攻撃は魔法だよな?
だとしたら、いたずらどころの騒ぎではない。
ガチで俺を殺しにかかってきている節がある。
これはすぐに追いかけないと!
「トウジ! 魔物達がこっちに気づいた! 襲ってくるし!」
「マジか!」
正面を見ると、ピーちゃんを食べようとした魔物達が俺たちの方を向いていた。
どうやら、人である俺に対してかなりの殺意を持っている様である。
あいつを追いかけるのは、先にこの場をなんとかしてからか……ああもう。
「ジュノー! ここは俺がなんとかするからあいつ追いかけれるか!?」
「うん! 任せるし!」
「外に水島がいるはずだから、もし近くにいたら手伝ってもらえ!」
エコーロケーションは、索敵にかなり有効だからな。
「わかった!」
「頼んだ!」
飛んでいくジュノーを見送った後、俺は魔物達に向き直る。
「グルルルル!」
「ガルッ!」
「ゴォアッ!」
「シャーッ!」
たくさんいる魔物達の中で、特に強そうな四体の魔物が俺を威嚇する。
獅子、虎、熊、蛇。
確か、コバルトライオン、ウィンドタイガー、ブラッドベアー、ツインコブラだっけな。
研究用とされる、それなりに貴重な上位種の魔物である。
上位種ということで、それなりに強い魔物なのだが……。
ロイ様には敵わないだろう。
「ロイ様」
水島と自宅にいるポチを残し、残りの一枠を入れ替える。
「何用か……とは聞かずともわかるな、さっさとこの場を制して真なる敵を追うぞ、盟主よ」
「うん、まとめて叩きのめして2度と檻から出たくない様にしてやれ」
「承知。集え王室諸君、格の違いを見せつけてやろう──」
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