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本編
517 綺麗なオスロー
「まったく……呼び出さないと来ないとは、なんという体たらくだというんだ君は」
「すまんす──」
オスローの研究室へと向かうと、開口一番そう言われた。
適当に謝っておこうと彼女に目を向けて、息がつまる。
「プロジェクトのオーダー主として、少しは顔を出しても……って、どうかしたのか?」
「いや、あれ? オスロー?」
「はあ……? いきなり何を言い出すかと思えば、失礼な」
「いやいや、え?」
なんと、目の隈が綺麗さっぱり消え去っているではないか。
しかも、ボサボサでギトギトだった髪もサラッとしている。
痩せていた頬も、少しだけふっくらしているようだった。
き、綺麗なオスロー……!!
ここはなんだ、劇場版か?
「えっ? この人、本当にオスロー先輩ですか?」
俺の後ろから顔を出したライデンも同じような反応を示す。
それを聞いて、学院でもパンダ=オスローだったのかなと思った。
「私がオスローじゃなかったらいったいなんだと言うんだ?」
「いや、ただの美少女?」
「なっ」
オスローから不衛生感と不健康感、そして目の隈。
それを取り除いたら、もう年相応の女の子しか残らない。
可愛いモフモフが大好きな、美少女やん。
「い、今まで私をなんだと思っていたんだ!」
「マッド&ワーカーホリックなのが、取り柄である研究者?」
「……その言葉、まさかとは言わないが褒め言葉だろうか?」
「うん」
「君、人様の顔を身体的特徴で認識するのは改めた方が良い」
「あ、はい」
「大方、他の人にもそんな風に、君の中で勝手にあだ名をつけて呼んでいるってこともあるのだろう? もっとも美少女だと評された手前、私は寛大な心でそれを咎めることはしないが、もしそれが周りに露呈した場合、損をするのは君の方だということをしっかりと覚えておくことだな。まったく、私が実際には美少女だったから良いものの、化粧が濃い人が化粧を落とした時、今と同じような反応をしたら嫌われるぞ。まったく私が美少女だったから良いものの、な」
「お、おう……」
くどくどとしたワンブレス説教。
それはまさしくオスローだ。
よかった、ドッペルゲンガーじゃない。
「すまんすまん、前と見た目が変わってたから驚いたんだよ」
「まったく……君というやつは……」
「うん、やっぱりお前はオスローだ」
「……君、私の言葉を聞いてなかったのか? やけに腑に落ちたような表情をして、いったい今のどこにオスロー成分を感じたんだ? いや、美少女オスロー成分」
もう良いよ、何回美少女っていうんだ。
なんとなくだが、前より少し自信がついたというか。
いや、自身は元からあった奴なんだけど。
纏っていた雰囲気というものが明るく取っ付き易くなっていた。
「ちゃんと言われた通り、毎日風呂に入り、毎日三食摂り、毎日しっかり寝るようにしている」
「おおー」
不健康親子を見かねたパインのおっさんが来てくれて料理を振舞ってくれているらしい。
パインのおっさんがいなくなったら社食も終わりかなと思っていたけど、ちまちまできる時は続けられているようだ。
それによって、健康的な生活を取り戻したオスローは、少しふっくらしてとても健康的に生まれ変わったのである。
「服のサイズが背丈に合わせてやや大きかったのだけど、ジャストサイズさ。しかし、胸は取り戻せないようだけど」
マイヤーよりも絶壁となった胸を見下ろしながら不満そうな顔をするオスロー。
まあ、成長期って大事だろうし、仕方がない。
このまま栄養状態をいい感じに保てば、まだこれからって可能性もある。
「これからだよ、これから」
「そ、そうか……だが、改めてこうして変わった姿をさらけ出すとちょっと恥ずかしいな……っていうか見つめないでくれたまえ。君の熱心な瞳で見つめられると、さすがの私も照れる」
いや、それにしてもパンダみたいな目の隈が綺麗になくなるってヤベェな。
おっさんの料理のおかげなのだろうか……。
そんなどうでもいいことを考えながら、オスローの顔を眺めていてもう一つ気づいた。
「あれ、化粧もしてる?」
「む。だから君は私をなんだと……私だって年頃の美少女だから、それくらいするだろう?」
「へー、珍しいね」
「珍しいという表現はあっている。今までほとんど手をつけてこなかったからな。しかし、もともと興味がなかったわけではない。だが、見た目が普通の女性よりも劣っているのは理解していたから、研究一筋の私がその見た目に気を使っても仕方ないだろうと思って触らなかったんだ。化粧をする時間のリソースを研究に当てて来た訳だから」
「うんうん」
年頃の女の子がそうやって見た目に気を使うことは良いことだ。
なんとも、人間らしさを取り戻して素晴らしいことだと思った。
「健康体になって時間に余裕もできたから、天才である私も一つ化粧というものに手をつけて見て、さらなる美少女へと生まれ変わったのだ。化粧というのは言わば顔の設計、魔導機器の設計に長けている私には造作もない」
「でも1回目失敗したんやんなー? ナハハッ!」
誇らしげな表情をするオスローの言葉の後、俺の後ろのドアから声が聞こえた。
マイヤーの声である。
振り返ると、マイヤー、イグニール、ジュノー、ゴレオの女性陣が研究室に顔を覗かせた。
「もー、大変やったで? な? イグ姉?」
「そうね」
ニシシと笑うマイヤーに、イグニールが頷く。
「ぐ……き、君たち、ちょっと今は私が話している時だから、その話は後に……」
「トウジ、一昨日オスローの研究室に行ったらカラフルパンダがいたし! でもそれオスローだったし!」
「わあああああ! それは言わない約束だろう!」
ジュノーの暴露に焦るオスロー。
なるほど、話は理解できた。
どうやら一昨日、オスローは一人で化粧をやっていたそうだ。
だが、初めてやって見た化粧は難しく、とんでもない仕上がりだったらしい。
そんな場面に、研究所に顔を出したマイヤー。
手伝いとして同行していたイグニール、ジュノー、ゴレオが目撃。
それから、急遽オスローに化粧を教えることになったそうだ。
「……ぐぬぬ、せっかくできる美少女を演出していたというのに」
「何言うてん、なんでも完璧はつまらんで? 少しは欠点あったほうがええって」
「マイヤーは飲み過ぎる欠点を直したほうが良いわね……」
イグニールの言う通りだ!
その欠点は大きなマイナス点である。
今だって……。
酒の勢いでそのまま消えてしまったウィンストのことが心配なんだから……。
あいつどこ行ったんだろう……。
「それにしても、一回やっただけで覚えるって、やっぱり天才ね」
「あ、ありがとう……」
イグニールが前に出てオスローの顔をじっと見ながらそう微笑む。
出た、聖母の微笑み。
これには余裕しゃくしゃく仏頂面のオスローも、顔を赤くする。
同性も有効なんだよな、あの微笑みの雰囲気。
「せや、トウジこんなところにおって珍しいやん、どうしたん?」
「ああ、オスローから呼び出されてたんだよ」
さらっと、話を切り替えるマイヤーに答えておく。
「浮遊結晶の実験に立ち会えって言われててね」
「うちもや、ついにヒヒイロカネを使ったんがお披露目やんな! 楽しみや!」
「そうだね」
「あれ、トウジ……さっきからトウジの後ろにいる彼って、ライデンくんじゃない?」
「ど、どうも」
ずっと置いてけぼりにされていたライデンに、ようやく話が回って来た。
そうだそうだ。
浮遊結晶の前にライデンのレシピをオスローに見せておくつもりだったのだ。
ライデンのノートに書かれたレシピは、魔導機器開発の天才オスローが手を加えたらどうなるか。
これを確認するために連れて来た、と言うわけでもある。
ライデンしか書けないのか。
他の人でも良いのか。
その違いを理解しておくことは、かなり重要。
ちなみに俺は書き加えても反応なしだった。
「ライデンの魔導機器のアイデアを、先輩であるオスローにちょっと見て欲しくて連れて来たんだよ」
「よ、よろしくお願いします!」
「ふむ、ならば先にそちらに取りかかるとしよう。浮遊結晶の実験は場所を移さないといけないから」
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