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本編
561 口は災いの元
しおりを挟む「勇者は強かったよ。目の前から一瞬で消えたと思ったら、いきなりポセイドンがぶっ倒れてた」
「一瞬で消える……?」
「多分AGIが呆れるほどあったんだろうな、俺も一瞬何が起こったかわからなかったし」
「は、はあ……」
ステータスの暴力だから、フル強化されたらとんでもないことになるもんな。
俺も装備もユニーク等級のフルセットでかなりのステータス補正値を持つ。
もしそんな装備を勇者がつけていたら……軽く全てのステータスが10万越えか。
やばい世界だ。
昔は、そういった化け物クラスが闊歩していたと言うのだろうか。
「それでガチギレしたポセイドンが、本気で津波を起こしたんだ」
「海沿いに住んでる人からすれば、はた迷惑な喧嘩ですね……」
「だよな。本当にやばそうな状況だったんだけど、勇者はそれも軽く止めてたよ」
「ええ……」
海沿いを破壊せんばかりの、ポセイドンの本気の津波。
それを勇者は剣を横薙ぎに振るっただけで止めてしまったらしい。
「その後周りに被害を出すような攻撃をするなってボコボコにされてた」
「マ、マジすか……」
最初は梅雨払い程度で済まそうとしていた勇者なのだが……。
ポセイドンの津波に見かね、一方的にボコったそうだ。
「その後ポセイドンは自信をなくて50年くらい大人しくしてた。今でも笑える」
『言うな! このお喋り魚めが!』
「誰彼構わず喧嘩を売ると、俺がこの話を流布して回ることを忘れるなポセイドン」
『クソが! あれ油断しただけだ!』
「プククク、強がるのはよせ。どう考えてもお前の大敗だよ」
『グヌヌヌヌヌ……!』
「シーモンクさん、あんまりポセイドンさんを焚きつけない方が……」
自分の汚点を晒され歯噛みするポセイドン。
それを見ながら悪い顔して笑うシーモンク。
なんとなく、嫌な予感がした。
戦いの最中、こういう回想的なものを聞くと、言われた本人はムキになる。
それこそ、ポセイドンみたいな好戦的な連中はボルテージを上げてしまう。
『……だったらあの時より、成長した我の津波を見せてやろう』
「あ、やっべ、あの目マジのやつだ」
ほら! 言わんこっちゃない!
絶対こうなると思ったよ。
口は災いの元、と言うが……シーモンクはそれをわかっちゃいない。
いや、わかっていても止められないのだろうか?
なんとなく、海賊に捕まった理由も、変なことを言いまくったんだろう。
だって、減らず口と呼ばれるやつなんだしな。
「ストップストップ! つーか、お互いもうたくさん戦ったでしょ!」
津波は500隻あった船を一瞬で押し流してしまえるほどの大技。
あの時は方向を沖合に定めていたが、全方位にされるとやばい。
俺もやばいのだが、近場の島に迷惑がかかってしまうと思えた。
『あれから長い時をかけて編み出した、我の本気の技を受けてみろ、スライムの王!』
「良いだろう、我に見せてみろ」
「キングさん、ダメだよ了承しちゃ!」
ダメだ、聞いちゃいない。
俺らが見てないと、見ろと言うくせに。
こっちが聞けと言っても聞かない。
バトルジャンキーも大概にしろよ!
『ハアッ!』
ポセイドンが槍を掲げた瞬間、キングさんの周りにいくつもの無数の歪みが発生する。
地震による衝撃を起こす際の起点のようなものだ。
それでポセイドンが何をするか読める。
恐らくガンマナイフの要領だ。
周囲で起こした衝撃と津波を一点に集約する。
それが強いのかどうかわからんが……。
振動による衝撃が折り重なるととんでもないことになりそうだった。
同時に、副次的に巨大な津波も発生して、海がやばそう。
「これは、良い技だ……さすがの我も全てを相殺することはできないな」
「キングさん!?」
「主は空へと離脱せよ! 我は死なぬが、主が危険である!」
だから、周りの被害だってば。
一応言っておくが、ここからそう遠くない位置に元オデッセイ海賊団がいる。
その向こうにはみんながいる島がある。
それに手出しされないために、今この場で戦いを受けたって言うのに……。
「本末転倒やんけ!」
マジで!
「やべ、逃げよ」
「シーモンクさん、止めないと!」
「あいつは言っても聞かないやつだぞ?」
焚きつけた本人が何言ってんだ。
責任感全くねえな、こいつ。
俺もないけど、俺以上にない。
海で自由に過ごしているやつらってこんなんばっかりかな?
海賊然り。
『喰らえ、スライムの王よ! 我の必殺技を受けて見ろ!』
「プルァアアアア!」
ボルテージが上がったポセイドンはもう止まらない。
こうも人の話を聞かないやつらが多いと、対話勢の俺が辛い。
「ワルプ、止めるぞ! キングさんを立てて能力使わないとか、もう関係ない!」
「ォォォ……」
「能力聞かないのをどうすれば良いかって? 俺もキングさんに加勢して隙を作るからこい!」
「ォォォ……」
それでも大丈夫か、と言いたげなワルプだが仕方ない。
今はやるしかないのだ。
ポチを戻して、ワシタカくんを呼ぶ。
万が一の時に備えて、イグニールたちを避難させるためだ。
「ワシタカくんは、オデッセイ島に戻ってイグニールたちを連れて離脱!」
「ギュアッ!」
ワシタカくんを見送った後、俺は小人の秘薬を6つ取り出してそれぞれに投げ渡した。
「キングさん! ワルプ!」
狙いはペナルティを利用した10倍化。
キングさんも、ワルプも、それで特大になる。
俺も使う理由は、余波で死なないようにするためだ。
ペナルティを利用したものは自分には使いたくなかった。
しかし、今はしのごの言ってらんないだろう。
「まったく余計な手間かけさせやがって! 結局こうなるじゃんか!」
飯代払えよこの野郎。
飯食わせて良い感じに場を戦いの雰囲気から解放しようと思っていたのに。
バトルジャンキーはこれだから!
『ぬう!? 巨人!? 冒険者、貴様も巨人族か!!』
「違うけど、良いから技止めてください!」
『もう無理。威力強すぎて、我も捨て身、諸刃よ』
「ざけんな!」
複数の震源地から、長大な揺れを観測。
そしてキングさんのいる場所に、集約された。
副次的に、全方位に向かって起こる巨大な波。
高波。
海が荒れる、その水面を俺は全力で走る。
=====
トウジ「こなくそーーーーーーーー!」
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