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本編
560 シーモンクの語り
しおりを挟む『さて、腹ごなしも終了したから次こそ蹴りをつけてやろう!』
「待ちくたびれたぞ海の支配者。やってみろ、我に見せてみろ」
当然ながら巨体を持つポセイドンの食事量はえげつない。
作り置きしていた牛丼では足らず、急遽ポチを召喚して料理を振舞ってもらった。
「ありがとな、ポチ」
「ォ、ォン……」
ワルプの頭の上での調理は特に問題ないのだが、量が量。
暴食のグルーリングと同じくらい食べるから、ポチが少し疲れている。
ボスダメ100%上乗せの特殊能力を持ったビリーと交代だったから。
ポチを戻してビリーを再び召喚しようと思ったのだけど。
キングさんが本来の力でぶつかりたいとおっしゃったのでポチは継続。
俺の膝でくつろがせながら、そのまま一緒に見物することになった。
「ワルプもありがとな」
「ォォォ」
海の上で微動だにしないワルプこそ、真の強者だと言えるだろう。
さすがです。
もはや海地獄ではなく、海天国と名乗っても良いでしょう。
「しかし、ポセイドンの奴……やっぱり本気だな……」
「何がですか?」
シーモンクのつぶやきに耳を傾ける。
「いや、なろうと思えば普通の人間サイズになれるのに、ならなかったんだよ」
「えっ」
なれるんかい。
だったらポチがこんなに疲労困憊になるまで飯を作らなくて済んだんだ!
ポチかわいそう!
もふもふしよ。
「まあ、それでも食事量は変わらないけどだ。あいつは特別な人魚族だから」
「人魚……いるんですか……?」
下半身が魚だから、人魚っぽいななんて思っていたけど。
やっぱり人魚だったんだ、ポセイドン。
「だいぶ昔にほとんど滅んだけど、いるよ」
「へー」
俺の元いた世界では空想の産物だったが、やっぱり異世界すごい。
人魚っつったら、海に漁師を引きずり込むような怖いイメージがあるけど。
もっぱら日本ではエロい印象しかない。
俺の想像する人魚は貝殻水着を着てうっふんあっはん誘惑するタイプ。
されたい、誘惑。
引きずりこまれたい、海に。
さて、話を戻す。
「人間サイズになれることと本気って関係あるんですか?」
「変身はそこそこ魔力を使うからね」
「ああ、なるほど」
つまりは、キングさんとの対決用にできる限り温存しておきたかったってことか。
ポセイドンを本気にさせるなんて、キングさんすごい。
いや、キングさん相手にここまでやれるポセイドンがすごいのか?
わからん。
どっちがすごいのかまったく見当もつかなくなってきた。
『これを受けてみろスライムの王よ!』
「望む所である!」
ズバアアアン、ドボオオオン。
うん、次元が違い過ぎて理解が追いつかないアレだ。
戦いの感想を真面目にしなくなったのではなく。
本当に理解が追いついてないだけだ。
「シーモンクさん、どっちが勝つと思いますか?」
「うーん、身内だから俺はポセイドンさんを応援するけど……正直わからない」
「うちのキングさんと一緒で、ポセイドンさんも負け知らずっぽいですからね」
適当に相槌を打っていると、シーモンクが言う。
「いや、ポセイドンでも勝てない奴はいるぞ」
「え? そうなんですか?」
「うん、最近は誰彼構わず喧嘩を売らなくなったから、負けてないけど、昔は結構ボコボコにされてた」
「あのレベルがボコボコだなんて……」
想像しがたい。
いったい誰にボコボコにされたと言うのだろうか?
「昔勇者に喧嘩を売って、こっぴどくやられてたなあ」
「えっ」
懐かしそうに言うシーモンクだが、俺は気が気じゃなかった。
昔の勇者ってことは、あいつらの前任である。
人と魔族が争っていた頃のちゃんとした勇者。
各国に散らばる勇者用の装備を身につけた、フル装備勇者。
「本当に勇者に負けたんですか……? ポセイドンさん」
「うん、ボコボコに圧倒されてたよ」
「ええ……」
キングさんと互角の戦いを繰り広げるポセイドンが圧倒される。
昔の勇者って、どんだけ強かったんだろう。
やはり、敵対しないように善処する俺の行動は正しいのか。
「どんな戦いだったか、詳しく聞いてもいいですか……?」
「あんまり負けた戦いのことを話すとポセイドンが怒るけど……まあ、いいか、俺おしゃべり大好きだし」
さすがは減らず口のシーモンク。
彼はポセイドンが負けた時の勇者との戦いを楽しげに語ってくれた。
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