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本編
572 不平等条約のトウジ
「とりあえず、この辺の植物もらって帰って良いですか?」
やっぱ明日にしてくれないというこの男、ダンジョンコア。
まあ、引きこもりの性だよなと受け入れつつ、そんな提案。
この一つの島と言う場所にやってきてから、ずっとだった。
ずーっと、俺の採取に物珍しい植物がヒットし続けている。
泉の水だって、なんだか特殊な物のように感じていた。
周りに生えているのはフェアリーベリーのような植物。
似ているが、違う。
だから浄水ではなさそうだな、なんて思っていたのだ。
「もってけもってけ」
「どうも」
依然としてこちらを振り向きもしない黒髪の男に、一礼する。
まず先に泉の水を見せていただきましょうか。
【澄水の泉】
浄化の力を持つことはないが、何ものにも汚されない。
そんな澄み渡る水。
……これは、あたらしい素材?
澄み渡る水と書いて、澄水。
ふーむ。
何ものにも汚されないとは、いったいどういう性質なのだろう。
この水は魔力を持たないとか、もっても一定を保つとか?
どっちにしろ、なんとなくキングさんが好きそうだなと思った。
ほら、キングさんのボディって何かを装備することも拒むしね。
「汲んで帰ろっと」
「あれー、お互い何か話すと思ったのに、本当に汲んで帰るのかしらー?」
「え、まあ明日が言って本人も言ってますし?」
散々もったいぶって俺をここに連れてきたカリプソは呆れていた。
いやいや、こう言うのは連れてきた本人がアポ取っとけよ……。
俺には話がある風な感じの紹介してたやんけ、と心の中で抗議だ。
「ちょっとスローフ! 良い加減に起きなさいってば!」
「うあー」
「ペイルも甘やかすのをやめて、しっかりしなさーい!」
「私は、主様を甘やかすために作られた存在だから無理」
「もー!」
「大丈夫ですよ、ギルマス」
プリプリと怒るカリプソに俺は言う。
「ここに居て良い、持って帰って良いってことは、敵対関係ではないってことでしょうし」
ある意味、自分が何もしなくてもそれが答えとなる。
おサボりマンにしては、なかなかに効率がいい回答ではないか。
なんでも許してくれるなら、たくさんこの澄水を持って帰ろう。
ついでに聞いておく。
「この泉の水って、どうやって作ったんですか?」
「んー?」
「本来は他のダンジョンコアとの関係性を聞きたくて来たんですけど……」
なんか話にならなそうなので、という前置きを含めて。
「この際こっちで良いです」
「説明面倒だからペイルよろー」
「私は膝枕で忙しいのでカリプソがして」
「……なんでこーなるのー」
質疑応答のたらい回しが巻き起こった。
話が進まないこの状況、なんともデジャブ。
だいたいこんなんばっかりだよな、ダンジョンって。
「つーか私も知らないんだけど?」
「だってさ、俺も知らねー」
「主様が知らないなら私も知らない」
「……」
帰るか。
とりあえず、汲めるだけ汲んで、そのままうちのダンジョンにも作る。
そのためにインベントリにはポンプがあるのだから。
わりかし最近の魔導機器だったらなんでも揃ってて、俺のインベントリはなんでもポケット。
また無駄なスロットを、とか言われるかもしれないが……。
さもありなん。
収集癖はどの男も持っているものなんだ。
「じゃ、とりあえずもらっていきますねー」
ドドンと出してズオオオオオと澄水を組み上げていくポンプ。
その様子に、さすがにスローフもようやく膝枕から頭を上げた。
「おい、限度があるだろー」
今までペイルの陰になって見えなかったが、俺に似たような気だるそうな顔だった。
いや、俺よりももっと死んだ魚を一週間放置したような目をしている。
完全なる上位互換か?
いや、そういう意味で言ったら、島でスローライフするんだから上位互換である。
「ちょっとは残していきますって。あ、こっちの植物ももらっていきますね?」
一本残しで。
なあに、ダンジョンなんだからまた育つさ。
ずーっと暇を潰してるなら、こんな植物興味ないだろう。
「主様、根こそぎ奪われちゃう」
「やばーい、俺の島が開拓されるー」
「不平等条約……クスス……」
「笑い事じゃねー。文字通り黒船来航だー」
呑気だな、二人をも。
カリプソに目を向けると、俺らのやり取りを呆れた顔で見ていた。
「まあ、いいんじゃないかしらー? 私だって開拓してるわけだしー?」
「ダメダメ、せっかく作ったもんを根こそぎはダメだって」
「なら1割残しますので、話しましょうよ、色々と」
「……話すっつったって、何を話せばいいのやらー……?」
「俺が知りたいのは平定者って何かってことと、その他のダンジョンコアに関しての情報です」
「あーね」
そこで怠惰のダンジョンコアはふと気づく。
「つーか、そっちが上に立ってるけど、ここのものは全部俺のもんだから、立ち位置ちがくね?」
「チッ、ばれたか」
「お前、意外とえげつないな。ラブからちょくちょく聞いてたけど、えげつないな?」
「あ、知り合いでしたか」
「まっ、割とご近所さん的な付き合いあるしなー」
で、ようやく話は前に進むことになった。
=====
何ものにも汚されない水。
色々と使えそうですね?
感想 9,840
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