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本編
571 膝枕
しおりを挟む通路を抜けると、まず心地よい風が吹いているのを感じた。
そして、鼻には緑の匂いというか、なんというか。
視界に映り込んでくるのは、幻想的な樹木の織りなす世界。
妖精の楽園よりも、もっと楽園チックなそんな場所だった。
「うお、すげぇ……」
見とれていると、カリプソが言う。
「彼、無駄にディテールだけはこだわるのよねえ」
「怠惰なのにですか?」
とてもじゃないが、おサボりマンの作るダンジョンではない。
それくらい綿密に考えられた素晴らしい作りであった。
そもそもの話、怠惰のままでダンジョンを作ったらまずいな。
適当に作ってしまっては、すぐに攻略されて狩られてしまう。
「ふふ、やる時はやる男なのよー」
「やる時はやる男ですか」
「そう、サボるためなら全力を出すって言ってたわねー」
聞いている限り、効率重視なように思える。
面倒ごとは先にやってしまう、俺とは大違いだ。
有能さが表れているような気がする。
俺みたいな底辺人は、全部が全部後回しなんだから。
そして後回しにして忘れて、えらい目に合う。
もしくは忘れるのではなく、あえて放置して目を背けるのだ。
「さ、こっちよー」
「はい」
案内されるがままにカリプソについていくと、森の中にぽっかり空いた空間があった。
泉を中心として周りを丸く取り囲む草木のほとりに、二人の影が見える。
近寄ると、俺と同じ黒髪を持った地味目の格好の男が、女の子に膝枕されていた。
女の子の方は緑色のショートヘアーをした、華奢な体格である。
「スローフー、連れてきたわよー」
「……んーーー」
カリプソよりも間延びしたような返事。
あれが、極彩諸島のダンジョンコア……怠惰のスローフか。
極彩という名前の割には、なんとも地味なやつだった。
それにしても……。
昼間っから美少女の膝枕とは、良いご身分である。
正直、羨ましい。
「二人はスローフとペイル、このダンジョンの主と最終守護ね」
「どうも初めまして、アキノ・トウジです」
「んーー、どーも」
そのままの体勢で振り向くこともしないスローフ。
そしてペイルと呼ばれた女の子は見事なまでのシカトだった。
「もー、二人とも振り向くくらいしたら良いんじゃなーい?」
「あー」
「……」
…………再びの沈黙。
風に揺れる草木の音の方しか聞こえないレベルだ。
どうしようかな、これ。
帰ろっかな。
なんかもう良いかな。
おサボりマンだとは聞いていたけど。
話すことすら困難なレベルとは思わなかった。
しかし、色々とダンジョンについての話を聞ければと思っていたのだがね。
極彩諸島の再奥にしかないものをもらえたりとかできればいいな、とかも。
それにしても良いな膝枕。
俺も色々と終わったらポチの腹枕で同じようなことをしようかな?
ポチの腹って、枕にすると最高に良いんだよな?
「もー、ほら貴方たち、来客だから立ちなさいよ、ほらー!」
困ったように腰に手を当てるカリプソ。
「んー……あと10分だけ……」
「……スローフが10分って言ってるから、20分は見て欲しい」
「貴方たちの10分20分って、平気で10日、20日の世界よねー?」
「細かいことは気にするなー、ペイルの20分と俺の10分を足して30分待って」
「もー、良いからこっち向きなさいってばー」
「ねえ、やっぱ明日にしてくれないー? なんか今日違うわ、うん」
つかみどころがない男だな……。
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