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本編
570 八大迷宮考察
しおりを挟む島型ダンジョンとして有名な八大迷宮の一つ、極彩諸島。
その主人たるダンジョンコアの名は、怠惰のスローフ。
「彼がいるのは、際奥に存在する一つの島と呼ばれる場所」
「一つの島……」
「彼が自分のためだけに作り出した、自分だけの楽園よー」
「そうなんですね」
一つの島で、彼は日がな日中、ずーっといびきをかいているそうだ。
寝てるって、なんとも怠惰という名前が似合うやつである。
「気になってたんですけど」
「なにかしらー?」
「その怠惰って、ダンジョンコアが自分で自称してるんですか?」
「そんな訳ないじゃない」
俺の問いかけを、カリプソはさらっと否定した。
確かにそうだよな。
俺は怠惰です、なんて普通自称しないか。
「さ、こっちよー」
気だるそうな声に合わせて、俺は通路を彼女に続いてひたすら歩いた。
ちなみに、今回ポチたちは連れてきておらず、俺一人である。
しかし……。
深淵樹海でディスペラが言っていた言葉が蘇るなあ。
歩きながら、俺は彼女の言葉を思い出す。
──ダンジョンコアは。
──はるか昔から存在するこの世界の平定者ですよ?
──それも、人と魔族が対戦する遥か昔から……。
彼女は、ダンジョンコアのことを平定者と呼んでいた。
(※412話部分)
平定者、ねえ。
人と魔族が大戦を繰り広げるはるか昔に起こった争い。
それをなんとかし、秩序を保ったのがダンジョンコア。
そう言っているのかもしれない。
しかし、だとしたらダンジョンなんて触るべからずでは?
勇者が何やらデプリに存在する大迷宮を攻略しようとしているが……。
やはりパンドラの箱というか、なんというか。
古参のガーディアンからの話を鑑みると、そんな予感がする。
故に、平定者と言われる強い存在を味方につけておく。
それはとても重要なことだと思った。
今の所なんだかんだ上手く行っているが……。
これから先もそうあると良いな、としみじみ思う。
「ギルマスは」
「カリプソで良いわよ、呼び捨てで」
「あっはい、カリプソは他のダンジョンコアは知ってるんですか?」
なんとなくそう聞いてみると、カリプソは歩きながら考える。
顎に手を当てて、腰をくねくね尻をふりふりしながら、だ。
俺は、誘惑されているのか?
イグニールのほうがいいぞ。
「そうねー、でも私が答えを言うのって、なんか面白くないんじゃなーい?」
「いや、別に面白みとか求めてないんですけど」
さっさと言えよ……。
だがまあ、なんとなく考えてみて、予測はつく。
ファンタジーに有り勝ちな七つの大罪系ではなく。
八つの悪徳とか、そんな感じなのではないだろうか?
だとすれば、今まで名前が上がっているのは……。
憤怒、傲慢、暴食、怠惰に、シーモンクから聞いた憂鬱。
逆算して、虚栄心、金銭欲、淫蕩とかかね?
でも、なんかそれでも違和感を感じるんだよなー。
大罪とか悪徳とかって、俺のいた世界のものだろう?
俺のいた世界の宗教の価値観的なものが、なんで異世界にある。
何故異世界で名を連ねている、と……そういうことだ。
まさかとは言わんが、よくありがちなずっと遠い未来だったとか。
そういう展開はないだろうな……?
異世界人ではなく、俺は過去の人で、とか根底から色々覆るぞ。
「その顔は、なんとなくわかってるっぽいから答えるのはやめておくわねー」
「ええ……教えてくださいよ……」
「ネタバレしてるものに答え合わせって、なんかこっちが損した気分しない?」
「まったくしません」
つーか。
得も損もないことに、損を感じ始める。
それこそ人として終わりだと思います。
例えば、お代わり無料ご自由に、の店があったとする。
自分もお代わりすればいいのに、食べきれないからお代わりはしない。
でも、お代わりしている人を見ると、損した気分になるからやめろ。
「と、そんなクレームをつけるもんですよ?」
「貴方、割と辛辣なことを言うわよね、無害そうな顔して」
「そうですか? 無害ですよ?」
社会にとって、得もなければ害もない、そんな存在です。
「さて、とりあえず会話はあとね。聞きたいことは彼に聞いて」
長かった通路がようやく終わりを迎えた。
どうやらカリプソは転移まではできないらしいな。
権限持ちのガーディアンなのかと思っていたが……。
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