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本編
573 スローフとの会話
「前、グルーリングの守護者からちらっと聞いてたんですけど」
そう、話の起点を作ると、スローフは返す。
「おー、暴食の奴にもあったんだなー? 何しに行ったんだ?」
「カカオと竜の実と竜樹をもらいにいきました」
「あの暴食が……ほーん、食べられなかったか?」
「大丈夫ですよ」
本人は止まらない暴食に苦しんでいたというのに。
こいつはなんの苦労もなさそうだな、なんて思った。
「俺はほら、怠惰って名前つけられたから、これが仕事だよ」
俺のそんな気持ちを知ってか知らずか。
スローフは聞いてもいないのにそんなことを話していた。
サボりも仕事のうちって、ネオニートである。
みんなが憧れるネオニート。
ネトゲですっごい廃人プレイヤーとして名を馳せる者だ。
ほら、ネトゲで強くなる方法ってお金と時間だからね?
その両方ともかけれるネオニートは、文字通り最強と言える。
俺はどっちかっていうとお金持ちではない。
故に、いろんな青春をそこに捧げてきたタイプ。
貯金も何もなく、浮いたお金は全部使う。
そんな人生だったことが、なんとも今、役に立つとはね……。
もし、俺がネトゲの知識を全く持たずに。
今この状況に置かれていたとしたら、どうなっていたことだろう。
サモニング図鑑に気づくこともなく、野盗の奴隷だっただろうな。
いや、そもそもインベントリすら知らずに野垂れ死していた可能性も。
やっててよかったネトゲ!
前の俺の立場が、社会の底辺だと理解しているものの。
今では誇りに思うぞ。
「いいご身分っすね」
俺の色々な気持ちを総まとめにして出てきた言葉がそれだ。
うん、皮肉でもなんでもなく、良いご身分である。
平和にいきているなら、それはそれで結構なこと。
断崖凍土や深淵樹海みたいに、謎のトラブルが来ない。
なんとも良きタイミングでの邂逅となった。
さてさて、話を先に進めようか。
聞きたいことを話してくれそうな雰囲気なのでここいらで疑問を回収しておく。
「最初に、平定者ってなんですか?」
「平定者。そんな面倒くせー名前で読んでるのはもういない」
スローフは依然としてペイルの膝に頭をのせて寝転びながら言う。
「俺らはただのダンジョンコア。それ以外の何者でもないさ」
「ふむふむ。で、平定者ってなんですか?」
「……せーっかくカッコいい感じに決めたのになー」
「で、なんすかね?」
「無駄話すらさせてくれないとか、お前なかなかやるな」
「はい。それで……」
「わかったわかった話す話す。すげーよ、逆に、すげー」
脱線して聞き逃してってパターン。
これは避けておきたいのだよ。
俺は鈍感系、難聴系主人公ではないと知れ。
もう三十路だ。
誰が何をどう思っているか、そんなこととっくに気づいている。
気づいている、が……。
選べないとか、今は時期じゃないとか。
そんなことだってあるだろう、人生な。
「まあ良いや、俺も先に話しておいた方が後が楽だしな」
うなずき返すと、スローフは話し始めた。
「平定者っていうのは、太古に滅びかけた世界を正した存在さ」
「滅びかけた世界を……」
そう聞いた瞬間、右手の指輪がなんだがざわついた。
邪竜三兄弟の指輪。
そういえば、厄災をもたらすのは儂らだとか言ってたな……。
「滅びかけた原因とかってわかりますか?」
なんとなく別にやばい存在でもいるのかな、と思って聞いてみる。
すると。
「謎の存在って、どこにでもいるんだよなー」
そんな答えが返ってきた。
「謎の存在?」
「お前だってそうだろ? こっちからしたら、謎の存在だ」
「……それは」
──俺みたいなやつが、世界を滅ぼしかけた。
……と、でもいうのか?
ここで言うのは、社会の底辺を生きてきたネトゲ廃人ではなく。
もっとやばそうな何かを持った奴のことだろう。
「そういえばさっき黒船来航とか言ってましたけど、この世界に黒船なんか……」
「ねーなー。黒く塗りつぶされた船って意味合いにも取れるが……」
スローフは何かを語ろうとした後、ふと言葉を止めてから改めて言う。
「……話すのだるいからそっから勝手に想像したらいい。だいたいあってるさー」
「なるほど、わかりました」
不自然とも呼べる言葉の滞り。
それは明らかに怠惰によるものとは思えなかった。
なんとなく、話せない理由がありそうなそんな感覚。
「さて、手早く話を進めるが、こういうことは何度も起こった」
「何度も……」
「今回で何度目かは知らんけど、お前や勇者がいるってことは、なんかある」
「それが何かってのはわかりますか? ダンジョンコアからの観点で」
昔何が起こったのか。
それがわかれば、対策も立てやすいと思った。
「知らーん。だーいぶ昔のことだからあんまり覚えてねえー」
だが、スローフはそれだけ。
これも、話せない感じなのだろう。
言葉の裏を読み取るのが面倒くさくなってきた。
「……記憶障害、クスクス」
「ペイルてめー、良いから俺をよいしょしとけよー? ダンジョンコア様はすごいんだぞー?」
「クスクス、いつすごいの? クスクス、いつやる気出すの?」
「くそー、明日から本気出すぞこのやろー」
話の合間に挟まれるペイルの茶々入れに、寝っ転がりながら抗議するスローフ。
そんな様子を見て、カリプソがため息を吐きながら言う。
「たしか、本気を出せる期間と時期が決まってるのよねー?」
「おい、あんまり言うなよそういうことー、恥ずかしいよー」
「本気を出せる期限?」
「怠惰のせいで、色々とやれることが制限されてるのよ」
「へー、詳しく」
やっぱりなんらかの咎的なものを背負っていたかダンジョンコア。
態度的には平気そうだが、協力すれば何か今後に良い影響があるかもな!
そう思っていたのだが、スローフは言う。
「お前にできることはねー。俺は比較的軽い方だからな」
「軽い重いとかあるんですか?」
「深淵樹海に行って色々もらってきたってことは、あいつの暴食をなんとかしたんだろう?」
「ええ、まあ」
俺ではなくパインのおっさんが色々と引き受けてくれた形だけど。
スローフは、それに比べたらまだまだ俺のは軽いと言っていた。
「なんつーの、サボるとあとあとの活動時期が増えるんだな、これが」
「力を溜める的なですか?」
「そうそう。ついでに100年以上の単位で前借りもできるぞ! すげーだろ!」
「……力の借金……クスクス」
「よしペイル、今日はもうお前の膝枕はいらん。カリプソにする」
「急なご指名ね? いいわよー、大人の魅力伝えちゃうんだからー」
「ガーン! それは許さない。私のみが主様の充電器」
「けっ、不良品はいらねーよ! カリプソたのむわー」
「はーい」
そんなやりとりのあと、スローフはカリプソの膝に頭を載せ替えていた。
ちなみに、一切立ち上がることなく、ゴロゴロと転がって。
そっちの方が体力使うんじゃないのかって動き方だけどなあ……。
「……くそあま死ね。たかだか30年の付き合いのくせに」
「えっ、30年?」
ペイルのぼやきを聞いて驚いた。
ってことは、30年前に知り合ったってことだよな、スローフと。
「ギルマス、今いくつなんですか?」
「ひみつ。でも最終守護だから永遠の若さを持つのよー、いいでしょー?」
良いか悪いかで言ったら、なんとも言えないな。
永遠の命をやるとか言われても、ピンとこない。
この世界では友人に恵まれた俺は、彼らと一緒に年を取りたいと常々思うのだ。
「じゃ、この状態から話再開するぞー?」
「あっはい、どうぞ」
「とりあえず、事前知識として他のダンジョンコアのネタバレだけしといてやる」
「ほう!」
「それと、今世の勇者がこなそうとしているダンジョン踏破によって受ける影響もだ」
「ほうほう!」
よく外の情報を知っているな。
カリプソが情報通みたいな感じだから、恐らくそれが元ネタか。
「あとおまえんところのちんちくりん。あいつのこともなー?」
「ジュノーですか……」
=====
この下りも次話でたたみ掛けることができたらいいな……(と、思う所存です)
感想 9,840
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