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本編
601 麟として、逸れ・3
しおりを挟む麒麟に対して、こっそり邪竜の指輪から引力、斥力を連続使用。
グングン、と巨大な体躯は揺さぶられることとなった。
麒麟は、すぐにスキルを使用した俺の方に目を向けて雷を放つ。
──ピシャッ!
「あ痛ぁっ!」
骨を盾にして、雷撃を受け止めた。
食らっても死ぬことはないが、とりあえず痛そうだから骨ガード。
「……何するんですぞ~!」
「まあ、これも禊だよ」
そこそこの雷撃をその身に受けたと言うのにピンピンする骨。
こいつもこいつで、なんかバランスブレイカー気質である。
さて、次にさっさと勇者を危険域から遠ざけようか。
「引力」
小さくつぶやいて、さっさと手元に勇者を引き寄せ、小瓶を渡す。
「……え? は? こ、これは?」
「それはHPを回復させるポーションです」
「あ、ありがとう……」
「さっさと飲んで立ち上がってください」
「わ、わかった」
すぐにポーションを飲む勇者は、すぐにその効果に驚いていた。
「なっ、回復量1000!? こ、このポーションは!!」
「第1等級です」
「何故そんな効果なものを持っているんだ!」
「俺には何もスキルがありませんから、もしものためです」
ぶっちゃけ自分で作成したものだ。
第1等級ポーションは腐るほどアイテムボックスにある。
使わず肥やしにしていたものだから、使うといいのさ。
もっとも、自分で作ったとは言わない。
さも大切なもののように、買っておいた体裁にしておく。
「10本くらいはまとめ買いしているので、使ってどうぞ」
「い、良いのか……?」
「ここで死なれたら困りますからね」
「良いですぞ~トウジ様、これぞ禊教の教えでございます!」
横からいちいちうるさいなー……。
まっ、カルマが減るなら、なんだって良いか。
「ねえ、その前にさっきのスキルはなんなの? 引き寄せたやつ」
「あ、賢者さんにはMPもありますので、使ってください」
目ざとく勘付く賢者には、MPポーションを投げ渡して誤魔化す。
説明を求められたらそういうアイテムだということにしておくか。
それより先に、なんか本気を出してきた麒麟を倒すことが先決である。
「──グルォォォォォォン!」
引力と斥力によって翻弄された麒麟は、怒りの咆哮をあげた。
呼応するように、落雷が周りに連続して落ち続ける。
さらには、さっきよりも素早い速度で動き回っていた。
シュンシュンシュンシュン、ではなく。
ピシャピシャピシャピシャ、と雷みたいに。
一応目視でなんとか追えるレベルだから。
光の速さではないようだ。
「回復はできたけど……どうするわけ……メテオ効かなかったわよ」
「動きに対応することも、ちょっと難しいね……レベルがまだ足りない」
「チッ、居合で待ち構えても、私のところに来ないとは、愚弄する気か」
賢者、勇者、剣聖のそれぞれの反応。
麒麟も剣聖の攻撃力には野生の感のようなものが働いていて、寄り付かない。
確か、斬れない物がないって言うのは、剣聖のスキルだったっけなあ……?
それは絶対的な攻撃でもある。
「弱点は知ってますぞ~」
そんな中、声を上げるのが骨。
みんなの視線が骨に向く。
「本当か! ビスマルコ!」
「ええ、勇者さん。麒麟の魔力の源は頭についている2本の角でございますぞ~」
「角……あれをへし折れば良いのか!」
「本気を出したら強くなる分、角も大きく露出しておりやすくなりますからね~」
そんな骨のアドバイスを受けて、勇者はよし、と前に出る。
しかしながら、麒麟は距離をとって雷撃体制に入っていた。
秘密を知られたからには、迂闊には近づかないらしい。
雷撃を再び使用した盾のスキルでガードしながら、勇者は言う。
「くっ、ジリ貧だ……! ポーションも、カナの回復も間に合わなくなる!」
「いっそのこと耐久戦は?」
「それは無理ですぞ~、麒麟は霊獣、体内魔力ではなく外からも補給できますから~」
「つ、強い……!」
耐久戦なら負けることは絶対ないが……言うべきか迷うな。
まあ、死にそうになったら白状することにするか。
でも勇者だったらこのくらいの危機は乗り越えるだろう。
「あの速さに対抗できれば、私の攻撃が届くのだが……カナとヨシノ、もっとAGIをあげれるスキルはないのか?」
「もう使ってるよサヨ!」
「そうね、他にあれば使ってるから、無いってことになるわね」
「くっ、全力を出しても、速さが少し足りないのが歯がゆい!」
「あっ、速さがあれば良いんですか?」
「む?」
悔しそうな顔して「くっ」と呟く剣聖に言う。
「そう言えば、まだクイックのスキル使ってませんでした」
「なんだと! もう使ってるものとばかり思っていたぞ!」
「さーせん。でも少し足りないならこれで足りると思います」
謝りつつ、俺はスキルを使用した。
「クイック」
「──お?」
すると、剣聖が俺の方を向いて目を丸くする。
「なんだか不思議なスキルだ。これがクイックか?」
「行動速度上昇ですね、ええ」
「……ふむ……ふむ、攻撃速度や移動速度ではなく、行動……」
そんなことを呟いた剣聖がバシュン、と消えた。
あれ? と思っていると。
麒麟の正面に剣聖が剣の柄を握りしめて肉薄していた。
「グルォオオオオン!!」
いきなり目の前に現れた剣聖に、麒麟はすぐ対応する。
全身から雷撃を迸らせて、剣聖に打ち込む。
「ふむ、なかなか良いスキルだ。トウジ」
身を翻して雷撃を避ける剣聖は、トンと麒麟の鼻先に飛び移った。
そして。
「──今の私ならば、雷の速度にも余裕で勝てるな」
ズバァッ!
剣聖は、麒麟の角をいとも容易く断ち切った。
「グルォオオオオオオオオン!」
麒麟の悲鳴。
身にまとっていた雷撃が、弱まっていく。
剣聖はその好機を見逃さない。
目にも留まらぬ速さで剣を動かし、麒麟を斬りつけた。
「ふふん、今の私は神速超えたか? もはや敵無し、だ」
ほくほくとした表情で、チンと剣を鞘に戻した瞬間。
麒麟の体がバラバラになってドロップアイテムが飛散した。
「す、すごい! サヨ、今の斬撃は見えなかったよ!」
「ふふん!」
「サヨちゃんすごーい! めっちゃかっこよかった!」
「速さが倍になったように見えたけど、良いスキルね」
喜ぶ勇者一行。
さてと、俺も喜んで良いかもしれんな。
俺は見たぞ、ドロップアイテム。
カード、そして魂、さらにはスクロール、そして装備。
久しぶりにボスクラスを倒したから、いっぱい落ちてた。
うはははは!
やったぜおい!
「あれ、カルマ膨大に増えてますけど、なんか雑味は消えてますぞ~……?」
=====
悪いことだけ、良いことがある。
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