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本編

625 過去の痕跡とおサボり司書職・1

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 俺は図書館に本狩りに、イグニールはギルドへダンジョンの洗い出しに。
 そんな感じの役目を持って、俺たちは今日も別行動。

「なんだか二人でこうして歩くのも、良いもんだなポチ」

「アォン」

 トガルに来た時のことを思い出すかのようだ。
 この世界に来て、もうすぐ一年経とうとしている。

 うーん、色んなことがあった。
 本当に色んなことがあった。

 語り尽くそうにも、語りつくせないほどのことだ。
 いつの日か、これが良き思い出だったと言えれば良い。
 そのために、今を頑張ろうじゃないか。

「さてと、公園だな」

「おうおはよう!」

 公園にたどり着くと、赤と黄色のカラフルな屋台があった。
 なんじゃありゃ……。

 昨日までの茶褐色の屋台からは想像もできない様変わりっぷり。
 世の中の料理で悩むおっさん連中はどうしてこうも変わるんだ。
 いきなり過ぎてこっちがびっくりするレベルである。

 店の名前はこう。
 《元祖、勇者の愛したファーストフード~アメリカンドッグ~》

 ……長い。
 でもまあ、その辺にこだわるのはやめておこう。
 こういうのは本人の好きにさせておくのが一番だ。

「どうせ最初は色物扱いだから、色物にしてみた」

「ふむふむ」

「作り方簡単っぽいから先に元祖の名前をいただいてみた」

「なるほど」

「とりあえず大小数種類食べやすい大きさで作ることにした」

「良い調子です」

「最終的になんかチーズとかぶち込んだら最強に美味かった」

 チーズドッグってやつか。
 良いっすね。
 ソーセージとチーズはすごく相性が良い気がする。
 っていうか、チーズが何でもかんでも美味くする。

「あと、禁断のバタードッグってやつも考え出してみた」

「バタードッグ……?」

「家にある食材をとりあえず全種類揚げてみたんだ」

「はい」

「そしたらさ、バターに衣つけてあげた奴が甘いんだか美味いんだかしょっぱいんだかわからない新感覚だった」

 ……そ、そいつはヤベェ。
 なんだよバターをあげるって、強すぎる。
 中身ぐちゃぐちゃで飲めるレベルじゃね?

「ってことで、アイデア全部試食してほしいんだ、お前たちに」

「よし、ポチの舌が大活躍だな!」

「アォン……」

 バター食うのは俺は年齢的にもう無理なので、ポチに任す。
 ってことで、さっそくポチが各種ドッグを食べされられていた。
 ちなみに、意外なことにバタードッグは有りとの判断らしい。
 流行ったら国の連中太ると思うが、そう言うのが好きな魔族が食いそうだ。

「ォンフッ」

 胃もたれしているポチの背中をさすってあげる。

「どうだった? みんな悪くない?」

「ォン」

「ほうほう、バターのやつは蜂蜜とシナモンで衣をもっと甘くしろって?」

「アォン」

「あげた後、糖衣ね? そこまで甘くして大丈夫なのか?」

「ォン!」

「なるほどな! チャレンジメニューみたいな感じにするのか!」

 だったら辛いやつも考えてみるか、とメモるおっさん。
 順調に色物路線を辿っている気がした。
 本当にこの店が流行るのかはわからないが、職業がら勇者の好物に対しての信頼度はある。
 美味く行ってくれることを、心の底から俺は願っているよ。

「さて、じゃあ行くか!」

 屋台をガラガラと引いて、おっさんは公園から出る。
 約束通り図書館へと連れて行ってくれるそうだ。

 そして馬鹿でかい図書館の前にたどり着き、屋台を止める。
 差し入れ用のアメリカンドッグをバスケットに入れて入館。

「あれ、シルビアさん……どうしたんですか!」

「おう、ちょっと差し入れを持って来たんだ」

 入り口の奥の受付のような場所に座っていた女性が驚く。
 つーか、おっさんの名前シルビアだったのか。

「戻って来てくれる気になったんですか! みんな大変ですよ!」

「いや、俺は戻らねえ! 料理人の世界で食って行く!」

「ええ……今年で40過ぎの人が、なんでいきなり……みんな戻って来てほしいそうですよ」

 なんだかこの職場で好かれていたような雰囲気だが、本当に人間関係に疲れたのか?
 周りの連中も、シルビアさんだ、元上司だ、と集まって来ている。
 シルビアと呼ばれたアメリカンドッグのおっさんは受付の女性に言った。

「戻らんぞ。だってお前ら毎日俺に愚痴言いに来るだろ、揉め事の仲裁頼むだろ、関係ないことで」

「それを聞いてくれるからまだこの職場は保ってたんですよ~!」

「今は俺の方が家族にも逃げられて、借金して、明日の飯も心配な状況だから、話は聞いてやれん」

「だったら復帰してくださいよ~、みんなシルビアさん待ってますから、お願いしますよ~」

「解読した分は全部渡しただろ、あと簡単な読み方とかもさ」

「3種類の言葉や、複数の意味、パズルみたいな暗号を解けるのはシルビアさんくらいですよ!」

「俺でも読めたのちょっとだけどな、まあ後は若い奴らに任せるから、俺の飯食ってやる気出せ!」

 なんだか少しだけこの職場の現状みたいなものが見えた気がした。
 有能が消えて、みんな二進も三進も行かずに困ってるのだろう。
 十年くらいやってきて、読めるのシルビアだけってのが、なんとも……。
 まあ、俺は本を読ませてもらえば良いので、関係ないか。
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