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本編
624 朝の一幕
さて、アメリカンドッグ屋として生まれ変わったおっさんとの約束の日になった。
「おはよーございます」
「ォン」
朝から俺の腹の上でゴロゴロしているポチに挨拶をし、小脇に抱えて起き上がる。
「ふあぁ……朝から良いんだっけな……?」
とりあえず次の日の同じ時間に来てくれって感じだったから、準備して出るかあ。
欠伸をして、後ろ頭をボリボリとかきながら、ポチと一緒に歯磨きをする。
「はい、あーん」
「アォーン」
シャコシャコシャコシャコ。
ぼーっとしてるとポチが俺の歯ブラシを動かし始めたので、俺もポチの歯を磨く。
なんだこれ……教育テレビじゃねーんだぞ、ここは……。
寝巻きにカナトコして使っているHP回復装備から、普通の装備に着替えよう。
ちなみに、HP回復装備とは潜在能力がHP回復効果を持った装備のことだ。
もし寝込みを襲われたとしても、装備効果と潜在能力で回復する仕組みである。
装備製作の方も【神匠】になって、強い効果を持つ装備を作れるようになった。
だから、イグニールや他の連中にも、この装備を寝巻きとして使っていただく。
やはり【神匠】になってくると、作れるものが色々と変わってくるな。
装備のレベル上限解放もさることながら、今までの作って来た装備。
その装備効果と呼ばれる潜在能力以外の部分がかなり良くなってくる。
今までの【匠】やら【巨匠】に関しては、武器装備のステータスが補正されていた。
普通に作られた装備よりも圧倒的な良品を作ることができたのである。
しかしながら【神匠】は、装備効果が良品というか一段階以上よろしくなっていた。
全部の装備を換装し直すのは骨がおれるけども、地道にやっていきましょう。
「あっ、イグニールの下着も新たに……」
「──私の下着がどうかしたの」
ふぁっ!?
ヤベェことを呟いたタイミングでイグニールが隣に来た。
俺やポチと同じ様に洗面台で顔を洗いに来たようである。
「むにゃむにゃ、むー」
白目でよだれを垂らしながら眠るジュノーもイグニールの頭の上にいた。
これは、寝てるのか……?
気絶してるようにしか思えないのだが、まあそんなことはどうでも良い。
「で、下着がなに」
目下、この質問にどう返すか。
それが今の問題点なのだ。
くそ、歯磨き粉飲み込んじゃったよ。
「装備製作の職人等級がレベルマックスになったのは話したよな」
「そうね。魔王の精神世界で終わらせちゃったって話でしょ?」
「そうそう、それで装備効果の能力を良くすることができるようになったから」
「ああ、ってことは、私の下着装備も一新する頃合ってことかしら?」
「理解が早くて助かる。べ、別に変な意味じゃないからね!」
念を押してそう言うと、イグニールは「はいはい」と言いながら顔を洗っていた。
彼女は、タオルで顔を拭いて鏡ごしに俺を見る。
「別に今に始まったことじゃないから、気にしてないわよ?」
「そっか」
「でも、下着の枚数、色、種類、全て把握されてるのよね?」
「そうです」
その言い方だと、どうしようもなく変態に思えてくるから止めて。
「どうするの? すぐに換装しちゃうのかしら?」
「え? いや、すぐじゃないけど」
「そ? よかった」
「よかった……ってことはやっぱり換装でも下着触られるのは嫌だった?」
「いや、そうじゃないわよ」
歯を磨きながらイグニールは言葉を続ける。
「替えのはダンジョンのクロゼットにあるからジュノーがいつでも出せるけど、ここ半月くらいずっと遠出だったから、洗濯が間に合ってないのよね。汚いのでもトウジが平気なら別に良いんだけど?」
そ、それは……。
俺は別に平気だけど、ちょっと危険な香りがします。
「イグニールのなら汚くないよ、むしろ綺麗っていうか」
多分、浄化されてるはず。
清められているはず。
アイドルはう●こしない理論が、イグニールには当てはまる。
それだけの美人なのだから。
「……何言ってんの汚いに決まってるじゃないの。人間よ?」
「あっはい」
洗面所に、言葉の選択を間違えてしまった空気が漂っていた。
「そうだ」
と、イグニールはこの空気を察して話を変える。
「魔王の精神世界に私たちがいなかったのって本当なの?」
「ああ、まあそうだね」
「もし、の話だけど。もし敵として前に現れてたりしたら、トウジはどういう選択を取ったのかしら?」
「あー……」
魔王は孤独感や気持ち悪さを演出するために、イグニールやジュノーの存在を消した。
しかしながら、敵として立ちはだからせるなんてこともできるんだよなあ……。
でもまあ、そうだったら隷属の腕輪とか教団からレシピ奪ってるし色々できた。
ゲスな話だけど、夢の中だからイグニールとイロイロすることだってできたはず。
クソッ、出しとけよ魔王、クソが!
ずーっと底辺を生きて来たんだから夢くらい見させろよ!
もっとも……実際彼女を目の前にしたらそんなことできるかはわからない。
俺はヘタレの部類だから、夢の中でもおイタなんてできないタイプなのである。
もし正夢だったら?
夢の中でシナプス的なものが繋がっていたとしたら?
って、そんなことを考えると何にもできないんだな。
まっ、そうだとしても答えは一つ。
一つなんだ。
「また、パーティー組んでるよ」
ポチたちやジュノーとは違い、人としての立場で、彼女は俺の言葉を全部受け止めてくれる。
そんな初めての人だ。
「あの世界にイグニールがいたら、すぐにパーティー誘ってた。まどろっこしいことは抜きにして」
「そ?」
「まあ、出会い方が違ってくるかもしれないから、断られてた可能性が大きいかもしれないけどね」
後ろ髪を掻きながらそう言うと、イグニールは鏡ごしではなく俺の方を向く。
「どの世界でも断らないわよ。昔の手紙にも書いてたでしょ、フィーリングだって」
「そう?」
「うん、きっと出会い方とかが全く違っててもお互いに感じる部分って一緒だと思う」
「ちなみに一つ聞いても良い?」
「なによ」
「俺のどこにフィーリングを感じた訳?」
「…………うーん、全体的に漠然としたものだからフィーリングじゃないの?」
「そっか、なるほど一理ある」
「ォン」
小話をしていると、ポチが俺の袖を引っ張る。
そろそろ行かないと、約束の時間に間に合わなくなりそうだった。
「ああごめんごめん、行こっか」
「ォン」
「昨日もそうだったけど、朝からどこに行ってたの?」
「アメリカンドッグ屋」
「あめりかん、どっぐ……? 何よそれ」
「クロイツで、次に流行る食べ物屋台だよ」
「またポチと一緒に色々やってたのね?」
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「うん、良いよ。じゃ、よろしく頼む」
「はい任されました。じゃ、トウジ……行ってらっしゃい」
「……行って来ます」
そんな言葉を最後に、俺は洗面所を後にした。
「それにしても、フィーリングねえ……」
廊下を歩きながら小さく呟く。
「俺は一目惚れに近いもんだったけどな──」
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