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本編
627 過去の痕跡とおサボり司書職・3
しおりを挟む「……マジか」
昔の勇者一行の残した書物を読んでいて、俺は思わず独り言ちる。
それもそのはず、書物にはこう書いてあったからだ。
昔の思い出を日記帳に語られていたりした後に、そっとこんな文が……。
《もし遠い未来、同じ様に召喚された者が存在するのなら》
《日本語で書かれたメッセージを見てガッカリするかもね》
《異世界召喚は一方通行──私たちは帰れなかった》
……私たちは、帰れなかった?
マジか。
俺にとっては朗報。
急に元の世界に戻される心配が無くなるからだ。
しかし、今の勇者たちは……残酷な現実である。
「いや、まだ確定した訳じゃない、続きを読むか」
このままだと返品もままならないので、続きを読む。
何か、何か方法があるはずではないかと。
《私と、勇者、聖女、剣聖は共にバラバラになった》
《それぞれが帰る方法を探すために世界を回るわけ》
《剣聖は、別にこの世界が嫌いなわけじゃないから》
《ギリスの片田舎に残り道場でもして暮らすってさ》
《呑気なもんだが、彼の性格では致し方ないだろう》
《もしくは、当代では無理だと感じたからの結果?》
《彼も地頭は悪くないから、たぶんそんな感じかな》
私と、勇者、聖女、剣聖。
こんな風に書かれていると言うことは、著者は賢者だろうか。
ふむふむ。
昔の勇者一行は、帰還の方法を探すため散り散りになったと。
で、ギリスの片田舎で剣聖は骨を埋めたわけね。
ライデンのご先祖はやはり昔の勇者たちの一員だったっぽい。
《この世界で、役割という概念は、その人の運命を決めるもの》
《だからこの文章を読んだ君は、何かしらの役目を持っている》
《そう信じて、私たちの情報、そして現状を伝えておく》
《面倒臭い仕様にしたのだって、その謎の運命力に従ってだよ》
……うわっ、物の見事にその運命力とやらに巻き込まれてる。
興味本位で過去の文献を見にきた訳だが、見透かされている気分だった。
《遅れたが自己紹介からしよう。私は賢者、名前は緋本紅葉》
《読み方は、ひもともみじ。当時はただのOLだった》
《デプリのイグナイト家が後見人だったから、こっちでは紅葉・緋本・イグナイトだね》
イグナイト……なんかイグニール似てるね、響が。
何か繋がりがあるのかな?
デプリの貴族とか、ぶっちゃけ名前知らないけど。
《次に勇者の名前は、龍崎魁斗。有名な財閥の御曹司だった》
《歳は私より少し上、ど偉いイケメンだが表情は険しかった》
《なんでも自分で見て決めないと嫌な、唯我独尊タイプだね》
龍崎……龍崎!?
今の勇者と同じ苗字じゃんか、マジか?
どう言うつながりだ?
《次、剣聖の名前は、平賀頼智。時代錯誤の荒武者って感じ》
《確か私たちの中では最年少。でも精神年齢は一番上だった》
これは知ってる。
やっぱりライデンの先祖だ。
はい次。
《最後に聖女、彼女の名前は覚え難かったのだけ記憶にある》
《華子・ベアトリクス・ビスマルコ……だったっけな……?》
《ハーフらしい。私なんか霞むほどの美人で爆乳! ズルイ》
ズルイって、後半嫉妬じゃねーか……。
と、思ったのだが、ビスマルコという名前に心当たりがあった。
……骨じゃねーか!!
確かあの骨、自分のことをビスマルコだって名乗ってたよな。
えっ、元聖女なの?
えっ?
少しばかり頭が混乱してしまった。
あとで尋問しよう。
《さて、自己紹介も済んだところで、君に一つだけ教える》
《恐らく、まだ私は生きている、命にしがみ付いた者は生きている……はずだ》
……生きている?
骨も生きてるから、その言葉は当てはまってるな。
《万が一にも解読されないためにも、関係ないことを書いて散らばしているが》
《もしこのメッセージを聞き届けたら、彼を探して欲しい》
《山脈に住む、私の名前を一部冠する清廉潔白な小さな存在が案内してくれる》
《このキーワードが、私の従魔契約の制限を一部解除して指し示す》
キーワードは、ろくに魔法も使えないバカ弟子。
これは、ウィンストのことだろうか?
何の因果か、繋がりか。
賢者の弟子だったから、勇者たちと関わりを持ったのだろうかね。
出会い方は最悪そのものだったけど、そんな因果関係を感じた。
《異世界に拉致監禁なんて、私は求めてない。だから帰る方法を探す》
《時間はかかるだろうけど、それも探し続ける》
《死なない方法なんてこの世界にはいくらでもあるから、必ずできる》
《このメッセージを読み解いたと言うことは、帰れないんでしょ?》
《導かれると良い、それが運命ってやつなんだからね》
《ちなみに、私に運命の人なんか現れなかったから運命死ねって思ってる》
見た感じ、重要そうな部分はそのくらいだった。
あとは、勇者の好物、賢者の好物、聖女の好物。
剣聖の好物(天ぷら)と当時の思いが書かれてるくらいである。
うーむ、過去の勇者たちはまだ生きているのか。
にわかには信じがたいが、長生きの方法には心当たりがある。
ダンジョン……だろうな。
守護者になれば、歳を食わなくなるし。
ダンジョンのどこかに、賢者はいる。
なんともゲームの世界みたいだった。
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