文字の大きさ
大
中
小
414 / 650
本編
714 やべぇやつは教団の天使様
トゥワイス・ブルーム、教皇の息子。
それなりに明るい色の茶髪は、ちょっとしっとりしている。
でっぷりと肥えたパンパンの腹に、二重アゴ。
顔は脂汗でギトギトしてて、なんというか……うん、やばい。
「イグニールちゅわぁーん! 今日はこれから僕ちんとデート行こっか!」
そんなのが、流し目したり、投げキッスしたり。
ウィンクしたりと、なんかとんでもないアピールをしてくるのだ。
ブレイズがいなかったら、私はイグニスを焼き殺している。
「……うざ」
ふつふつと湧き上がる魔力に、イグニスが慌てていた。
「息子の体に触るから、収めて欲しい。ただでさえ私も立っているのがやっとだったのだ」
「そう?」
その割には、ブレイズは気丈にも私の前に立ちはだかった。
加護なしとか言われてるみたいだけど、少し違う気がする。
そしてそれは目の前にいるデブもそうだった。
「んほぉ、ビシビシ伝わってくるねえ! これが精霊の魔力って奴ぅ?」
「何のことよ」
「僕ちんを目の前にすると、なぜか女性は魔力を解放しちまうのさっ!」
……焼きたい。
激しく焼きたい。
でも焼いたらとんでもない匂いが充満しそう。
それに魔力を解放するって、それ殺気でしょ。
視界に入れるだけで殺意が湧くから、みんなそうなる。
なんとも、お見合いとやらをさせられた女性たち。
御愁傷様って感じだった。
「ん~、今まで感じていた魔力よりもさらにとんでもないねえっ! 良いよ!」
「何も良くないわよ」
「イグニールちゃんと僕が結婚すれば、もうそれは聖なる炎になっちゃう? なっちゃう?」
「ならないけど」
「あ、ちなみにどういう意味かって言うと、子供ね? 子作りして、スーパーベビー作ろ?」
「お断りします」
全身に虫酸が走って、なんかサブイボみたいなものができた。
トウジがよく関わりたくない相手に敬語を使うけど。
私もごくごく自然に出てしまった、敬語。
「あなた、それより大聖堂がすごいことになってるのに、こんなところに居ていいのかしら?」
「え? 大聖堂? すっごい魔力を感じたよね?」
「ええ、だからこんなところで油を売ってる場合じゃないんじゃない?」
つまり、帰れってことなのだけど。
「今日という良き日を神様が祝ってくれたのさあ! やっと君と巡り会えたんだから! えへ!」
なんかテンションに任せて都合のいいことを言い続ける始末。
なおさらやばい。
「それよりイグニス~、挙式の段取りはしっかり組んであるんだろうな~?」
「そ、それがトゥワイス様……その……」
やや口ごもるイグニスに、トゥワイスの目つきが変わる。
「はあ? 使えねーな! その辺の段取りは組んどけって言ってあったろ!」
「いやその」
「僕ちんが苦労するお前の家をどれだけ援助してやったと思ってるんだ!」
「そ、その話は……」
「どれだけ僕ちんがお前の家の後ろ盾となって商談を持ち込んでやったと思ってるんだ!」
黙って話を聞いていたわけだけど。
結構前からいろんな人に頼り続けてた臭いわね、あの叔父。
最初はめちゃくちゃ強がってたみたいだけど。
なんかもう、ただのダメ人間に見えて来そう。
「まあいい、とにかく今日からこの家は僕が跡取りだから、みんな心配しなくていいよん?」
トゥワイスはイグニスの陰に隠れたブレイズに視線を向けた。
「そこの君の傷も、なぜか治らないみたいだけど、僕ちんの家が責任持って治すからね?」
「……べ、別に治してもらわなくても結構です……」
「何言ってるのさ! 今日から君と僕ちんは血縁者なわけだよ! 治す治す! 好きなものも買ってあげる!」
一頻り喋ったトゥワイスは、再び私に目を視線を戻すと言う。
「ねえ、イグニールちゃんの杖、そして妖精とスケルトンとハイオークはどこなの?」
「……それは、私との婚姻に関係あるのかしら?」
「大ありさあ! 前から飼ってみたかったんだよね? 魔物とか!」
「……」
「ついでに連れて来てるって話は聞いてるから、とりあえず会わせてよ! うちはパパがそう言うのは絶対に許さないってうるさいからさあ~! あ、そうだ! オークって美味しいもの食べさせたらその分美味しくなるんだよね? うへへへ、あと妖精ってすっごく可愛い存在なんだよね? 火の大精霊イフリータと妖精ちゃんとイグニールちゃんをベッドで侍らせてハイオーク飼ってスケルトンは適当に鎧着せて飾りとか、あっ、屋敷のドッキリとかにつかって~!」
げへげへと鼻息を荒くしながら笑うトゥワイス。
目の前にいるこのデブの方が、私からすれば人のツラを被ったオークに見えた。
「まともじゃないわね……付き合う人は選びなさいよ……」
「こ、これでも今までそこそこ助けてもらっていたんだ……」
常日頃からこう言うことを叫び続けている奴らしい。
頭おかしいのでは、と思うのだけど。
割と金銭的な嗅覚とか、やり口は上手いらしく、周りとは一線を画す存在としてこう言われている。
教団の天使様、と。
「あなた、言動がすごく子供じみてるけど、いったいいくつよ?」
「今年で30歳だよん」
「さ……」
言葉を失ってしまった。
これで、30歳。
なんというか、いつまでたっても子供部屋にいそう……。
「今までお見合いしてみた女の子って、みーんなつまんない子ばっかりだったからさあ~!」
トゥワイスは言う。
「いろいろ持ってるイグニールちゃんって、すっごく楽しませてくれそうだよね! うへ!」
「まあ、その話なんだけど……とりあえず婚姻は結ばないし、援助も打ち切っていいわよ」
「……なに~?」
目つきが変わった。
頭の悪いただのぼんぼんデブかと思っていたら、一転してどう猛な雰囲気を醸し出す。
「両家同士で結んだ婚約を一方的に破棄する、それがどういうことかわかっているのか?」
「ええ、だから援助は打ち切ってもらって結構。私は結婚しないから、そういうことで」
こういう手合いには忽然とした対応が重要だ。
話はなかったことにすると、そうしっかりと告げる。
「おい、イグニス! どうなってるんだ? 僕ちんはすでにきっちり準備してここに来た!」
「それがその……今までの援助に恩義を感じておりますが……本人が嫌となると……」
「チッ、娘っ子一人説得できないとは、やっぱりお前は使えないなイグニス」
「……」
「お前も公爵家なら僕ちんとの結婚の意味をよく理解しているんじゃないか? なあ?」
「そ、それは……」
「王家の血を持ち、そして教皇家との関係性が強くなることで公爵家はより一層磐石となる。お前の代でそれを成したということは、もうお前を雑魚だと呼ぶものはいなくなるのだぞ! 名ばかり公爵とも言われなくなり、遥か永劫お前の家の未来は神の御意志によって明るくなることが確約される瞬間を、棒に降るというのか? ああ!」
そう言われて、イグニスは何も言い返せなくなっていた。
「父さん……」
ブレイズが、不安そうな目でイグニスを見上げながら手を握る。
それを見たイグニスの目が一転して変わり、ようやく声になった。
「わ、私も王と教皇の関係性には疑問を持っていた」
勇者召喚、ある意味危険なことでもある。
何をそそのかされたのかわからないが、無駄な争いが起こるなら勇気を持ってあの時止めておくべきだった。
ここで教団との婚姻によって、さらに結びつきが強くなってしまうと、誰も何も口出しできなくなる。
自分の意思を伝えて、改めてイグニスはまっすぐと目を向けて言った。
「それを危ぶんだ結果、申し訳ないがこの話はお断りさせていただくつもりだ!」
別にそこまで言えとは、言ってないのだけど。
男を見せたってことでよしとする。
「ふーん、僕ちんに盾突く気なの?」
「盾突くつもりではない。しかし、やはりこの国の未来をお互いに思うならば……と考えたのだ」
「るせぇ黙れ」
「ぐはっ!?」
──ッ!?
唐突に、とんでもない速さで動いたデブの一撃によってイグニスがぶっ飛ばされた。
屋敷の壁に叩きつけられて、気を失う。
「父さん!」
「あんた! いきなり何を!」
「いうこと聞かない奴は、全部こうするって決めてるの。何か文句ある? 今までいろいろ手助けしてやったけど、僕ちんの出した甘い甘い条件にのらないなら、これどころじゃ済まないよ? もっとも、拒否しても無理やり婚姻は結ぶし、その後のイグナイト家は僕ちんのおもちゃにするけどね?」
これは天罰だよ、とトゥワイスはニヤリと汚い顔で微笑んだ。
「ほら、今ならイグニールちゃんが結婚してくれるだけで、全部僕ちんが神に変わって赦してあげるけど?」
「今の言葉を聞いて、素直にそうと受け取れると思う?」
「素直に受け取らなくても結構だよ? でもイグニスみたいに全てを棒に振るような答えはしないことだね?」
「……脅しかしら? だったら力づくでも連れて行ってみなさいよ、このデブ」
言い返すと、額にやや青筋を浮かべるトゥワイスだった。
「へ、へえ……面白いね、今の見てなかったの?」
「見てたわよ。でも私、自分より強い人じゃないと認めないから、負けたら大人しく尻尾巻いて帰りなさい」
じゃなきゃ、燃やす。
一発は一発だということで、イグニスの時に出し損ねた全力を今だそう。
どっちに転んでも面倒ならば、今ここでその根本を立っておくべきだ。
「僕ちんは、聖人と同格、いやそれ以上だよ? それに……デブじゃなくてぽっちゃりだ!」
来る──
「いや、お前はただのデブだボケ」
=====
──来た
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています(旧:いらないと言ったのはあなたの方なのに)
水谷繭※7/30書籍発売予定です!6/29まで公開します。
完結まで一括投稿済。
なろうの方では削除する予定はありませんので、読み途中たけれど読みきれないという場合はそちらでお願いします☺️
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました
◆小説家になろうにも投稿しています
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
握夢(グーム)「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
処刑されるはずだった没落令嬢ですが、姫様の初夜を身代わりしたら子を授かりました
新 星緒没落伯爵令嬢のエルゼは大恩がある姫様を救うために、初夜の身代わりを引き受ける。
そして姫様や国を守るために誰にも行く先を告げずに国を去った。
三年後。初夜の晩に息子ヴァルターを授かっていたエルゼは、ひっそりと暮らしていた。ところが元婚約者に拉致られて、あわやというところに初夜の相手であるハインツ王子が現れる。
「ようやく見つけた。エルゼ、愛している」
「初夜の相手が君だと最初からわかっていたが?」
――身代わり初夜から始まる、純愛溺愛執着愛のお話!