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本編

713 トウジみたいな思考になるってことは、嫌な奴になるってことだ

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「あ、あれは……」

 イグニスは、巨大な光の柱を見ながら唖然と呟く。
 ブレイズも父の側で袖を握りしめながらじっと見ていた。

 私は知っている。
 あれは、魔力収束砲の光だ。

 だけど、あんなり巨大なものだったかしらってのはある。
 ともかく、トウジが来てくれたようね。

 少しだけ安心した気持ちになりながらも、少し首をかしげる。
 あれ、私の思いは伝わってない感じかしら?
 私は一人でも大丈夫、と杖を置いてここにきた訳だから……。

 ……伝わってないから、あの状況だってわけね。
 いや、向こうは大聖堂がある位置。
 聖人との戦いがこじれてて、潰しに来たとかよね。
 きっと、うん、たぶん……。

「それにしても、長いわね……」

 一発どーんではなく、それなりに思考する余裕があるほど。
 天に伸びる光の柱は長い間、聳えたち続けた。
 上空に、飛空船の存在はないことから、超高度なのがわかる。

「ふふっ」

 トウジらしい、そう思って少しだけ笑えて来た。
 やっぱりシリアスなんて、柄じゃないわよ。
 私たちパーティーにはね。

「何がおかしいのだ。あの方角は……教団の……」

「大聖堂でしょうね」

 何が何だかわからないといった面持ちのイグニスに、告げる。

「多分、壊滅的な被害……いや、何もかも失せたんじゃないかしら?」

「な、なんだと?」

「教団相手に、私もそれなりに戦って来たのよ。で、そろそろ我慢の限界がきた」

 主にトウジが、だけど。
 さすがに空から遠距離砲撃をするとは思わなかったか。
 でもやるってことは、それだけ覚悟を決めたのだと、私は思う。

「私に興味があるのって、教皇のご子息だったかしら?」

「うむ、その繋がりを持って、ご助力いただくことになっている」

「なるほど」

 イグニスは息子のために、精霊の力を持つ杖も一緒に求めていたけど。
 教団は、なんとなく全部根こそぎ奪っていきそうな予感がした。
 あれだけ勇者に固執していた存在で、昔の賢者が残した宝具のようなもの。
 狙わない訳がないわよね……。

「家を守るのが、当主の役目でありプライド。他に手はなかった」

「だったらもうその教団とは縁を切っちゃって良いわよ」

「王家に食い込む教皇との繋がりを切って、この国で生きるのは不可能だ」

 何か適当に罪を擦りつけられたり、波紋のような形になるとどうしようもない。
 今の貴族たちは、基本教団には逆らわないような構図となっているようだ。
 何かしらの策を用意している人もいると思うのだが、イグニスにはないらしい。
 そうしたお飾りでいる部分に対しても、色々と周りから言われてきたとのこと。

「私の力では、もはやどうすることもできんのだ」

「当主だったら、もっとしっかりしなさいよ……」

 弱音を吐く男は、夢や理想ばかり語る男よりマシだと思っている。
 でも、やることをやらないで悲観するのは、また一つ違う。

「しっかりだと? 状況がわかっているのか?」

「言っちゃ何だけど、公爵家としてはあるまじき体たらくって状況よね」

 はっきりそう告げると、本人も分かっているの苦い顔をしていた。

「叔父さん」

 私はイグニスの目を見て言う。

「世の中、あんたよりも劣等感を抱えて生きてる人なんてたくさんいるの」

「私にはない、重圧を跳ね返せる程の力を持つお前に何がわかる」

「別にそんな力なんて持ってないし欲しくない。やれることはもっとあるでしょ」

 弱音を吐いたところで、状況は変わらない。
 信念を持って行動すれば、結果は自ずと結びつく。
 もし結びつかなかったとしても、無駄ではない。

 それでもダメだったら、大人しく尻尾巻いて逃げれば良い。
 尻尾巻いて逃げれなかったら、もう噛み付くしか……。

 と、そこまで考えて、私は少し違うなと思った。
 何をやっても難しかったり、無理な時は確実にある。
 イグニスの言う通り、自分で打破できる人とできない人もいる。
 故にこれ以上言っても届かないというか、届きようがないのだ。

「まあ、色々と丁度良いから叔父さんの話には一部乗ってあげる」

「なに……?」

「期間限定で、この家の家督自体は継いでおくってことよ」

 教団の信者とか、根絶やしにすることは到底不可能。
 現実的に考えて、敵を作らないようにするのが手っ取り早い。
 その上でブレイズが大きくなるまで守ろうと思った。

 別にずっとこの家にいるわけではない。
 私は好きな人のそばにずっといるつもり。
 だから、実際の仕事は引き続きイグニスがやれ。

 だったらどうするのって話だけど……。
 私と言う存在がそこにいるだけで、発言力はあるはずだ。
 火の大精霊を扱える血縁者が戻ってきた、みたいな?

 うん、トウジの力を頼るような形にはしたくない。
 だから彼の持つ繋がりは武器にできないけど、今の私なら……。

「とりあえず教皇のご子息って人には、縁がなかったって伝えておいてもらえるかしら?」

「そ、それをしてしまうと……関係のないものに被害が……」

「いや切っちゃった方が良いわよ」

 関わっただけで、こっちまで腐っていくんだから。
 あいつら関係は、早めに切り落とした方が吉。
 どうせトウジの攻撃で内部はてんてこ舞いだろうし、そんなに早くはこれない。
 と、思っていたら。

「イグニス様、お客様です。トゥワイス様がお見えになられています」

「……頭の中が混乱している状況で、なんと間の悪い」

 がっくりとうなだれるイグニス。

「誰よ、それ」

「お前と婚姻を結ぶ予定の者だ。そういえば今日早速引き合わせる予定をしていた……」

「そういえばって、忘れてたの?」

 ただ、普通に仕事ができないダメ男って感じね。
 このおじさん。

『愛し麗しのイグニールちゅわぁーん! 僕ちんが来てあげたんだぞっ!』

 邸宅に響くようなでかい声。
 ……私も頭を抱えそうになった。





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一番間が悪いバカが来た
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