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本編

736 恋愛師匠

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 なんとも猛烈なオチがあったわけだが、ギフのことはもう忘れよう。
 俺にぶつけて木っ端微塵になったドアの修理代とは、すごい因果だ。

「じゃ、俺はそろそろ行くよ、みんなが待ってるし」

「一応聞くけど、みんなって?」

「クラスメイト」

「……あっそう」

 無邪気な笑顔で意気揚々と答えるセブンス。
 クラスメイトの“女の子たち”なんだろうな。
 女子はこいつにアピール合戦しまくってるみたいだけど。
 当の本人は、ただ一緒に遊ぶ友達としか思ってない。

「セブンス、好きな子とか作らないの?」

「そう言うのは今はわかんないや、もう少し歳を重ねてからでいいよ」

 ませてんなあ……。

「わかんない振りっしょ、それ」

「……まあね」

 彼は笑いながら言う。

「今はみんなアピールするのが楽しいみたいだよ? 恋に恋するってやつかな」

「でもさ、最終的に選ばなきゃいけなくなった時ってどうするの?」

 なんとなくだが、ふとそんなことを尋ねてみた。
 20歳以上も離れた子供に何を聞いているのか。
 自分でも馬鹿らしくなってくる。

 だけど、このモテ男は天賦の才を持った神に選ばれし子だ。
 なんとなく、俺が今だに心の隅に残したままの部分。
 その解決の糸口を見つけ出してくれるかもしれないと、そう思ったのである。

「そんなの、その時になってみなきゃわからないよ。これは振りじゃない」

「そっか」

「でも悲しむ姿は見たくないから、できるところまで手は差し伸べるよね」

「それって勘違いさせちゃったりしない?」

「アハッ……かもね?」

 でも、と彼は言葉を続けた。

「自分の気持ちと向き合うのは、自分しかいないよ。こっちが折り合いをつけさせるなんて無理」

 そうだよな、進む道を決めるのはいつだって自分。
 同じ様に、自分の気持ちと向き合えるのは自分しかいない。
 そんな不可侵領域に土足で入り込むのは、失礼だ。

 散々思い悩んで一歩一歩進んで、最近俺はそれをわかる様になった。
 流れに乗ったままではなく、自分で考えて進む。
 それをその歳でわかってるなんて、やっぱり彼は天才だ。

「みんな、心の中ではしっかり考えてるんだ」

「そうだな」

「ギフだって、クソみたいなことで全財産失っちゃったけど……毎日コツコツ働いて、コツコツお金貯めてたでしょ」

「少し驚いたよ」

 ちょっとお金返してあげようかとも思った。
 今日の飯代すらもジェラスにもってかれた可能性がある。
 情けをかけるとは言えないが、今日の飯くらいは良いさ。
 牛丼屋にお金払っといてやろう、きっちり3食分。

「だから、俺はそれまでいつも通り」

「もし、悩む様子を見ちゃいられなかったら? 離れて行ったら?」

「なんだろ? 繋がりがそれだけだったら仕方ないかもね?」

 でもさ、とセブンスはイケメンスマイルを作り出した。

「長い間一緒にいる関係性って、それだけで切れるくらいやわじゃないよ」

「おお……」

 後光が見えた。
 少しだけ、心の中にあるモヤモヤが、晴れた気がした。

「余計なものが取っ払われて、ようやく残ったものが本当の友達なんじゃないかな?」

「なるほどねえ」

 世の中のハーレム系主人公が、何故選ばずに。
 周りの気持ちに応えず過ごしているのか。
 それが少し理解できた気がした。

「おっさんはイグ姉大事にしなよ?」

「え?」

「あんなに良い女が嫁さんだなんて、最高の幸運だと思うから」

「お前に言われなくても、大事にしまくってるさ」

 大切だ。ああ、大切だ。
 色々と思い悩むことがあったけど。
 こいつの顔を見てたら不思議と元気が出た。

「セブンスちょっとこい」

「んー?」

 俺は近寄ってきたセブンスの頭に手を乗せた。

「初めてあった時から思ってたけど、お前すごいな」

「なんだよいきなり! でも、おっさんもすごいよ?」

「俺?」

「嫁さんできたからかわからないけど、今すっごい充実してる顔してるもん」

「そうかな?」

「そうだよ。本気で好きな人ができるって、そう言うことなのかなって、俺も勉強になった」

 俺をそんな目で見てくれていたのか。
 なんとも誇らしく思えてきた。
 俺にとってセブンスは恋愛師匠なのにね!

「じゃ、ほんとにみんな待ってるから行くね! おっさんもイグ姉待ってるでしょ!」

「うん、じゃまたどこかで──」

 笑顔でのお別れ。
 その瞬間。

「──充実? なんだそれ? 全てを持ってますみたいな顔だな二人とも」

 振り返って駆け出したセブンスの前に、フードを深くかぶった男が現れた。

「特にガキ、知った様な、わかった様な口聞いて、ムカつくなあ……」

 男は、フードを脱ぎ捨てると焼けただれた様な顔と牙をむき出しにする。
 過去の怨嗟に囚われたウィンストの様な、醜い顔。

「なっ」

 いきなり現れた男の凶悪な顔に、セブンスは体を強張らせた。

「奪わせろ、全部」

「セブンス!」

「アォン!」

 鋭い牙が、セブンスに喰らいつく。
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