435 / 650
本編
735 ギフさんさぁ……
しおりを挟む「お嬢さん! さあ、そんな裏路地よりもこちらへ、どうぞ!」
「だから、何よあんた」
「俺はこの街を守護する冒険者の中の冒険者、ギフトマン!」
さっきと違う。
適当過ぎるだろあいつ……。
「この街の平和を守る正義の使者、ギフトマンオブギフト!」
「……はあ?」
鋭い視線を向けていたジェラスだが、そのテンションとノリに呆れ顔になっていた。
割と好戦的なタイプだと言うのに、それすらも凌駕するダルいノリ。
さすがギフさん、強い。
ぅゎぁ、っょぃ。
「なーにがこの街の平和を守るだよ、ただの借金まみれの底辺だろーに」
「ん?」
適当な店の看板裏から様子を窺っていると別の声が聞こえた。
これまた聞いたことがあるな、と思って視線を移すと……。
「おひさ、おっさんも戻ってきてたのか?」
「セブンス!」
サルトいちモテて、さらにおませな男の子のセブンスくんだった。
以前会った時よりも少しだけ背が伸びている。
「なんか、ちょっと大きくなったね?」
「そうかな?」
「そうだよ。少しびっくりした」
「まあ、久々だったらそう思うかもね? ポチもお久しぶり!」
「アォン」
子供の成長は本当に早いなあ……。
なんともしみじみと時が経ったのを実感してしまう。
「で、話を戻すけど、借金まみれの底辺って?」
「ああ、あいつ怪我の治療費とかギルドで色々規約違反かましたらしくてね」
「うん」
「今……っていうか向こう3年くらい借金まみれで、街の雑用やってんだよ」
「マ、マジか……」
以前レスリーがなかなか怖い表情をしていたが、そんな目に。
詳しく聞くと、俺がよくやっていた様な塩漬けレベルの雑用依頼。
あれを中心にちまちまとこなして生計を立てているそうだ。
「有名だぜ、バカだって」
「そうなの?」
見たらわかるけど、みなまで言う必要性よ。
「借金漬けでギリギリの毎日を送ってるって冒険者が尾ひれつけて噂流して、そこから一番下ランクの精神衛生上の守護者みたいな立ち位置の蔑称をつけられてたんだけど……なーんか本人は街の守護者だって言い張ってんだよね」
「う、うわぁ……」
少しかわいそうになってきた。
「あれで困ってる人に手を差し伸べるのならまだ扱いは変わるけど、だいたい女の人ばっかり声かける、もしくは子供の喧嘩の仲裁だけて、冒険者通しのいざこざになったら腹痛でどっか行っちまうんだもん。モテねぇよ、アレじゃ」
「お、おう……」
セブンスは、ギフのことを「無謀ワンチャン狙い野郎」と言っていた。
だ、だいぶ落ちたな。
ちなみに格好は前みたいな鎧装備ではなく、ただの作業着である。
「君! 怖い目にあっただろう? よければ気晴らしに一杯お茶でもどうだい?」
「……お茶、ねえ」
ジェラスは足元から頭のてっぺんまで、ギフを観察すると言った。
「お茶だけじゃ、つまらなくない? もっと良いこと出来るけどお?」
「も、もっと良いことだって!?」
ギフは慌てつつも周りをキョロキョロと確認すると、言った。
「い、いくらだい?」
結局やってること、ギフにボコられて散ってった男たちと同じである。
セブンスに見下される姿は少しかわいそうだったから、何か弁護を入れてやろうと思ったけど。
弁護のしようがどこにもないの巻。
「つーか、金持ってんのかあいつ、ギリギリなんだろ?」
「知らないけど、あの人すっごくお高そうだよね?」
「アォン……?」
セブンスのお高そうだよね発言に、少し首をかしげるポチ。
うん、俺もちょっと首を傾げそうになった。
「セブンスさ、お高そうだよねって……もうそういう店言ってんの?」
「行くわけないでしょ、怒られるよ」
「だ、だよね」
「でも最近クラスの女子の中で、大人の女性ごっこってのが流行ってるから」
「大人の女性ごっこ……? なにそれ……?」
「夜のお店の真似事を俺ん家でよくやってるんだ」
ジュースを作って持ってきてくれたり、食べさせてくれるそうだ。
大抵セブンス一人に対して五、六人の女子が代わる代わる両サイドに座るらしい。
で、露骨なアピール合戦をするんだとか。
なんだよそれ。
なんだよそれ、なんだよそれ!
なんだよそれえええええええ!
「ちなみに、お触りありだよ」
「クソガキだな、お前マジで」
「アォン……」
最近の子供はませてんなって思ってるどころの騒ぎではない。
風紀が乱れているレベルである。
このまま成長したら、セブンスはいったいどうなってしまうんだ。
「そうだ、おっさん。イグ姉は来てないの? イグ姉に会いたい!」
「……絶対に会わせん」
こいつに会わせたら盗られる気がする。
俺とはステージが違う、根っからの狼男だぞこいつ!
「なんで! まさか、俺に盗られるとか考えてんの? ってことはイグ姉のこと好きじゃん!」
「いや、好きじゃなくてもう結婚したぞ。イグニールは俺の嫁さんだ」
「えっ」
ギョッと驚くセブンス。
そこ、驚くところか?
「ちぇっ、人妻だったら興味ないや。イグ姉良い女だから大事にしろよな!」
「もちろんだよ」
こいつがイグニールの何を知ってるのか知らんが、彼女は良い女だ。
今まで、相当精神的に助けてもらっている。
これからもずっと大事にするのは当たり前なのだ。
「おっ、ギフと女がまた何か喋ってるよおっさん!」
「あ、うん」
話すのをやめて、一度ギフの方を見ることにした。
「い、一番安くて何コースだい? いや、君の愛を永遠に買えるコースとか? 90分でも良い!」
「コースねえ……」
明らかに金を持ってなさそうなギフに、ジェラスの目の色はまったく興味が失せたものになっている。
「1日20万ケテル。それで私を自由にする権利をあげる」
「に、20万ケテルだって!?」
驚くギフ。
俺も驚いた、高すぎるだろ。
あの女にそんな価値ねえよ。
「でもお兄さん、他のコースなんてないわよ? いつだって1日限定であなたの従順な恋人なんだから?」
「な、なるほど……1日か……それは……」
ゴクリと喉を鳴らしたギフは続ける。
「何をどうしても良いのか……?」
「ええ」
ジェラスはスッとギフを抱く様に距離まで近づいて耳元で囁く。
ちなみに、この辺は聞こえないのだけど。
ポチが聞いて、すぐにメモ帳に書いて教えてくれるのさ。
「金が払えるなら……過激なのも、なんでも、あなたの好きにどうぞ」
「は、ははは払う! 払うぞ!」
顔を真っ赤にしたギフは、鼻息を荒くしつつ、懐から皮袋を取り出して叫ぶ。
「こっそり半年間、地道に地道に貯め続けたお金がちょうど20万ケテルあるんだ!」
「へえ、なら契約成立かしら?」
金を持ってる発言に舌なめずりをして気を良くするジェラス。
良いのかギフ、それで良いのか。
状況を打破するために貯め続けたお金を、あいつに使うのか。
俺の心の中の葛藤は、本人には届かない。
もう目がハートマークの様に、ジェラスに釘付けだ。
「なんかギフきもいな?」
「あんまり言ってやるなよ……」
ただ魅了の餌食にかかってるだけなんだよ、あいつは。
セブンスの発言にため息をついていると、ギフが首を横に振ってジェラスを引き剥がしていた。
やるじゃん!
なんとか精神を保ったか!
「……俺の汗と涙の結晶であるお金をたった1日で使い果たすのは惜しい!」
「はあ? 今更お預けはないわよ、お兄さん?」
「いや交渉だ! 僕は君に惚れた、だから1日とは言わずに一生、一生だ!」
ギフは血走った目をまっすぐジェラスに向けて言う。
「これから先、僕の給料を全て君に渡すから!」
給料って、雀の涙程度だろうに……。
でも一応嘘は言ってない。
もっとも、この言葉に騙される女なんていないだろうがな。
「チッ、しらけちゃった。やっぱり値段変更~」
ジェラスはゴミを見る様な目に戻ってから言い放つ。
「有り金全部で一発ね。あんたのやっすい給料で私の人生を買えるとか、舐めたこと言ってんじゃないわよ」
「えっ! それはおかしいだろ! だったら普通に1日20万ケテルでいいから!」
「つまんないこと言ったのはあんたでしょ? はい裏路地おいで~、とりあえずスッキリだけはさせてあげる」
「ちょ! 意外と力強いな! なんだこいつ!」
そして裏路地にギフは連れて行かれた。
で、1分でジェラスだけ戻って来た。
その手には、ギフが肌身離さず持っていた全財産の詰まった皮袋。
「おっさんどうしよう、俺もちょっと可哀想に思えてきたよ」
「そ、そうだな……」
反面教師にしよう。
厄介ごとには首を突っ込まない方がいい。
心に刻んでおく。
=====
ギフ……。
60
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。