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本編
735 ギフさんさぁ……
しおりを挟む「お嬢さん! さあ、そんな裏路地よりもこちらへ、どうぞ!」
「だから、何よあんた」
「俺はこの街を守護する冒険者の中の冒険者、ギフトマン!」
さっきと違う。
適当過ぎるだろあいつ……。
「この街の平和を守る正義の使者、ギフトマンオブギフト!」
「……はあ?」
鋭い視線を向けていたジェラスだが、そのテンションとノリに呆れ顔になっていた。
割と好戦的なタイプだと言うのに、それすらも凌駕するダルいノリ。
さすがギフさん、強い。
ぅゎぁ、っょぃ。
「なーにがこの街の平和を守るだよ、ただの借金まみれの底辺だろーに」
「ん?」
適当な店の看板裏から様子を窺っていると別の声が聞こえた。
これまた聞いたことがあるな、と思って視線を移すと……。
「おひさ、おっさんも戻ってきてたのか?」
「セブンス!」
サルトいちモテて、さらにおませな男の子のセブンスくんだった。
以前会った時よりも少しだけ背が伸びている。
「なんか、ちょっと大きくなったね?」
「そうかな?」
「そうだよ。少しびっくりした」
「まあ、久々だったらそう思うかもね? ポチもお久しぶり!」
「アォン」
子供の成長は本当に早いなあ……。
なんともしみじみと時が経ったのを実感してしまう。
「で、話を戻すけど、借金まみれの底辺って?」
「ああ、あいつ怪我の治療費とかギルドで色々規約違反かましたらしくてね」
「うん」
「今……っていうか向こう3年くらい借金まみれで、街の雑用やってんだよ」
「マ、マジか……」
以前レスリーがなかなか怖い表情をしていたが、そんな目に。
詳しく聞くと、俺がよくやっていた様な塩漬けレベルの雑用依頼。
あれを中心にちまちまとこなして生計を立てているそうだ。
「有名だぜ、バカだって」
「そうなの?」
見たらわかるけど、みなまで言う必要性よ。
「借金漬けでギリギリの毎日を送ってるって冒険者が尾ひれつけて噂流して、そこから一番下ランクの精神衛生上の守護者みたいな立ち位置の蔑称をつけられてたんだけど……なーんか本人は街の守護者だって言い張ってんだよね」
「う、うわぁ……」
少しかわいそうになってきた。
「あれで困ってる人に手を差し伸べるのならまだ扱いは変わるけど、だいたい女の人ばっかり声かける、もしくは子供の喧嘩の仲裁だけて、冒険者通しのいざこざになったら腹痛でどっか行っちまうんだもん。モテねぇよ、アレじゃ」
「お、おう……」
セブンスは、ギフのことを「無謀ワンチャン狙い野郎」と言っていた。
だ、だいぶ落ちたな。
ちなみに格好は前みたいな鎧装備ではなく、ただの作業着である。
「君! 怖い目にあっただろう? よければ気晴らしに一杯お茶でもどうだい?」
「……お茶、ねえ」
ジェラスは足元から頭のてっぺんまで、ギフを観察すると言った。
「お茶だけじゃ、つまらなくない? もっと良いこと出来るけどお?」
「も、もっと良いことだって!?」
ギフは慌てつつも周りをキョロキョロと確認すると、言った。
「い、いくらだい?」
結局やってること、ギフにボコられて散ってった男たちと同じである。
セブンスに見下される姿は少しかわいそうだったから、何か弁護を入れてやろうと思ったけど。
弁護のしようがどこにもないの巻。
「つーか、金持ってんのかあいつ、ギリギリなんだろ?」
「知らないけど、あの人すっごくお高そうだよね?」
「アォン……?」
セブンスのお高そうだよね発言に、少し首をかしげるポチ。
うん、俺もちょっと首を傾げそうになった。
「セブンスさ、お高そうだよねって……もうそういう店言ってんの?」
「行くわけないでしょ、怒られるよ」
「だ、だよね」
「でも最近クラスの女子の中で、大人の女性ごっこってのが流行ってるから」
「大人の女性ごっこ……? なにそれ……?」
「夜のお店の真似事を俺ん家でよくやってるんだ」
ジュースを作って持ってきてくれたり、食べさせてくれるそうだ。
大抵セブンス一人に対して五、六人の女子が代わる代わる両サイドに座るらしい。
で、露骨なアピール合戦をするんだとか。
なんだよそれ。
なんだよそれ、なんだよそれ!
なんだよそれえええええええ!
「ちなみに、お触りありだよ」
「クソガキだな、お前マジで」
「アォン……」
最近の子供はませてんなって思ってるどころの騒ぎではない。
風紀が乱れているレベルである。
このまま成長したら、セブンスはいったいどうなってしまうんだ。
「そうだ、おっさん。イグ姉は来てないの? イグ姉に会いたい!」
「……絶対に会わせん」
こいつに会わせたら盗られる気がする。
俺とはステージが違う、根っからの狼男だぞこいつ!
「なんで! まさか、俺に盗られるとか考えてんの? ってことはイグ姉のこと好きじゃん!」
「いや、好きじゃなくてもう結婚したぞ。イグニールは俺の嫁さんだ」
「えっ」
ギョッと驚くセブンス。
そこ、驚くところか?
「ちぇっ、人妻だったら興味ないや。イグ姉良い女だから大事にしろよな!」
「もちろんだよ」
こいつがイグニールの何を知ってるのか知らんが、彼女は良い女だ。
今まで、相当精神的に助けてもらっている。
これからもずっと大事にするのは当たり前なのだ。
「おっ、ギフと女がまた何か喋ってるよおっさん!」
「あ、うん」
話すのをやめて、一度ギフの方を見ることにした。
「い、一番安くて何コースだい? いや、君の愛を永遠に買えるコースとか? 90分でも良い!」
「コースねえ……」
明らかに金を持ってなさそうなギフに、ジェラスの目の色はまったく興味が失せたものになっている。
「1日20万ケテル。それで私を自由にする権利をあげる」
「に、20万ケテルだって!?」
驚くギフ。
俺も驚いた、高すぎるだろ。
あの女にそんな価値ねえよ。
「でもお兄さん、他のコースなんてないわよ? いつだって1日限定であなたの従順な恋人なんだから?」
「な、なるほど……1日か……それは……」
ゴクリと喉を鳴らしたギフは続ける。
「何をどうしても良いのか……?」
「ええ」
ジェラスはスッとギフを抱く様に距離まで近づいて耳元で囁く。
ちなみに、この辺は聞こえないのだけど。
ポチが聞いて、すぐにメモ帳に書いて教えてくれるのさ。
「金が払えるなら……過激なのも、なんでも、あなたの好きにどうぞ」
「は、ははは払う! 払うぞ!」
顔を真っ赤にしたギフは、鼻息を荒くしつつ、懐から皮袋を取り出して叫ぶ。
「こっそり半年間、地道に地道に貯め続けたお金がちょうど20万ケテルあるんだ!」
「へえ、なら契約成立かしら?」
金を持ってる発言に舌なめずりをして気を良くするジェラス。
良いのかギフ、それで良いのか。
状況を打破するために貯め続けたお金を、あいつに使うのか。
俺の心の中の葛藤は、本人には届かない。
もう目がハートマークの様に、ジェラスに釘付けだ。
「なんかギフきもいな?」
「あんまり言ってやるなよ……」
ただ魅了の餌食にかかってるだけなんだよ、あいつは。
セブンスの発言にため息をついていると、ギフが首を横に振ってジェラスを引き剥がしていた。
やるじゃん!
なんとか精神を保ったか!
「……俺の汗と涙の結晶であるお金をたった1日で使い果たすのは惜しい!」
「はあ? 今更お預けはないわよ、お兄さん?」
「いや交渉だ! 僕は君に惚れた、だから1日とは言わずに一生、一生だ!」
ギフは血走った目をまっすぐジェラスに向けて言う。
「これから先、僕の給料を全て君に渡すから!」
給料って、雀の涙程度だろうに……。
でも一応嘘は言ってない。
もっとも、この言葉に騙される女なんていないだろうがな。
「チッ、しらけちゃった。やっぱり値段変更~」
ジェラスはゴミを見る様な目に戻ってから言い放つ。
「有り金全部で一発ね。あんたのやっすい給料で私の人生を買えるとか、舐めたこと言ってんじゃないわよ」
「えっ! それはおかしいだろ! だったら普通に1日20万ケテルでいいから!」
「つまんないこと言ったのはあんたでしょ? はい裏路地おいで~、とりあえずスッキリだけはさせてあげる」
「ちょ! 意外と力強いな! なんだこいつ!」
そして裏路地にギフは連れて行かれた。
で、1分でジェラスだけ戻って来た。
その手には、ギフが肌身離さず持っていた全財産の詰まった皮袋。
「おっさんどうしよう、俺もちょっと可哀想に思えてきたよ」
「そ、そうだな……」
反面教師にしよう。
厄介ごとには首を突っ込まない方がいい。
心に刻んでおく。
=====
ギフ……。
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