485 / 682
本編
753 かき氷
しおりを挟む「うはーっ、見た目は寒いが寒くねえ! この腕輪すっげぇな!」
早速、断崖凍土へとやってきていた。
忙しい忙しいと言いつつも、実のところはまだ暇なのである。
ギリスでは少しばかりやることがあるからだな。
ガレーとノード、レスリーを商会へ案内したり。
飛空船のメンテナンスをオスローたちに頼んだり。
マイヤーにも話さねばならない事情があるのだけども……。
ジュノーの対応の後少しばかり話すのが忍びなくて。
俺は逃げるようにして、断崖凍土まで来ていたのであった。
メンツは俺、イグニール、ポチ、ゴレオ、コレクト。
そしてパインのおっさんとウィンスト、チビ。
ピーちゃんはお留守番で、骨に見てもらっている。
骨は飛空船の船長を現状自負しているので後で勝手に研究所に行くだろう。
「その腕輪、とったら死ぬんで気をつけてくださいね」
「おうよ!」
今回は寒くねえ、と快活そうに喜ぶパインのおっさん。
だからと言って、半袖短パンはダメなんだけどな……。
季節は夏場になるとは言えど、断崖凍土は氷の地。
それなりの防寒はしておけアホかよ、と思う。
「やっぱり氷だらけのダンジョンだなここは! かき氷食うべ」
「アォン!」
「わーい! かき氷食べたい! 甘ーいシロップで食べるし!」
「前はかき氷食べすぎて体が冷えちまって断念したが、今回は平気だしな!」
そう言いながら、ガリガリガリガリと専用の材料で氷を削り出すパイン。
食べ過ぎて体が冷えて帰宅するとは、アホだ。
「実はな……レモネードシロップがすげぇ美味いと思うんだ」
「レモネードシロップ? なんだしそれ!」
「レモン果汁に蜂蜜やシロップ、砂糖なんかで甘味をつけたもんだ。炭酸で割ってもいい」
炭酸で割ったら、それレモンスカッシュだよな。
そして、地味におっさんのアイデアは、日本だとラムネ味のかき氷。
美味いよな、ラムネ味のかき氷。
相変わらず天才か?
真理の扉を開けてる気がする、このおっさん。
「甘いシロップもいいけどよ、やっぱりスッキリ爽快が氷には合うぜ?」
「わかったから、とりあえず早く食べさせるし! はよはよはよ!」
「わかったわかった! ほら、どんどん削り出すぞポチ!」
「アォン!」
ダンジョン手前の部分で、いきなり始まるかき氷パーティー。
みんなの分の氷をインベントリに入れて持って帰るか。
そうだ、この時間を停止できるインベントリに入れておけば、である。
泡沫の浄水でもそのままにしておけると、そう思っていたのだが……。
あれだけは時間制限がつく代物だった。
インベントリがなかったら、組み上げて他に持ち去ろうとした瞬間。
泡沫の浄水は泡沫の浄水ではなくなるという奇怪な代物。
今年の未踏挑戦は、絶対に終わらないイベントとかしてしまった。
直接飲みにいくしかないんだよな。
そもそも発生と維持に必要なハイオークは教団が全滅させた。
まあもうギルドに思い入れとかないし、そのままずっと探しとけばいい。
「ここのダンジョンコアとも、繋がりがあるのか?」
かき氷を食べ始めるメンツを尻目に、ウィンストと話す。
「ダンジョンコアというか守護者だな」
現状、憤怒を冠するダンジョンコア、ヒューリーは冬眠という形に収まっている。
このダンジョンの最終守護者であるラブが言っていた言葉だ。
「過去に邪竜を封印した際に、自分の力も封印してもらったらしい」
「なるほど」
「聞くところによると、邪竜よりもやばい存在だって話だ」
あくまで、ラブが言っていたことだけど。
ダンジョンコア同士の力関係はよくわからないが、憤怒という名前からしてヤバそうなのはわかる。
敵勢に回ったらとんでもないと思うが、ラブとジュノーは甘いもの同盟を結んだ同志。
「味方だよ、味方」
「そうか。ならば小競り合いについて何か話を聞いていないか確かめておくべきだな」
「うん」
立地的には、他のダンジョンとは距離が離れている。
だから心配ないとは思っていた。
何かしらの粉をかけるならば、まずは深淵樹海からだろうしな。
立地的には割と近い位置に存在するぞ。
深淵樹海、奈落墓標、夢幻楼街、魂枯砂漠。
大迷宮の勢力を西と東で分けるとするならば、東に密集している形だ。
「んー……ラブちゃん遅いなあ」
かき氷を食べながら、ジュノーがふとそんなことを呟く。
「いつもだったらひょっこりドア出して混ぜろって言うし」
「確かに」
ダンジョンの外郭付近といえど、遊びに来たら迎えに来てくれていた。
甘いもの甘いものと叫んでいたら、来ないはずがない。
「……中に入るぞ」
少しだけ、嫌な予感がした。
「確かこの辺に前来た時と同じ入り口があったはずだから」
アイシクルミントのことを聞きに来たのだが、何かを引き当ててしまったのだろうか。
可能なことならば、トイレ行ってたんじゃとひょっこり顔を出して欲しいのに。
「俺も少し気になる点があるぞ」
パインも言う。
「透き通った氷の質はかなり良いものだが、何となく味が抜けてる気がする」
「……氷に味とかないと思いますけど?」
「良いや、すべての物に味ってのはあるんだぜ? ほら、食ってみ?」
「いや、今は良いです」
体調不良とは無縁だが、氷を食べて後でお腹壊す状況になるのはちょっとね。
「トウジ、心配ならさっさと中に行きましょ? 大丈夫よ、大丈夫」
「うん」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29,992
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。