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本編
752 アイシクルミント
しおりを挟む「その名も──アイシクルミント」
それは、北国北方のどこかに存在すると言われるミントだそうだ。
その冷涼感、爽快感たるは、どのミントよりも抜群の代物である。
パインのおっさんの説明だ。
「世界中を旅してる途中に手がかりだけ見つけたんだぜ」
「手がかり? 直接探しに行った訳ではないんですか?」
確かギリス海軍の船に乗ってた時期あったよな。
聞いたぞ、貿易船の船長の話。
「一応探しに行ったけど、寒過ぎたし氷だらけだし帰ってきた」
「氷だらけってことは……」
「そう、断崖凍土にあると言われている固有のミントだなっ!」
「んー? そんな話聞いたことないし!」
パインのおっさんの発言に首を傾げるジュノー。
確かに、俺もジュノーのように違和感を感じる。
断崖凍土の守護者ラブとは友達だ。
しかし、そんなミントの話は聞いたこともない。
「忘れてただけなのかな?」
「そんなことないし! ダンジョン名産の話は何度もしてるし!」
俺の顔の目の前で唾を飛ばしながら力説するジュノー。
「甘いもの同盟はミルクシャーベットを広めようって話をしてたし!」
「そうなんだ」
二人でそんなことを考えていたのか。
そこらじゅうが氷でできてるから、かき氷ならいくらでも食える。
ミルクシャーベットも同様、たくさん生み出せるから便利だな。
しかし、氷にシロップをかけて食べる文化はギリスにあるぞ。
俺がよく知る現代日本の縁日に出て来るような代物ではないがな。
今更流行るとは思わんし、それ目当てでダンジョンに来るのか?
香辛料に高値がつくのは、当時の味気ない食卓が彩られるからで。
カレーそのものには、特に付加価値がつかないことと一緒だぞ。
「しかもシャーベットを名産にしたところで、持って帰れんだろうに」
「流行るもん! 二人で一緒に甘いものを食べながら考えたんだもん!」
……だいぶまったりした姿が想像できるな。
どいつもこいつもその場の閃きを考えたって言い放ちやがる。
考える人って知ってるか?
あれが本当にシンキングしてる人のあり方ってもんだぞ。
「まあ、それなら忘れてるって線はないかもな……」
「ないし!」
バニラの匂いを寝る前にちまちま嗅いでたくらいだし。
パインのおっさんの言うとんでもないミント。
それを知らないことはないだろうけど……うーむ?
「まあ、元からあるものなら特に何も考えずに放置してるだけだろ」
そんなにすごいものなのかのー? とか言いそう。
「あいつなら、そのミントを便所の芳香剤にでもしてる気がする」
「便所って……トウジあんたねえ……」
俺の言い方に、イグニールがため息をつく。
少しばかり汚い言い方になってしまったが仕方がない。
「だってあいつ、いっつもお腹ゆるいじゃん」
そして甘いものの食べすぎて下っ腹出てたしな。
引きこもりロリとしては満点の身体つき。
ダンジョン勢の中で、一番ダンジョンっぽいとさえ俺は思っていた。
「それならミントを食べた方がいいな! お腹を整えてくれるぞ!」
「ガレーさん、よくわからないことで話に入らないでください!」
ガレーが唐突に話に加わる。
そしてそれをノードが止める。
「いやしかし、お腹が緩いって話の流れだっただろ……」
「いやアイシクルミントの話ですよ! お通じの話じゃないです!」
「健康管理をする上で排泄をチェックするのは基本だ」
さらにウィンストが加わり、何かをポケットから取り出した。
カラカラに乾燥した、なんか繊維質多めの焦げ茶色の物体。
「む? なんだそ……くっさ! なんだそれは! なんなんだ!」
目の前で見せられ、思わず仰け反るガレー。
「チビの朝の贈り物を乾燥させたものだ。私は逐一チェックしている」
「な、ななな、なんでそんなもの持ってるんですか! 朝の贈り物って!」
「ちなみに、強大な竜の糞は矮小魔物は寄せ付けない強力な魔除けとなる」
「確かに上位の魔物がいると思って弱い魔物が近づかなくなる習性は存在するし、それが竜のものだとしたら効果覿面だろうと思うが……みんなでデザート食べてる最中にそれを出すのはやめろ!」
「ガレー、一つやろう。貴重な代物だぞ」
「いらんわ! 小賢者と噂される存在が、まさかこんなやつだったなんて! ノード受け取れ!」
「ぼ、ぼぼぼ僕ですか!? なんでこう言う時だけ僕なんですか!!」
「狩りで森林駆け抜ける時、糞を調べて追ったりするから慣れてるだろ? ほら、貴重な代物だとよ」
「嫌ですよ! それはあくまで森の中であって、今じゃないんですから! 嫌だああ! うわああ!」
……騒がしくなったな、一気に。
大所帯だったら仕方のないことかもしれない。
悪くないけどね、こういうのも。
「まあ、行って聞いてみるのが早いか」
「ちょっと、さらっとスルーしないで騒ぎ収めなさいよ」
「ははは、俺には無理だ。イグニール頼んだ」
「ええ……まあ、好きにさせておきましょうか……」
=====
話は脱線か、それとも……
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