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本編

767 ひ、左足がっ

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「……はっ!」

 溶けた氷の水滴が頬を叩いて目が覚めた。
 どうやら、気を失っていたらしい。
 流れてきたマグマに照らされて、ジリジリと肌が焼けている。

「ここは……」

 どこだろか、という疑問はすぐに解決した。
 憤怒だ。
 怒りのままの攻撃に、飲み込まれたのである。

 全員。
 灼熱のマグマに飲まれたはずなのだけど……。

「生きてるのが不思議だわ、マジで」

 恐らく、フォルの効果がグループメンバーにのっていたからだ。
 死ぬかと思った、と言いそうになったけど。
 一回死んじゃってる説あるぞ、これ。

「パインのおっさんもグループに突っ込んどいてよかったぜ」

 グループリストを見ると、全員が健在。
 HPも満タンで生存していることがわかる。
 図鑑の連中は、1スロットだけ空いていた。

 フォルを召喚していた枠である。
 つまりは、キングさんはグレイトキングになれたのだろうか?
 わからん、マグマの濁流の時にお陀仏した可能性も……。

「いやいや、そんなことは考えるな」

 可能な限り、前向きな状況を考えて行動しよう。
 そうしないと、判断が鈍る。
 刻一刻を争う事態だからな、現状。

「にしても……」

 ジュニアのダンジョン貫通して崩壊させるとか。

「マジでやべーわ憤怒。超怖え」

「まあわしのパパじゃしのう」

「うわっ!?」

 寝転んだままため息をつく俺の隣に、ラブの顔面があった。
 驚いて立ち上がるのだが、そのまま転んでしまう。

「あ、あれ?」

「……左足、千切れとるのう」

「えっ」

 そっと自分の足に目を向けると、千切れてる。
 お、俺の足が膝上から下が寸断されてるぅ!

「わわわっ!」

「呆れた生命力じゃのう? 傷口は凍らせておいたから問題ないぞ」

「いや、いや待て、凍らせたとかそんな次元じゃなくない?」

 平然としてるけど、由々しき事態だぞこれは!
 足無くなってんねんで、ってやつだ。

「すっげぇ鋭利な切り口だけど……何がどうしてこうなった……」

「それはのう」

 ラブが教えてくれる。
 倒れて転がっている俺の足元に、丁度鋭利な氷が落ちてきたそうだ。
 それで一気にスパァンと、俺の足は切れてしまったらしい。

「丁度落ちてきた音で気がついたんじゃ、間に合わんくてすまんのう」

「いや、良いよ……」

 運が悪かったと言うことで、ここはひとつ収めておく。
 俺の装備はそんなに柔にできてないはずなんだがなあ……。
 VITガン盛り、耐性抜群。
 それでも切れてしまってるってことは、相当な質量があったのだろう。

 ダンジョン自体が氷で作られているからなあ。
 考えてみれば鋭利物だらけの超危険地帯でもあるのだ。

「傷口は凍ってるし、切れたばっかりならまだ大丈夫か」

 不幸中の幸いとすぐさま自分の左足をインベントリに収める。
 その様子を見て、ラブが呆れたように言った。

「意外と冷静じゃのう」

「左腕食われたことあるしね、暴食に」

「ふおー、意外と波乱万丈な怪我をしとるの」

「まあね」

 その時の左腕は傷も残らずちゃっちゃとくっついた。
 いや、くっつけたと言って良い。
 だから今回も、多分大丈夫である……た、多分。

「とりあえず左足の代わりにわしのツインテールつけるかのう?」

「いや、やめとくわ」

 帰って邪魔だろうしな。
 なんか意識するとひしひし痛みが襲ってきたのだけど。
 こいつのバカみたいな提案を聞いて、頭痛がした。
 足が痛いより、まだ慣れてる分マシなのかもしれない。

「どっこいしょ」

 ババアみたいな口調で俺の隣に腰掛けたラブが聞く。

「して、これからどうするんじゃー?」

「どうするもこうするも、みんなを探すしかないよ」

 マップには写っているから、いずれ見つかる。
 瓦礫を退けて道を作る用として、ロイ様を起用だ。
 グループリストのみんなのHPは満タン。
 なので、奇跡的に怪我はしていないはずである。

「違うぞ。集めて、その後じゃ」

「そんなの憤怒の怒りを鎮めるに決まってるだろ」

 そう告げると、ラブは小難しい表情をしていた。

「……みんな集まったら、さっさと引き返すんじゃ」

「はあ?」

「あの一撃以降、追撃は来とらんじゃろ? じゃから、こっそり逃げるくらいならば心配いらんのじゃ。パパの怒りも前に比べて多少は落ち着いとる節があるからのう」

「あ、あれで落ち着いてるのか……」

「ふふん、全盛期ともなれば邪竜の横っ面をぶん殴ってぶっ飛ばすことも可能じゃ! 勝負はつかんがのう!」

「そうなんだ……でもさ、止めなきゃ周りに被害が出るなんてことは大丈夫なのか?」

「被害が出るレベルだったら、とっくに近隣諸国に被害がでとる。その辺は心配いらんのう」

 聞くに、迷宮の最奥にまで引きこもってしまったらしい。
 ダンジョンの本能か。
 それともまだ自我というものが残されているのか。

 どっちにしろ。
 最悪の事態にならなかったことに感謝である。

「ラブはどうするんだ?」

「パパが再び暴走を始めるか心配じゃから、わしは戻るぞ。守護者じゃし」

「いや、逃げろよ」

 何言ってんだ。
 我が子だって理由も無視して攻撃を仕掛けてくるレベルだぞ。

「そんなところに行ったら、権限を持ってない今、確実に死ぬ」

 守護者は、ダンジョンコアには絶対勝てないのだから。

「じゃろうな」

 俺の言葉に、ラブは首を横に振る。

「でも、それはできんのじゃ」

「なんで」

「約束したんじゃ。怒りが静まるまで面倒を見るとのう」

「ええ……」

「身内の面倒はきっちりしっかり身内でなんとかするもんじゃ。主らが生きとる世界、意外とわしも好きでの? 何かの拍子にぶち壊れてしまうことは是が非にでも回避しておきたいのじゃ」

「……」

「パパも怒りで我を忘れとらんかったら、この世界が好きなのじゃ。じゃから、昔に邪竜を封印するべく勇者たちに力を貸したんじゃから、パパが守ったその世界、わしも守らんと」

「なるほど……」

 理由は理解できた。

「だったら俺もついて行くぞ」

「はー!? 巻き添えくらいかねんだけじゃから来るな!」

「いや、もう十分食らってるんですけど……」

 片足ないし。
 そもそも、ラブが心配だからこそビシャス勢力と戦ってたんだ。
 そこまでやって、命を捨てるような言動を見過ごすわけにはいかない。

「ジュノーがさ、楽しみにしてたんだよ。お前と会えるの」

「うむ? いきなりなんじゃ?」

「一緒に甘いもの食べるっつって、俺にバニラを取りに行けとせがむんだよ」

 せっかく教えてもらって取りに行ったカカオ。
 それから作ったチョコバニラの味、まだラブは知らないだろう。
 ジュノーは教えるのを楽しみにしていたからな。

「俺、あいつの約束後回しにしてばっかりだから、そのくらいはしてやらないと」

「……素直に友達じゃから協力すると言えば良いではないか」

「ぐっ」

 ま、まあそういう意味でもついて行くと言っているのである。
 行動する結果が同じなら、理由はなんだって良いだろうに。

「とにかく手伝うぞ。一人でやるより絶対に良い」

「むぅ……トウジ、ありがとうなのじゃ」

「良いよ。つーか、ビシャスの目論見通りに事が運ぶ、それだけは許せねえ」

 これはリアルガチのマジで本心だ。
 ゲームマスターを気取ってるようだが、くそったれめ。
 千切れた足で殴りつけてこれがキックパンチだって言ってやりたい。

「では、行くかの」

「おう」






=====
「おう……っておっとと!」

「片足だけじゃ歩きずらかろう、おんぶしてやるのじゃ!」

「いや、なんかそれはちょっと……」

「何を恥ずかしがっとるか! 美少女の背中で興奮するタイプかの!?」

「いやそれはない。性欲奪われてるから」

「つまらんのう。ほれ、つべこべ言わずに背負われい。ツインテールに捕まれ!」

「な、手綱みたいだな……」

「便利なのじゃー」

 少女に背負われる30歳。
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