装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

文字の大きさ
559 / 650
本編

859 全身シースルーはオシャレどころの話じゃない

しおりを挟む

 スピリットマスターとは、この地のエルフに代々伝わる特殊な存在。
 高潔な魂は精霊に好かれ、その力を借りて行使する者である。

「どこが高潔なんだ……?」

 走りつつ、メイヤの説明を聞きながら俺はため息を吐いた。
 悪党以外の何物でもなく、高潔な要素がどこにもない。

「わからない。でも、継承者は先代が決めることだから」

 先代のスピリットマスターであるサミュエル。
 彼女とつながりのあるメイヤは、酷く動揺していた。

 無理もない、目の前で見ちまったんだからな。
 親代わりだったサミュエルの亡骸を。

「会う機会はそこまで多くなかったけど、サミュエルは優しい人だった。私に外の世界のことをたくさん話してくれた。彼女が選んだ継承者が、高潔でないわけがない」

「……なら、どこかで変わってしまったってこと? もとからあんなんで隠してたとかは?」

「スピリットマスターの前に、邪悪さを隠すことなんて不可能」

 面識もない俺のことを知っているようだったし、その可能性は大いにある。
 誰かの入れ知恵、または洗脳によって、ソルーナは豹変した。

 こういう入れ知恵が得意なやつには、思い当たる節がある。
 ビシャスだ。
 裏でなんかコソコソと動き回るといったら、あいつだ。
 悪党に染め上げてしまう能力とかだったら、面倒この上ない奴である。

「とにかく、この先に転移門があるんだろ?」

「そう」

「なら、その付近で少しばかり待機してて」

「トウジはどうする?」

「俺はあいつに捕まった大切な友人を助けに行ってくるよ」

 ソルーナの二面性を知らないのであれば、説得は十分にできる。
 俺が見たことをすべて話そう、いなくなって感じた気持ちもだ。
 そしてすぐに帰還のスクロールを用いて、海を越えたトガルまで戻ってもらい、メイヤを迎えに行く。

 走りながら、なんとか手順を組み立てていく。
 上手くいくか、いかないか、なんて考えない。

 死ぬ気でやらないと。
 大事なものを両方失った結果になりかねないからだ。

「……トウジ、やっぱり一人で待つのは嫌。傍に居たい」

「ダメダメ。それしたらあいつの思う壺なんだから」

 俺一人では、守りきれるかわからない。
 だとすれば、ポチからジュニアにチェンジして引きこもってもらうしか考えられなかった。

「一人強い味方をメイヤにつけとくから、安心だよ」

 不安そうな彼女の目を見ながら、俺は言う。

「なんたって、最強のダンジョンコアが守ってくれるんだから」

「ダンジョンコア……?」

「ちょっと性格はひねくれてるけど、絶対に安全を保障してくれる」

 俺のインベントリにあるほぼ無限と言ってもいいリソース。
 そこから作り出されるダンジョンは、召喚時限定だがまさにチートクラスの能力。
 話し相手にもなってくれるから、一人で心細いって心配もない。
 やっぱ虎の子ジュニアはできる子なんだわ。

「ォン」

「ひねくれてるのは俺の影響だって……? あとでもふむにの刑だからな、ポチ」

 まあ、否定はしないけど。

「……わかった」

「同意してもらえて助かるよ」

「せめて、今だけでも手を握っててほしい」

「オッケー。ポチも空いた方の手を握ってやってくれ!」

「アォン!」

 それくらいなら、俺にもできる。
 彼女を安心させようと、小さな手を握ろうとした時だった。

「あ……」

「あれっ」

 握れなかった。

「え? な、なにこれ、ど、どうなってんの??」

「アォン??」

 握ろうとした瞬間、彼女の手を俺の手が通過してしまった。
 まるで空気になってしまったかのように。

「メ、メイヤ!?」

「アォン!?」

「……?」

 さらに驚くべきことに、メイヤの全身も半透明になっていた。
 さっきまで普通だったのに、何がどうなってるんだ。

「全身シースルーってどころじゃないぞこれ! お洒落さんにもほどがあるだろ!」

「アォン!」

「バカ言ってる場合じゃないって? どうにかしろって? んなことわかってるって!」

 でもどうすりゃいいのかわからない。
 HPが減っているのか、MPが減っているのか。

 そうだ、グループ機能に入れよう!
 これが異常状態なのか、なんなのか、判断ができるはずだ!

「ああ! でも手が握れないんだったらそもそもグループに入れられねー!」

「アォンアォン!」

 ポチと二人でワタワタしていると、声が聞こえた。



『──だから言ったじゃないですか、逃げるのは無駄ですって』



 ソルーナの声。
 それと同時に、空から巨大な紫色の斬撃が降ってきた。

「うぉぉおおお!?」

 大きさは、翼を広げたワシタカくんくらい。
 慌てる俺たちは、躱すこともできずにその斬撃をまともに受けた。

 一瞬の出来事にスタンスすらかけることも叶わず。
 ポチと二人揃って激しくぶっ飛ばされた。

「ポ、ポチ……大丈夫か……?」

「アォン……アォ」

 抉れた地面の中で、ぐったりしたポチがメイヤの心配をしろと言っていた。
 その言葉にハッとして、周りを見回す。

「……メイヤ! メイヤー! くそっ、土煙で何も見えない!」

 ポチを抱きかかえながらなんとか体を起こして、秘薬を“使用”した。
 俺は平気だが、ポチのダメージが思ったよりも大きい。
 図鑑の中で休んだ方がいいと、秘薬を渡してすぐに戻した。
 空いた枠で他のサモンモンスターを呼び出そう。

「忠告したはずなのに、聞かないからですよ。アキノ・トウジさん」

 呼び出す前に、再びソルーナの声が聞こえる。
 余裕ぶってて憎たらしい声は、たとえイケボだとしても絶対好きになれない。

「……そんな忠告、一言も聞いてないけど?」

「ああ、あなた達が去った後に言ったんでした」

 薄まっていく土煙の中、斬撃で両脇の森まで抉られた道の中をクソ野郎が歩いてくる。
 その腕には、透過状態から普通の状態に戻ったメイヤが抱えられていた。
 意識を失ってはいるが、身体には傷一つ入っていないのは少しだけホッとする。

「お前がメイヤをどうするつもりか知らんが、今すぐ放せ」

「お断りします」

 にこりと微笑むソルーナ。
 余裕ぶりやがって。

「メイヤが透明になったのもお前の仕業か、ソルーナ」

「何を勘違いしているのか知りませんが、全く違う話ですよ。それもこれも、あなたのせいです」

「なにがだ」

「ゆっくり説明をしてあげたいところですが、先にやらねばいけないことがあるので……」

 そう言いながら、ソルーナは片腕をあげる。
 すると後ろからゾロゾロとエルフ達が武器を持って俺の方へと近づいてきた。

「捕らえてください。彼が先代スピリットマスターを殺し、その娘を連れ去ろうとした人間です」

「なっ!?」

 奴の言葉に頷いたエルフ達が、わらわらと俺を取り囲む。

「知らない人間がうろついているなと思っていれば……」

「やはり人間は信用ならんやつが多い」

「先代を尊重し、交流を続けてはいたが……」

「ああ、これからはもっと厳しくする必要があるな」

「ちょ、ちょっと待ってください! え!?」

 サミュエルに手をかけた張本人は、目の前にいるソルーナ。
 なんで、俺が犯人扱いされなきゃいけないんだ。

「違います! 俺じゃなくて、そこのサルーナが犯人です! 見ました!」

「スピリットマスターがそんなことするはずないだろ?」

「そうだ。無用な不殺生は精神が汚れ、精霊からは嫌われる」

「無知で浅はかな人間。高潔だからこそ、スピリットマスターなんだ」

「ちょ! ちょっと! だから違いますって!」

 必死に弁明するも、エルフ達は俺が犯人であると決め付け疑わなかった。
 惨状を見たメイヤも疑わなかったように、彼らもスピリットマスターを疑わない。
 俺はサモンモンスターを召喚することもできずに、拘束されてしまった。
 ここでワシタカくんを召喚して、無関係な人たちに怪我をさせてしまえば、それこそ目も当てられない。

「……ソルーナ、お前」

 睨み付けると、ソルーナはニヤリと笑いながらこう言った。

「話があるなら檻の中からお聞きしますよ。私からもいくつかありますから」
しおりを挟む
感想 9,839

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。