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本編
898 なんか聞いたことあるやーつ
しおりを挟む「今、ウィンストって言いました?」
俺の問いかけに、長は眠たそうに欠伸をしながら答えた。
「この地に詳しい、博識な冒険者の方ですじゃ」
そりゃもともとこの森に住んでいたからだろう。
長が生まれるずっとずっと前からあいつはこの地で生きていた。
「里を追われた我らを助けてくれたのですぞ」
井守衆が小さくされてしまってすぐのことである。
百足衆が示しを合わせたように、里に乗り込んできたとのこと。
長たちもそこですべて気づいたらしい。
最初から偽情報で、百足衆によって仕組まれた罠だったことに。
「多くの仲間が捕まって、我らとて追手によってもうダメかと思った時ですじゃ」
突如として、強い風が吹き山火事が起こったらしい。
「すごいですぞ! 突風がぶわーってなって、火がぐおーってなって!」
「ぶわーってなって、ぐおーってなってって状況がよくわかりませんね……」
「ややっ! 失礼した女神殿! この体になってから説明が難しいんですじゃ」
幼児化の影響か。
「こっちで適当に保管しとくんで、そのまま無理せず話して良いですよ」
「かたじけないですぞー」
突如として起こった山火事は、百足衆の追撃から身を守ってくれた。
しかし、火の手に囲まれているのは井守衆も同じ。
「普段なら火ダルマくらい訳ない我らですがのう」
「火ダルマが怖くないって……とんでもないですね……」
「その時ばかりは初めて恐怖を感じたんですぞ」
そして全員で身を寄せ合って震えている時に、空から誰かが現れた。
小さな竜を頭に乗せた冒険者、ウィンストである。
「こっちだ、とウィンスト殿は我らに道を指し示してくれたのですじゃ!」
ウィンストの魔法によって、山火事の中にぽっかりとできた道。
そこを通って、なんとか長たちは逃げ延びることができたそうだ。
「そんなことがあったんですね」
「絶望的な状況に現れた一筋の光ですぞー! 我ら一族、全員で万歳土下座ですじゃ!」
崇拝じみたあの万歳祭りをウィンストも受けたらしい。
しかも、土下座つきで。
「あまり金目の元に興味はない我らですが、一族に伝わる秘宝が一つありますじゃ!」
「へえ、どんなですか?」
話には関係ないが、気になったので聞いてみた。
「身に付けるだけで恐ろしいほどにステータスや攻撃力、魔力が増える手甲ですぞ!」
「ほうほう」
「乱神の右手、乱神の左手と呼ばれるそれは……古より伝わる秘宝ですぞ!」
「何だかすごいですね! そんなものがあるなんて! でも……」
と、エリナは続ける。
「そんなすごいものがあるのなら、使ってみんな倒しちゃえば良いんじゃないですか?」
「いや、使えない理由があるとかだろ?」
使って倒せてるなら、とっくに使ってるんだよなあ……?
俺の言葉に肯定しながら、長は答える。
「言い伝えによって、祀った場所から出せないのですぞ」
「ほらね?」
「うう、浅はかでした……」
なんかすごいものつったらな、基本的にはそんな感じなんだ。
本当にやばい時に使えないような状況にされているから、役に立たん。
「中途半端に出してしまうと、乱神様の怒りを呼ぶんですじゃ」
ですが、と長は続ける。
「これまでに吸い続けてきた我らの利益は約10億ケテル……おそらくあと少しなんですぞ……」
……むむっ?
どういうことだ?
「吸い続けてきた利益って……え? 使うのにお金が必要なんですかそれ?」
なんか、身に覚えがあるというか。
使うのにお金はいらないが、強くするためにお金がいる装備なら知っている。
しかもとんでもない額のお金がいるやつな。
「使うのにお金はいらんのですぞー! ただ、強くするためには必要なんですぞ!」
なにー!?
そういう装備、俺知ってる!!
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