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本編
908 トウジ、最後の晩餐?
しおりを挟む「知っているかと聞かれましてもね……」
実際に会ったことがあり、トウテツの話は彼から聞いていた。
これを正直に話すと、俺はどうなってしまうのだろう。
さっきもポロっと逆鱗に触れてしまっていた。
もう一度触れかねない可能性がある。
「まさか、あの塔を登り切ったというのか?」
「いやいやそんなまさか」
天まで届くほどのクソほど巨大な塔。
そんなもんを正面から登り切るだなんて、そんな面倒なことはしない。
どっちかといえば、空から直接乗り込んだ。
これが正しい言い方である。
……が!
訂正せずにありのままに、登ってはいないと言うことだけ伝えておこう。
「登ってないですよ」
「なら空を飛んだとでも言うのか?」
「……」
思いの外鋭いタイプだった。
ヤベェな、と思って一瞬おし黙ると、それを肯定と受け取ったのかトウテツは言う。
「にわかには信じがたいが、わしも長いことその身を封印していたからな……そういうこともあるか」
なんで妙に理解が早いんだよ。
理解が早いと言うか、状況を飲み込むのが早いと言うか。
「ふむ、あのクソ髭の居城に空から侵入し、生還か……なるほど」
何かに納得したような表情を作ったトウテツは、巨大な瓢箪から杯にトクトクと酒を注いで俺に差し出した。
「飲め」
「いや、赤ちゃんなので」
「飲め」
「えぇ……」
これはもしや、杯を交わすとかいうそんな展開?
明らかに今の俺の体格に合わない酒の量。
こんな量飲んだら急性アルコール中毒で死んでまうわって感じなのだけど……。
飲まなかったらそれはそれで殺されそうだった。
現状、目の前にいるこいつは圧倒的強者。
いや、俺が圧倒的弱者である。
無闇矢鱈に反感を買ってしまうのは避けるべきだった。
つまり、死ぬ気で飲む。
「あ、ありがとうございます」
「良い。貴様を認めてやろう、わしの一時的な器としてその身を捧げろ」
「えっ」
「喜べ。この力の神であるトウテツの器になれること、それは誉れだぞ」
待て待て待て待て、それって結局俺の体を乗っとるってことだよな?
一つだけ聞いておこう。
「それって、今の俺はどうなりますか?」
仮に共存の道が開けるのなら、それでも良い。
今はその選択肢しかなく、後々なんとか追いやる方法を考えるだけだ。
「元の魂は喰うに決まってるだろう。わしの腹の中で永遠に生きれるぞ」
「ええ……」
そんな永遠の命なんていらない。
鬼の腹の中で永遠の時を過ごすなんて、多分発狂するだろう。
自殺もできなければ外の世界も見れないなんて、地獄だ。
「ちなみにだが……」
トウテツは腕を遠くの森に向けて、体に力を込めた。
その瞬間、——ズオォォォオオオ!!!
とんでもない程の衝撃波が起こり一直線に森を駆け抜けていく。
当然ながら、駆け抜けた後には何も残っていなかった。
「……選択肢が存在すると、今後に及んで思っているわけじゃないだろうな?」
「な、なさそうっすね」
あれを今の俺に向けられたらどうなる?
耐えれるか?
耐えた後にどうなる、即死の未来が見えるんだが?
今まで自分の装備でこういった最強クラスの本気の一撃をまともに受けたことがない。
弱くなった現状、装備を全てぶち壊され、全てを失って死ぬのが目に見えていた。
……降参するしかないか?
少しでも息を繋ぐためには、大人しく受け入れるしかないのか?
腹の中に囚われたとしても、永遠の命だ。
死んだようなもんだが、死んだわけではない。
現世に残ったみんなが助けに来てくれるかもしれない。
腹の中でサモンモンスターを召喚できるかもしれない。
わずかな希望に、一つ。
掛けてみるしかないのだろうか。
「わかった。希望通りにするよ」
「うむ」
「その前に一つ、遺書だけでも書かせて欲しい」
「何も死ぬわけではない」
「それでも今の俺がいなくなるんだから、残された人に何かを伝えるのは道理じゃないのかな? だって、あんたも次勝つために人に自分の力を分けて封印したんだろう?」
「ヌハハ、確かにそうだな! 良いだろう、簡単にしたためろ」
「簡単にって言われてもなあ……妻が二人に親友が一人に友人が……えーっと……」
「多いぞ! 一人一言ずつでまとめろ!」
「そんなこと言われましても……ねえ? まあ、言われた通りにしますけど……」
「そうだ、いっそのこと貴様の身近な奴らを全て喰らってやろうか? そうすれば貴様も寂しくなかろう」
「……それをしたらあんたの腹を突き破ってでも阻止しますよ?」
お前にも逆鱗があるように、俺にだって同じようなものがある。
周りの大切な人を傷つけた瞬間、俺は死に物狂いで蘇る。
持てる全てを使って、何がなんでもその腹を突き破って止めてやるんだ。
「俺を器にするのならば、そのくらいの覚悟を持って飲み込んだ方がいい」
「赤子の分際で……と言いたいところだが、中々の胆力だ。尚更気に入ったぞ」
「そうですか。じゃあ、遺書を書くので待ってくださいね」
俺もワンパンでアローガンスにぶっ飛ばされたから協力して倒そうぜ、なんて話は通じないんだろうな。
そんなことを言うと、逆に不必要だとされて器にすらならずに消されそうだ。
こういう手合いは一人で倒したい系なんだよな、まったく面倒臭い。
たっぷり時間をかけて遺書を書いてやるよ、こんちくしょう!
「あと、俺が器になったら貴方にも責任がありますよ? そこんところを契約しておきたいんですけど」
「なんだ」
「まず、二人いる妻をしっかり愛すこと。乱暴に扱ったりしないでくださいね? それから、子供がしばらくしたら生まれると思うんですが、ちゃんと教育をお願いしますよ。絶対に力一辺倒に育てないでくださいね? 俺の代わりにパパになるんですから、その辺ちょっとちゃんとやってもらわないと、遺書に書く内容がどんどん増えてしまいますし」
「……中々の胆力だと言ったが、とんでもないほどに図々しいやつだな」
図々しくもなるだろうが、今からこいつの腹の中に入って体を乗っ取られるんだぞ。
そうなったら役目をしっかり果たしてもらわないと。
「対価はきちんと出しますよ」
「む? 器以外に対価を出せるとは、どういうことだ?」
「俺のアイテムボックスの中には数千単位で秘薬類が入ってます。俺の体を乗っ取っても、多分それはスキルじゃないから乗っ取れないと思うので、有用の際にはあなたの腹の中で秘薬を使ってパワーアップさせることが可能だと思います」
多分ね。
他にもなんか色々と魔力的に良い感じの物がインベントリ内には存在してるから、悪くないだろう。
「約束を守ってくれればこっちで勝手に助力しておきます」
「ほう……」
インベントリからとりあえず大量の物資を出してみせると、トウテツは興味を示していた。
はあ……そうだ、最後に牛丼を食べておこう。
しばらく食べられないかもしれないし。
一応お伺いを立てておく。
「あんたの腹の中ってご飯食べれるんですか?」
「そんなもの食べなくても問題ない」
「なら、ちょっとお腹空いたんでご飯食べますね。最後の晩餐ですしこれ」
「図々しいを通り越した別の何かだな、もはや……好きにしろ……」
「どうも」
たしか、飯系の依頼とかで作った思い出の料理が色々と残っているはずだ。
牛丼の他にもちょっとずつ食べ納めしとくか。
蟹尽くし雑炊、ラーメン、うなぎの蒲焼き、チョコレート、お寿司、牛丼。
絶対に、絶対に取り戻して再び食べるぞ。
この味をしっかり覚えておいて、諦めない気持ちに変換するのだ。
「はむはむはむ」
赤ちゃんの舌だからだろうか、なんとも全てが初めて食べたような感動的な味だった。
いや、最後だからなのかもしれない。
「……ぐううううううううううううう」
「はむはむはむはむ、うまうまうまうま」
「——ぐぅうううううぅぅぅぅううぅぅぅうう」
隣ですげぇ腹の音が聞こえる。
チラッと横目で見ると、酒を飲むのをやめたトウテツがジッと俺の様子を見ていた。
「腹、減ったなあ」
これ見よがしに、なんかそんなことを言ってるんだが、これは一体?
「でも最初に食べるの決まってるんでしょ? 器なんでしょ?」
「食べるのではなく喰らうだから、飯はカテゴリーに含まないのだ」
「でもこれ俺の最後の晩餐なんで、そこで黙って見ててくださいよ」
「……あー、腹減ったなあ、復活したばっかりで空きっ腹に酒じゃもんなー」
=====
トウジ「あっ……この流れは……!!」
ついにモデリング終わったんで、私のバーチャルが動き始めました。
詳しくはツイッターです。
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