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本編

915 うーん、奇跡っ!

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「今から半年ほど前のことだ、サルトにより多くの人が流入する様になった」

 国境沿いに存在する大きな裂け目、竜の爪痕。
 もともと国交の要となるので、人の往来は少なくはない。

 しかし、半年ほど前から急に。
 流民の様な格好をした人々が多く流れる様になったそうだ。

「もっとも、デプリでは色々と事が起こっているから仕方がない」

「あ、うん」

 周りの国を無視した勇者召喚、からのスタンピード。
 さらには、アンデッド災害。
 そして勇者をクロイツに奪われてしまうと言う失態。
 極め付けは、俺が押し良きした教団本部の破壊か。

「荒れるのも、さもありなんと言ったところだった」

 このほかにも色々と細かな失態はあったのだろう。
 落ちぶれてしまった王家の威信。

 王家側が管理する地域は、治世が行き届かずに荒れてしまっていたそうだ。
 しかも、国の要所としてになっていた利益の多い場所は王家直轄。

 かなりの大打撃を受けてしまっているとのこと。

「……イグナイト領が心配だなあ」

「確認してきたが、心配はないぞ。トウジが作ったパイプがあるからな」

 良かった、とホッと一息。
 混乱するデプリ国内、流民の増加、治安の悪化。

 隣国がデプリに信用を置けなくなった今、重要なのは個別の繋がり。
 イグナイト領はなんだかんだでかい。
 そして俺がイグニールの里帰り用の空港を作る予定地なのである。

 これから先は、空輸がこの世界の物流の要となるんだ。
 発展しないわけがない。

「むしろ他国に迷惑をかけない様に、と直轄領からの民を率先して受け入れてくれている」

「イグニス……」

 やるじゃん!
 これは支援しなきゃいけない案件だな!

 ってかそもそもあれか。
 色々な決定権俺とイグニールにあるのか。

 何も連絡を送ってないと言うのに、良い感じにやってくれている。
 良いぞ良いぞ、人は力だ。
 人口増加って、確か経済成長と密接に関係してるんだったよね?

「話を戻す、混乱した直轄地にあまり良くない薬が流れ始めた」

「ああ……」

「裏のルートから、サルトにも」

 治安の悪化の余波が、山脈を越えた土地にまで徐々に迫ってきている。
 それを見越したウィンストは、個人的に動くことにしたようだった。

 流通ルートは限られている。
 山脈の裂け目だ。

「私が知ると言うことは、サルトの上層部だって知っているだろう」

 竜の爪痕を使って、悪どい荷物を運び込むのは至難の技。
 それでも流れてくると言うことは、誰かが裏で手引きしている。

 そこですぐに当たりがついた。
 昔存在していたゴブリンの楽園とそう遠くない場所に住う特殊な人間たち。

「井守衆と百足衆か」

「その通りだ。迂闊に接近はできないからな、里を出て暮らしている一族を探すのに手間取った」

 どちらにも伝わる言い伝え、そして百足衆がやろうとしていること。
 その裏には、俺の敵が一枚噛んでいる可能性。
 その中で色々と知って、それぞれの伝承が一部食い違っていることに気がついた。

 井守の中では、伝説の装備とそれを装備できる英雄と称されし存在。
 百足の中では、装備のみで自分らがトウテツの意思を受け継ぐ存在。

「へー、片っぽしか聞いてなかったからあれだけど、なんでなんだろうな?」

「まあ、宗教というものはそれぞれ解釈が違い枝分かれしているが、もとを辿れば同じだったというのは良くあることだ」

「それもそうか」

 話を戻す、とウィンストは続ける。

「正直、伝承の意味を解釈している時間はなかった。もともと百足衆に在籍していた者に聞いた限りだと、百足側があまり良い考えを持ち合わせていないことだけは確かだった。だから止めに行こうとしたら、その時話を聞いていた夫婦に頼まれたのだ」

「うん」

「争いを止めて欲しい。その鍵となるのが……この子だと」

「んん?」

「その夫婦は、互いに別の一族出身で、今の一族の状況を憂いていた」

 対立、そして井守が里を追われ。
 百足が伝承にあった装備の解放を裏で金をかき集めて成し遂げようとしていること。
 ウィンストから色々と話を聞いた夫婦は、何かを決心した様に頼み事をするのである。

「この子は、生まれた時に母親の魔力を全て奪ってしまうほどに飢えた子供だったそうだ」

 まだ赤子だと言うのに、勝手にステータスやレベルが上がってしまう。
 特に力がとんでもなく、井守出身の父親ですらあやすのも大変。

「まさに伝説の存在。超影であり、トウテツの言う器の可能性だな。もっと私はこの子を象徴とすることで井守と百足の間を取り持って争いを止めるつもりだったのだが……まあ良い、それは過ぎた話だ」

「うーん、聞いてる限りだと、色々と奇跡だな」

 ウィンストが事情聴取に言った先で器の子供を見つけてしまうとは……。
 やはり、持っている。
 そしてトウテツの言う通り……人は世界に愛されているのかもしれない。

 互いに歪み合う一族の中から生まれてるんだもんな?
 この土壇場で、こうしてこの場に存在できてるんだもんな?

「トウテツ、目当ての器は見つけてきたぞ。これでトウジと戦う理由がなくなったな? どうする、私と死ぬまでやりあうのか? その子の目をよく見て考えることだ……それが、お前が希望を描いた未来の一つだ」

 小さな赤子を大きな手の上に乗せて黙ったままのトウテツに、ウィンストはそんな言葉を投げかけた。

 お前が希望を描いた未来の一つ……か。

 引き寄せの法則、なんてものもある。
 強く願えば願うだけ、寄ってくるんだ。

 そう考えると、トウテツ。
 あんたが本当に欲しがっていたもの、願っていたもの。
 それはいったいなんだったんだろうな?





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コンビニからお金を代価にチョコをいただいて食べるんだ、明日。
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