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本編
927 ごぶりんとの話
しおりを挟む1日限りのポチ食堂は大評判。
今回のレシピは広く公開され、半巨人向けや一般向けに誰でも作れるようになった。
どこかが独占しても寝目覚めが悪いからね。
「いっぱい知ってもらってよかったな、ポチ」
「アォン」
伝説の料理人が食材を広めたならば、その一番弟子はレシピなのである。
もっとも、パインのおっさんは広める目的でやってるわけじゃないのだ。
自分が本能の赴くままにグルメを求めた結果の産物。
うーん、やっぱりどこかの漫画の主人公みたいな存在である。
「アォン」
「ん? まだ終わりじゃないって? ああ、そうだったな」
結局ハイカロリーな食べ物だとしても、限度はある。
量を摂取しなければならない危険性がある以上、解決したとは言い難いのだ。
中には少食の半巨人族もいる。
必要な栄養素を体が求めているのに、理性が拒絶してしまうという奴だ。
いつ暴走してもおかしくない状況を何とか改善したい。
だから、今回ポチは深海調査でアブラウオを見つけたいと願う。
「いいよ、見つけようか」
「アォーン!」
ポチを抱き上げて、その思いを汲み取る様に撫で回した。
アブラウオとやらが、どれほどの効果を持っているのかはわからない。
けれど、最後までしっかり頑張ろうという意思。
この辺は尊重するべきだよね。
「トウジ、少し話がある」
宿でポチを撫で回しながらくつろいでいると、ウィンストが部屋に入ってきた。
「話?」
「ああ、天海深塔へ向かう際に、少しだけネックになることがある」
「ネック、ねえ」
聞こうじゃないか、ウィンスト。
何やら真剣な表情を察知したポチが、すぐさまお茶の準備を行う。
「エリナのことだ」
お茶ができるまで待てばいいのに、俺の向かい側のソファーに座ったウィンストは話し始めた。
「チビに頼んで、今すぐギリスの安全圏まで帰国させた方がいいだろう」
先に出された茶菓子に伸びていた手が止まる。
「……つまり足手まといだから、ということ?」
その辺を気にしても舌がないんだよ、もう。
本人が望んでこの場にいるわけではないんだからな。
「俺だって、できることならそうしたいとは思うけど、無理だぞ」
各所のギルドに報告する義務があるんだ。
ギルドが、というかギフの父親が、彼女を重荷としてついていかせた部分もある。
啖呵を切ってきた以上、そこはしっかりさせておくべき。
「さっき少しだけ裏で情報を集めてきた。敵対勢力の一つがすぐ側まで来ている」
「魔国って言ったら、あれか、八大迷宮の一つか」
「その通り、夢幻楼街のダンジョンコア、ラストとその守護者たちだ」
「まあ何かしらの絡みがあるとは思ってたけど……」
思ったより早かったね、という感じ。
空を通ればバレるのはまあ予測はできていた。
「しかし、思ったよりも早い」
今の率直な感想だ。
確かに目立つ部分はあったけど、この世界の情報経路って結構ラグがある。
その隙をついてちゃっちゃと移動しようと思っていたんだがなあ。
「やっぱり、どっからか情報が筒抜けになっている部分があるな」
「……そのことだが、はっきり述べよう」
出された紅茶を律儀に一口飲んでから、ウィンストは続ける。
「偶然か必然か、前者だったら良いのだが、トウジは今まで誰と一緒に行動していた?」
「俺の行動をエリナが漏らしてるって、言いたいんだよな?」
はっきり述べると言っておきながら、全然はっきりしてない。
それから俺の方もはっきり述べておくが、多分違う。
「向こうが知ってたっぽい俺のことと、今回敵の接近が早いって情報にはあんまり関連性がないよ」
イグニールの妊娠話とか、俺が弱体化した一件とか。
そもそもエリナはその場にいなかった。
「だからあるとしたら別なんだよ」
デプリを通って魔国入り。
つまりは敵の目の前を素通りした様な状況で、言っちゃ何だがバレててもおかしくない。
それだけガバガバな道中でもあったりする。
確かに初日に敵が近づいてるってのは思ったより早いなあだったけど。
わざと透かして力を削いでおくことも視野には入れていた。
ポチ食堂もいい感じに味方増やしの役割を担ってくれている。
「ここまで来る道中、私が逐一見張っていたが悪しき視線は一つもなかった。呪いの類もない」
確かにエリナを疑うのは筋が違う、と俺の意見を肯定しつつ、ウィンストは言う。
「全てを信頼するのは良くない。親友として、もう少し警戒心を持つことをお勧めする。私とトウジは大丈夫かもしれないがな、この地に存在する迷宮の能力は……特に人間には恐ろしいほどの効果を発揮するのだから」
「ふーむ」
「ありえるぞ。今まで道中を共にした仲間が、自分で自分の胸を貫く事態だって」
何らかの思惑によって彼女を利用していたとする。
俺たちには一応それを跳ね除ける力は存在する。
しかし、自ら死に向かおうとする運命を止める手立てには、力が及ばないこともある。
「できる限り守ろう。しかし、個人で守り切れる範囲には……限界だってあるんだ」
自分が一番それをわかっていると言わんばかりに、真剣な表情。
少しだけ、悲しい色が瞳の奥に見えた気がした。
「ウィンスト、一つだけ言っといていい?」
「何だ」
「エリナ、お前に一目惚れしてるっぽいよ」
「……いきなりどういうことだ」
「いや、俺はあんまり思い詰めずにウィンストにも人並みに幸せを掴んで欲しいなって思ってるだけだよ」
余計なお節介かもしれないけどな。
トラウマがあるのだろうか。
守りたいから遠ざける、それは確かに効率がいいかもしれないけど。
それに伴う心の奥に広がる虚無感をあまり味わって欲しくない。
一度痛い目を見たのなら、ね。
俺だって一度イグニールたちに迷惑がかからない様に遠ざけた。
俺も逃げる様にして。
その後、この世界の異物なのかな、なんてセンチメンタルになったもんだ。
「トウジが私にそれを伝える意図が理解できない」
「何となくだよ」
「相変わらず突拍子もないことを言う。仮に好意を持たれていたとしても私はゴブリンで彼女は人間だ」
「そうだな、でも世の中ゴーレムと本気で結婚した男がいるんだぜ」
=====
書いてて思ったけど、
トウジ結婚してからお節介おじさん化乙
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