装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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8巻

8-2

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  ◇ ◇ ◇


「トウジ! トウジ! 起きなさい! トウジ!」
「こらー! 起きろ! いつまで気絶してるし!」
「アォン! アォンアォンッ!」
「……んあ?」

 なんだか騒がしい声にかされ目が覚めた。
 寝起きでぼんやりとしながらも、とりあえず周りを確認する。

「もう着いたの……?」

 記憶を辿たどれば、休憩を挟んで再び出発した時は、海を渡る直前だったはずだ。
 だからギリスに着いたのかな、なんて思っていたのだけど、まだ海上である。
 しかも、目の前には巨大なタコの魔物が存在していた。

「……はあ?」

 貿易船団の上を飛行して、巨大なタコを威嚇いかくするワシタカくん。
 情報量が多くて、寝起きの頭には理解が追いつかなかった。

「何これ?」
「もーっ!」

 巨大なタコが貿易船に絡み付いてギチギチミシミシと締め上げるなか、ジュノーがイグニールの胸元からふわっと出て来て、俺の耳を引っ張る。

「痛っ、いだだだだだっ! ち、千切ちぎれるっ!」

 俺の耳の付け根がヤバイ音を立てていた。
 この痛み、とりあえず夢ではないってことは確かである。

「えっと……状況の説明を……」
「いいから、とにかく船に降りて、クラーケンの足を何とかしないと!」
「あっ、うん」

 ガチガチに固定されたベルトを外すのにかなり手間取ってしまう俺。
 あ、そうだ。ベルトは自分の装備なんだから、インベントリに仕舞えばいいのか。
 さっさと収納してポチとともに自由になると、グリフィーを召喚して飛び乗った。

「ジュノーはイグニールのベルトを外してくれ」
「うん! 任せるし!」

 胸とか腰のベルトを俺が外すのはさすがに不味まずかろうと、ジュノーに頼む。

「時間がないし! トウジも手伝うし!」
「えっ」
「緊急事態よトウジ。別に何とも思わないから」
「あっはい」

 真面目な顔でイグニールに言われてしまったので、俺もベルト外しに参加した。
 パーティーメンバーだからか、異性の範疇はんちゅうに入っていないからか。
 信用してもらえているのはありがたいのだが、男として意識されていないのであれば、少しショックだった。
 別に期待なんかしてないけどね、二十九歳フリーターはそういう機微きびにも敏感なんだい。

「よし、外し終わったよ。状況説明を頼む、俺寝てたからさ」
「……え、気絶じゃないの?」
「えっ? なんだって? イグニール?」

 いやいや、断じて気絶ではなく寝ていただけだ。
 起きたらどっと疲れているが、それは体勢とかの問題だろう。

「……とにかく状況を説明してくれ」

 さらっと流して、話を本筋に戻した。
 グリフィーの背中に乗り込み、俺の腰に手を回したイグニールが教えてくれる。

「飛行中にジュノーと海の景色を眺めていたら、偶然、クラーケンに襲われている船を見つけたのよ」
「なるほど、委細承知」

 クラーケンというのは、あの馬鹿でかいタコの魔物のことだ。
 そいつに襲われている貿易船を見つけたイグニールとジュノーが、ワシタカくんにお願いして助けに来たって話である。

「パーティーリーダーの許可なしに、勝手に判断したのは悪かったわ」
「いやいや、むしろよく見つけたと思う」

 人助けしようとしたことに対して、ふざけんなって言えるはずもない。
 それにイグニールの性格だと、助けるという選択肢しかないだろう。
 俺だって、目の前で襲われているのを放置しちゃ、寝覚めが悪い。

「とりあえず、船に張り付いたタコを引っぺがすか……ワシタカくん頼んだ!」
「ギュアッ!」

 武器である両脚がフリーになったワシタカくんは、船に絡み付くクラーケンの頭に強襲し、文字通りわし掴みにして持ち上げにかかった。

「うわあああああ!? ふ、船が揺れる!?」
「みんなー! 掴まれー!」

 グラグラと船が揺れ、甲板かんぱんで戦っていた船員や冒険者の叫び声が響く。
 当たり前だ。見た感じ、船と船がぶつかり合う揺れより、もっとひどい。
 船室に避難してる人は大丈夫だろうか?
 かつての船旅で船酔いになった、マイヤーの惨劇さんげきを思い出してしまった。
 ……忘れよう、彼女の名誉のためにもね。

「そもそもなんだあのロック鳥!? 味方なのか!?」
「わからない! けど、従魔じゅうまの印をつけてるぜ!」
「ロック鳥が従魔だって!? そ、そんなことあるのか!?」
「聞いたことがある!」
「なんだ急にどうした!?」
「しばらく前に、大海賊の集団を一人の冒険者が追い返したって話だ! その時の冒険者が、ロック鳥とスライムキングを従えていたんだとよ!」
「でもスライムキングいねぇぞ! うそだろそのうわさ!」

 ……残念ながら本当なんだよな。
 阿鼻叫喚あびきょうかんの中から聞こえてくる噂話に、俺はそう思った。
 もっとも、一人で追い返したってのは誇張であり、船のみんなで戦ったのである。

「トウジ、サルトを出てからも色々とあったのね……?」
「まあね……」

 何かを察したようなイグニールの表情。
 色々あったからこそ、こうして貿易船にクラーケンが絡み付いているとんでもない状況でも、冷静でいられるのだ。

「そのロック鳥、やっぱりトウジ殿!」
「ん?」

 甲板の上でてんやわんやする船員や冒険者の中に、俺の名前を呼ぶ人がいた。
 見覚えがあるなと思ったら、かつて一緒に、海賊相手に戦った指揮官だった。
 別名、船長。名前は知らない。

「久しぶりだな! トウジ殿!」
「お久しぶりです、船長。また厄介やっかいな場面に遭遇してますね」

 前は大海賊団と嵐と海地獄うみじごくで、今回はクラーケン。
 厄介な星の下に生まれたのだろうか、と疑ってしまいそうだ。

「ここ最近は問題なかったのだが……しかし、また君がいる」

 それ、どういうこと?
 言葉の裏に、俺こそが厄介を引き寄せている、という意味合いが含まれていそうだった。
 しかし、真っ向から否定できないのもまた事実。

不躾ぶしつけなお願いなのだが、援護を頼めないだろうか?」
「もちろんそのつもりです」

 ここで放置するなんて、とんでもないサイコパス野郎くらいなもんだ。

「ありがたい! 正直もうダメかと思っていたんだが、活路が開けた!」
「それほどじゃないですけど……」
「いいや、何を言っている。私を含めてあの船に乗っていた者は、大海賊を退しりぞけることができたのは君のおかげだ、と口々に言っているんだ」

 今でも忘れない、と船長は続ける。

「従魔とともに、海賊を恐れず戦う君の勇姿。そして、ロック鳥が海賊船を次々と沈没させ、海地獄を叩きつぶし、嵐すらも打ち消したスライムキングの強烈な姿を……な!」
「はあ……」

 確かに、俺からしても強烈な光景だった。
 訂正すべきは、なんか英雄みたいな扱いを受けているが、どっちかと言えば、俺も船長と同じくギャラリーでしかなかった。

「トウジ! 話よりも先にクラーケン!」
「おっと、了解」

 イグニールに言われて、視線を船長からクラーケンに戻す。
 ワシタカくんが頑張って引っ張っているものの、返しがついたとげびっしりの吸盤が、船をガッチリ掴んで粘っていた。
 これだと、ワシタカくんが本気を出したら船がひっくり返ってしまいかねない。船体の板材がバキバキにがれて、船が沈む可能性もある。

「一旦動きを止めるか。ポチ、図鑑に戻ってて」
「アォン」

 俺はポチを一度だけもふもふっとすると、サモニング図鑑に戻してワルプを召喚した。

「――ォォォォォォオオオオオ!」

 ワルプは海地獄のサモンモンスターであり、場所が海なら無類の強さを誇る。
 スタンに暗黒で、邪竜をハメ殺したワルプの力を、とくと味わうがいい。

「海地獄!? ま、まさか、そいつも従魔にしたというのか!?」
「ええ、まあ」

 驚く船長に、適当な返事をしておく。
 あの時の海地獄からゲットしたサモンカードです。

「――オオオオ!」

 空中で召喚されたワルプが海にダイブして、すぐさま渦潮うずしおを作り出した。
 特殊効果のスタンと暗黒が発動し、船に絡み付いていたクラーケンの動きが止まる。

「ク、クラーケンの動きが……止まってる……?」
「い、いったいどうしたんだ……?」
「もう色んなことが重なり過ぎて、ついていけねぇよぉ……」

 クラーケンだけでも大事なのに、ロック鳥と海地獄まで。
 あまりの事態に、甲板にいた大勢が固まっていた。

「ギュアッ」

 静止したクラーケンを、ワシタカくんが無理やり船から引き剥がす。
 その間もクラーケンが再び動き出さないよう、絶妙に高さを調節するワシタカくん。クラーケンがワルプの作り出した渦潮から出てこないようにしているのだ。
 本当にできるやつですよ、ワシタカくんは。
 もちろんワルプだってよくやってくれているぞ。

「一旦船に降りるぞ」
「了解よ」
「はーい!」

 渦潮に巻き込まれない位置まで、ワシタカくんとワルプが船を移動させてくれた。
 すっかり落ち着きを取り戻した甲板へ降りた俺は、サモニング図鑑でグリフィーから、コレクションピークのコレクトにチェンジ。
 コレクトの特殊能力で、ドロップアイテムが発生する確率を上げておかないとな。

「さて、あとはあのタコをどうするかだけど……」

 サンダーソールのビリーを召喚して、特大の一撃をぶつけてやるか?
 それともキングさんにお願いするか?
 この状況なら、わざわざキングさんを出す必要はなさそうだし、ビリーで大丈夫かな、と思っていると……。

「ギュアァァアアアア! ギュアギュアギュアギュアッッ!!」
「――!? ――ッッッ!?」

 ワシタカくんが、自分だけで大丈夫だと言わんばかりに、とてつもない鳴き声を上げた。
 そして、クラーケンの頭を鋭い鉤爪かぎつめで引き裂いてくちばしで食い破り、ズタズタのボロボロにしてしまった。

「う、うう、うおおおおおおおおお!!」
「ロック鳥すげぇ! すげえよ!」
「海の悪魔クラーケンが簡単に!」
「すげええええええええ!」

 無残な姿になってボトボトと海に沈んでいくクラーケンを見て、甲板から固唾かたずんで見守っていた全員が歓声を上げる。

「ワシタカくんすげぇー!」

 もちろんギャラリーの俺も一緒になって、ガッツポーズを取る。
 さすがはキングさんの相方的な存在、ワシタカくんだ!
 キツツキ並みの高速突っつきで、分厚いクラーケンの頭を食い破っちまったぞ!
 そして、遠目にドロップアイテムが見えたと思ったら、サモンカードでした。しかもユニーク等級の色。
 やったぜおい。

「……なんでやっつけた本人が、一緒になって喜んでるのよ」

 グッとこぶしを握りしめる俺に、イグニールが呆れた顔をしていた。
 いやいや、俺はあくまでギャラリーである。
 サモンモンスターによる、とんでも殺戮さつりく劇場のいち見物客。
 当事者になったら命がいくつあっても足りないので、この立ち位置が一番良い。
 そんなことを考える俺の元に、船長がやって来た。

「トウジ殿。貿易船団を代表して、改めてお礼を言わせていただきたい」
「いえいえ、そんな……助力できて良かったです」

 俺は謙遜けんそんしながら素直に言葉を受け取っておく。

「船長、負傷した人は何人いますか?」
「……今回はそれなりだ」

 船長の表情が少し暗くなる。
 どうやら、俺らが来る前に多少の犠牲があったようだった。

「戦って海に投げ出された者もいるが……海は常に危険がつきものだから仕方がない」
「捜索はしますか?」
「いや、船を港につけるのが優先だ。基本的に、海に落ちた者の捜索はしない。乗客が落ちた際は例外的に船を止めることも許されるが、積荷の方が船員よりも重要なんだ」
「なるほど」

 そういったルールに同意した船員だけが乗っているらしい。
 魔物のいる海はとにかく危険な場所だってのが常識だ。
 胸の痛む話だが、仕方のないことなのだろう。

「船長、襲われてからどのくらい時間が経っていますか?」
「……一時間くらいだな」

 一時間、おぼれてしまった場合は助からない。
 しかし人は海に浮く。海賊と勇敢に戦うほどの海の男たちならば、そう簡単に力尽きるなんてことはないはずだ。

「まだ、間に合いますね」
「間に合う? どういうことだ?」
「船は進めたままでいいですよ。俺の従魔に捜索を行わせます」
「……本当にいいのか? そこまでしてもらって」
「生きてる可能性があるのなら、できる限りのことをしないと」

 面倒を見るのなら、ケツまでしっかり。
 これも先日の船旅で学んだことだ。

「……それは、ありがたい」

 唇を噛み締めながら、船長は続ける。

「私がいくらかお金を出させてもらうから、正式な依頼として受け持ってくれ」
「なら格安で引き受けますよ」

 俺はギルドにしっかり報告をしてもらえれば十分なのである。

「ありがとう……本当にありがとう」

 深く頭を下げる船長を見るに、本当は安否が確認できるまで捜索したかったようだ。
 前から思っていたが、やっぱり良い人だな。
 だからこそ、できる限り助けようと思えてくる。
 たとえ間に合わなかったとしても、永遠に海を漂うよりは陸地の故郷で眠りたいはずだ。

「よし、ワルプはそのままで、ワシタカくんとコレクトはチェンジだ」
「ギュアッ!」
「クエッ!」

 クラーケンのドロップアイテムを回収した後、俺はチロルと水島みずしまを召喚した。
 スライムのチロルの能力である回復効果の範囲に入っていれば、遭難者のHPが自動回復し生存率も高くなる。
 リバフィンの水島には、エコーロケーションを用いて遭難者を探してもらうことにした。
 イルカっぽい魔物であるリバフィンは淡水にんでいるから、一応、海も行けるか聞いてみる。

「水島、海は平気?」
「キュイ」

 ややぎこちないが、行けんこともないと頷く水島。
 エラで呼吸する部類じゃないから、海でもたぶん問題がないらしい。

「よし、なら俺の話は聞いていたな? 行ってこい」
「……キュイ」

 あまり行きたくなさそうな雰囲気だったが、問答無用で海に飛び込ませた。


 ワルプと水島が、戦いの最中で海に落ちた船員や冒険者たちを助け回っている間に、残った俺たちはクラーケンの攻撃によって壊れた船体の補修作業や、負傷者の治療に当たった。

「助けてもらった恩人に頼める身分じゃないのだが、そっちをお願いできるか?」
「大丈夫ですよ」

 マストと手すりにつないだ命綱を腰に巻き付け、金槌かなづちくぎと資材を持って、ロープアクションさながらに船体側面へ降り、補修作業を続ける。
 装備の耐久を回復させられる、ゴレオの特殊能力が通用すれば楽だと思ったのだが、船は装備ではないようだ。
 以前オスローに見せてもらった飛行船の設計図も、俺の製作レシピに登録できなかったので、乗り物は装備の範疇に入らないのだろう。
 トンテンカンテン。
 ぎこちない手つきで、クラーケンの吸盤によって引っぺがされた部分に、板を打ち付けていった。

「いてっ!」

 うーん、慣れない作業だからか知らんが、なかなか金槌の狙いが定まらない。
 宙ぶらりんでの作業は、屋根の補修よりも難しかった。
 器用さを表すステータスのDEX値は、装備の補正によって跳ね上がっているってのに、こういったところには反映されないのだろうか。
 世知辛せちがらいもんだ。

「あ、そう言えば……」

 ふと思いつく。
 クラーケンからドロップしたサモンカード、ドロップケテル、大量のタコの切り身にじって、今の状況に良さげな装備があったんだった。


【吸着の長靴】
 必要レベル:60
 VIT:30
 UG回数:5
 特殊強化:◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
 限界の槌:2
 装備効果:MPを消費してどこにでも吸着する


 いわゆる滑り防止となる、スパイク能力を備えた靴装備である。
 これで船体側面に張り付いて作業すれば良いのではないだろうか?

「試しに、き替えてやってみるか」

 俺は基本的に自分で作った装備しか使わないから、魔物からドロップした装備は全て分解して素材の足しにしている。
 こういう場面じゃないと使う機会がないので、たまには良いだろう。
 あ、他にもこんなものだってあるぞ。


【潮流の靴】
 必要レベル:80
 VIT:40
 UG回数:7
 特殊強化:◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
 限界の槌:2
 装備効果:水面を歩行できる


 これは以前、海地獄を倒した時に得た装備。
 水面限定の効果を持つ装備だが、MP消費がないのが利点である。
 履いているだけでアメンボごっこができるこの靴、使いどころがあるかと言われれば、今の今まで特になかった。
 邪竜イビルテール戦で履いてれば良かったのかもしれないが、そんな余裕もなかったし、そもそもあの時は必要レベルに達していなかったのである。

「よし……」

 今は必要レベルもクリアしているし、水面すれすれの作業がし易くなるかもしれないので、先に潮流の靴を履いてみることにした。


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