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10巻

10-3

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「だから――出し惜しみは絶対になしだ! キングさんッ!」

 巨人化した状態で着地し、キングさんの後ろから迫っていた一体の王族を踏み潰す。
 キングさんには、もう一本の高級巨人の秘薬を投げ渡した。

「……良きタイミングだ」

 秘薬を受け取ったキングさんは、ニヤリと笑いながら一気に飲み干し巨大化する。
 王冠含めて25メートル超、全員でスゥッと思いっきり息を吸って叫ぶ。

「――プルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
「――ギュルァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
「――オルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 巨大スライムと巨人と巨獣、三人の覚悟の雄叫びだ。
 生死をわかつこの状況で、一番必要なものは作戦でも何でもなく覚悟なんだ。
 俺がずっと逃げてきた、置いてきた、目を背けて忘れようとしてきたそれは、この異世界を生きていく上で一番大切なものなのである。

「な、なんだ⁉」
「人間が巨人に⁉」
「ロック鳥まで⁉」
「プルゥハアアアアッ! 潰れろ、雑魚ども!」

 いきなりの状況に慌てる王族たちをキングさんのボディプレスが容赦なく襲う。

「うおおおおおおおお!」

 俺も負けじと盾の面を使って上からドーンと殴りつけた。
 質量があると、こうした面攻撃がとんでもない威力になる。

「ギュアッ!」

 ワシタカくんは、ボディプレスに耐えそうな銀、金、白金の三種類をひっ掴んで持ち上げ、一瞬で超高度を取り、急降下して地面に叩きつけて倒していた。
 あっけなく散っていく三種のレアメタル王族たちは、硬貨をドロップさせている。召喚されたタイプの魔物にもドロップがあるなんて、どんどん召喚してもらえばいくらでもお金が稼げるんじゃないだろうか。
 プラチナキングなんて、一体倒せば1億以上確定だから最高なんだが!

「うはっ、うはは!」
「な、こいつ急にニヤけ顔で走り始めたぞ⁉ うわああ!」

 攻撃をやめて取り急ぎ消える前にドロップアイテムを回収する。
 急いでいたので、走った余波でスライムキングが何体か潰れていた。ラッキー。

「……たわけが」

 キングさんが呆れた表情で呟いている。
 たわけで結構コケコッコー、覚悟はできていても根本的な部分はそう簡単には変わらないのだ。
 お金は大事なので、しっかり回収しておきませんと。

「でもちゃんと毎日寝ずに努力しているんだから、許して欲しいよ」

 俺の場合、お金は強さに直結する部分なんだからね。

「うむ、見ていた。日進月歩のその覚悟を認めているからこそ、我が前を張るのだ」

 図鑑の中から毎日地道に装備を作る姿をしっかり見守ってくれていたらしい。
 すごく嬉しくて、照れ臭かった。

「話している余裕があるのか? 再びでよ王族諸君!」

 再びロイによって呼び出された王族たちだが、キングさんが片っ端から潰していく。

「楽園の王よ、忠告しておく。悲しみを背負って大きく強くなる者などいない」

 この言葉はロイに言っているのか。

「ただ覚悟を決める一つの材料に過ぎん」

 それとも俺に言っているのか。

「心が弱い者でも、腹をくくれば強者と同じような覚悟を持つものだ」

 まるで独白のように呟くキングさんは、体を変形させて作った拳を天空へと振り上げた。

「それすら曖昧あいまいな貴様程度に、この我が……負けるわけには‼ いかんのだ‼」
「――ッ⁉」

 ドッ‼
 言霊ことだまを込めて一気に振り下ろした拳の一撃は、ただでさえ窪んだ地形にある湖をさらに大きく陥没させる。
 衝撃で湖の水が空へと舞い上がり雨となっていた。

「うわあああああ⁉」
「ギュアッ!」

 衝撃ですっ転びそうになった俺をワシタカくんが支えてくれる。

「ありがとう、ワシタカくん!」

 そこで秘薬の効果が切れて、俺たちは元の大きさに戻った。
 キングさんとロイはどうなったのか、窪んだ湖の中央を覗き込む。

「ぐ……ぅ……」

 いた。中央に鎮座するキングさんとうつ伏せで倒れ込むロイの姿があった。
 急いで傾斜を滑り降り、キングさんの後ろに立つ。
 水面でも関係なく行動できる潮流の靴は、本当に便利だ。

「フォルトゥナの尊い犠牲の末に得た力なのに……な、何故だ……」

 ロイは満身創痍になりながらも立ち上がろうと歯を食いしばる。
 巨大化キングパンチを受けても生き残れるってだけで、彼は相当な強敵だった。

「たわけめ。スライムフォーチュンの能力を受け入れた貴様は、すでに負けていた」
「え、どういうこと?」

 ロイを見ながら呟くキングさんの言葉に首を傾げる。

「拒絶すれば進化は起こらない。だが、奴は心の中でスライムフォーチュンの犠牲を受け入れて強くあろうとした」
「なるほど……」

 そういう理由があったのなら、受け入れたロイの悲しみは少し違うか。

「我は受け入れたことを別に否定はしない。だが」

 キングさんは続ける。

「貴様は悲しみの中に本音を隠し、己自身を誤魔化した。それはただの弱者だ」
「……」

 キングさんの言葉に何故か黙ったままのロイ。
 圧倒的な力の前にそれしか手段がなかったら、おそらく俺だってそうするだろう。
 だがキングさんの言いたいことは仕方ないとかそんなことではない。

「全ての決断は他人ではなく自らが決めることだ」

 選択した自分自身を受け入れろ、と言っているのだ。

「貴様は我が生かしてやる。まだ恨み言を吐くのならばいくらでも挑め、迎え撃つ」

 キングさんなりに気持ちをんで敵役を引き受けるってことなのかな。
 召喚するのは俺だから、問答無用で俺も敵役なんだけど……まあいいか。

「行くぞ、主よ」
「あ、はい」

 ワシタカくんにお願いして、湖の底から出してもらおうとした時だった。
 後ろで殺気が膨らむ。

「ここまでやられて素直に帰すとでも思ったか、傲慢な下等種!」

 ロイが起き上がって攻撃を仕掛けてきたのだ。

「覚悟が必要だと言うのならば、今ここで殺す覚悟を決めた! 貴様らに死を――」
「――プルァッ!」

 すぐにキングさんが振り返ってロイをぶん殴る。
 消耗して小さくなっていたロイの体は大きくひしゃげて壁に衝突した。

「ぐ――ぁ――⁉」

 少ない体積では衝撃を受け流すことができず、体内の核はもろくも粉々になった。
 大量のドロップアイテムとサモンカードを落とし、ロイはただの液体と化す。
 何とも言えない呆気ない幕引きに、キングさんはドロップアイテムを見ながら呟く。

「……プルァ」

 ロイが死んだことで言葉が戻ってしまったのだけど、今なら何となく理解できる。
 バカが、と言ってるんだろうな……。


       ◇ ◇ ◇


 戦い終えた俺たちはそそくさと湖を後にした。ドロップアイテムは惜しいが、イグニールたちと早く合流しなくちゃいけない。
 聞けばスライムは常に流れ込んで来る餌で勝手に増えるそうなので、しばらく時間を空けてまた来たら良いのだ。
 キングさんの等級アップには、あのスライムの楽園は必要不可欠なのだから。


【サモンカード:スライムキング】
 等級:ユニーク
 特殊能力:攻撃を受けた後の無敵時間二秒


 戦いの最中でユニークとなったキングさんの特殊能力である。
 たかが一秒から二秒に増えただけだとは思うことなかれ。
 無敵時間二秒って、キングさんなら俺を五回くらいは殺せるレベルなのである。
 秒数が倍だと、単純に無敵中の移動距離も倍、行動回数も倍だ。
 うーん、強い。強いったらありゃしないよ、もう。
 この無敵時間があったからこそ、キングさんはロイたちの猛攻をしのげたのだ。
 ちなみにロイが召喚した王族たちはサモンカードをドロップしなかった。
 ドロップアイテムは落とすから、ダンジョンのガーディアンと同じ仕様なのだろう。
 さて、サモンカード繋がりでもう二つほど紹介しよう。
 楽園に最初からいた色んな種類のスライムのサモンカードをたくさんゲットできて、名前付けイベントを待つのみとなったのだが、その内二つだけ独断で名前を付けさせてもらった。


【サモンカード:スライムロイヤル】名前:ロイ
 等級:レジェンド
 特殊能力:クリティカル確率25%
 特殊能力:クリティカル確率25%


【サモンカード:スライムフォーチュン】名前:フォル
 等級:レガシー
 特殊能力:召喚中一回死亡回避/回避効果適用後二十四時間能力の使用不可
 特殊能力:死亡回避後、HP・MP及び異常状態全回復


 勝手に名前を付けたのは、スライムロイヤルとスライムフォーチュンの二枚。
 名前の由来はお察しの通りで、少しばかりの罪滅ぼしと、新しく生まれ変わったら敵対関係じゃなかったら良いのにと思ったからだ。
 なんでそんな名前にする必要があるのか、と聞かれても特に深い意味はない。いや、人語を話す二人が印象に残っていたからだろうね。
 え? なんでフォルトゥナじゃなくてフォルかって?
 召喚する時に噛みそうだったので愛称っぽくしただけである。
 ビリビリビリーをビリーと呼ぶような感じだ。だったらビリーもビリーで良いじゃん、って思われそうだけど、それだとジュノーが怒る。
 そんな話はともかく、注目すべきは特殊能力だ。
 スライムロイヤルはレジェンド等級でクリティカル確率上昇と当たり性能だが、それをかすませるほどフォーチュンがヤバかった。
 至れり尽くせりのレガシー等級で、意味不明に強い特殊能力を持っている。何だよ、この特殊能力?
 死亡を一回なかったことにして、その後全回復付きという破格の能力はえげつない。
 俺が驚いているということは、もちろんこんなサモンモンスターはゲームに存在しない。
 さらにこの性能とは別に、自らを犠牲に魔物を強制進化させる能力も持つ。
 サモンモンスターは二十四時間後に復活するので、何度でも進化が可能なのだった。
 さすがにそんなマッドなことはできないが、本当にどうしようもない時にはこの能力に頼ってキングさんを一段階進化させてみるのはどうだろう。
 キングさんが強制進化を受け入れるかはわからないけどね。
 フォルの能力でやや霞んではいるが、ロイの方もかなり強い。
 なにせ、召喚しているだけでクリティカル確率50%上昇。
 フォルが最終兵器だとしたら、ロイは常時展開しておける強いバフのようなもの。クリティカルダメージは、元のダメージの二倍。
 少し小突いただけでも、クリティカルが発生するとすごく痛いなにこれ、みたいになる。
 それが二回に一回発動ともなれば、地味に強いのだ。
 今回の戦いで俺の戦力は大きくパワーアップしたと言っても過言ではない。
 深淵樹海の守護者と、再び戦う時は前までの俺じゃないことを示してやろう。もっとも、パワーアップしたのは俺じゃなくてサモンモンスターの方だけどね。
 装備を脱げば女の子にも腕力で負ける最弱だけど、助けてくれる仲間がいる。そのためにもっともっと頑張ろうと思った。
 キングさんの言葉、あれを聞いて力を貸してくれる絶対的な仲間がいるのを今一度再確認できて心がかなり軽くなったよ。

「よし、そろそろ再召喚時間を過ぎたかな?」

 グリフィーに乗ってマップを見ながら深淵樹海を駆け抜ける中、俺は図鑑を開いて一枚のサモンカードをセットする。

「アォン!」

 俺の胸に抱きついてくるもふもふの感触がやけに懐かしかった。

「おかえり、ポチ」




 第二章 守護者にも色々あるらしい


 まずはこちらを見ていただきたい。
 スライムの楽園で得た大量の資金をもとに、新たに等級を上げた仲間たちである。


【サモンカード:コボルト】名前:ポチ
 等級:レジェンド
 特殊能力:ケテル獲得量75%アップ
 特殊能力:ケテル獲得量75%アップ


【サモンカード:スライム】名前:チロル
 等級:ユニーク
 特殊能力:十秒ごとに周りの人のHPを100回復する


 これで初期からよく召喚していたメンツがほとんどユニーク以上になった。

「そしてポチ、よくやった大好き!」
「アォン……」

 激しく抱き締めて頬擦りすると、何だか呆れたように鳴くポチである。
 二十四時間ぶりに召喚して片時も離さず抱っこしていたのだが、飽きたらしい。
 それでも抱擁ほうようを受け入れ続けてくれるポチ、イズ、ゴッド。
 レジェンド等級上昇時に解放される、もう一つの能力もケテル獲得量アップで、なんと能力が重複した。ポチが側にいるだけで収入がグンと増えるのだ。
 ただでさえ、ケテル獲得量アップは希少なのに、重複するだなんて豪運すぎる。ポチは家事でも収入でも俺を支える大黒柱となった。

「うーん、ポチ最高。ポチイズゴッド、ポチイズベリーキュート」

 チロルに関しては、レア等級からレジェンド等級まで上げるつもりだったのだが、何度か失敗してユニーク止まりだった。
 それでも十秒ごとに周囲のHPを100ずつ回復するのは半端ない効果である。
 周りに千人いたら、十秒で総計10万分の回復力を持つのだ。
 これはもう聖女である。勇者御一行の聖女よりも、うちのチロルが聖女認定されるべきだ。

「はあ、早くみんなで揃ってご飯食べたいな?」
「アォン」

 俺の呟きに頷くポチ。実は今の今まで飯を食べておらず、かなりお腹が減っているのだ。
 守護者アビスたちに夕食を邪魔されたが、意地でもあの食事をみんなで食べてやる。
 それが今の俺の覚悟だった。

「くそ、ダンジョンコアのグルーリングめ……絶対にわけてあげないからな!」

 目の前でポチの美味い飯を味わって食べてやる。
 食べ物の恨みは恐ろしいぞ。

「グリフィー、この先15キロくらい直進だ」
「グルルッ!」

 時折魔物が後ろから追って来るが、クイックを用いたグリフィーの速さには敵わない。
 全てを無視し快速で深淵樹海を駆け抜けて、マップに表示されているみんなのところに向かっていた時だった。
 ゴォオオオオオオオオオ!

「ッ⁉」

 前方遥か先の方で、突如真夜中の空を染め上げる巨大な火柱が出現した。
 グループ機能を見ると、炎魔法を操る冒険者、イグニールのレベルが二つ減っている。
 つまりあの火柱はイグニールの放ったもので、レベルが減っているということは顕現けんげんを使わなきゃ勝てないほどの敵が現れたということだった。
 ドォン!
 火柱は爆発し、遠く離れた場所にいる俺の頬を熱風が優しく撫でる。

「グリフィー! 急げ!」
「グルッ!」

 グリフィーが高く飛び上がって上空で翼をはためかせる。
 しかし、次の瞬間イグニールの残っていたHPが半分消え、一瞬で二割以下になった。

「イグニール⁉」

 おいおいおいおい、展開が急過ぎる。渡していたポーションを飲んでいるのか、彼女のHPは徐々に回復しているのだが、それでも即死回避のラインである二割を超えるまでにはもう少し時間が掛かる。
 俺は即時使用できるが、異世界の住人であるイグニールにはそれができないのだ。

「グリフィー、すまん変えるぞ!」
「グルッ!」

 速さが足りない状況を察して、グリフィーはさらにグッと高度を上げてくれる。
 空中でワシタカくんに入れ替えて一気にひとっ飛びだ。
 今すぐに彼女のもとへ向かうには、この方法しかなかった。
 ポチを抱っこしたまま吸着の靴に履き替えて、召喚したワシタカくんの背中に乗る。

「ワシタカくん、俺のことは気にせず全力で頼む!」
「ギュルアァッ!」

 吸着の靴ならば、元小賢のゴブリンネクロマンサー、ウィンストのように頭の上に乗れるんじゃないか、と考えていた時期が俺にもあったのだが……現実はそう上手くいかない。

「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 飛行機の翼に乗って空を飛ぶことなんて普通は不可能なのだ。爆速で飛行するロック鳥の背中には、とんでもない風圧が掛かっている。激流の中で揺れる水草の気持ちが理解できた。

「ギュルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 バッサバッサ! ボンッボンッ!
 クイックを使ったワシタカくんの全力飛行は、羽ばたく度に輪っかが出ている。
 音速の壁、というやつ。
 頭の中でみんなとの思い出が浮かんでは消えて浮かんでは消えてを繰り返す。いかんいかん、走馬灯を感じている場合ではなく、早く助けに向かわないと。
 意識が飛んだら吸着の靴の効果がなくなって真っ逆さまだ。

「――ぉぅ、ぃぇ――ぁ――」
「ギュアッ!」

 必死に意識を保っていると、ワシタカくんが何かを知らせてくれた。
 下を見やすいように体を傾けてくれたので必死に森を見渡すと、黒いベストに身を包み仁王立におうだちする巨大なとらの魔物の姿があった。
 イグニールの炎に焼かれたのだろうか、ところどころプスプスと体から煙を上げている。

「まったく、手間を掛けさせやがって」
「ぐ……」

 虎の魔物の正面には、両足を砕かれたゴレオと口から血を流して樹にもたれるイグニール。
 彼女の腕の中にはダンジョンコアのジュノーが抱かれていた。

「イグニール! しっかりするし!」
「ごめんねジュノー。あなただけでも逃げなさい」
「ダメだし!」

 そんな彼女たちに振り上げられる凶悪な虎の爪。

「食い物の恨みは恐ろしいと知ってこの世を去れ、じゃーな」

 その光景を見た途端、何とか保っていた意識が急速に覚醒した。
 すぐに右手を虎に向けて、スキルを使った。

「――引力!」
「うおっ⁉」

 虎はバランスを崩し、凶悪な爪の一撃は空を切った。

「な、なんだ⁉」
「引力! 引力! 引力!」
「うおおおおおおお⁉」

 ワシタカくんの上から何度も引力を使って姿勢を崩させ、イグニールたちから引き離す。
 そして低空飛行になってワシタカくんのタックルでフィニッシュだ。

「ギュルァァァァアアアアアアアアアア!」

 ロック鳥の堅牢けんろうな翼は、巨大な樹木を物ともせず両断する。

「は? ロック鳥?」

 ようやく俺たちの存在に気づいた虎の魔物だが、もう遅い。引力によって、ワシタカくんのタックルから逃れることはできないのだ。超弩級どきゅうのタックルが炸裂し、虎の魔物を吹き飛ばした。

「うぉあっ⁉」

 キングさんがぶっ飛ばされたロイのものよりも遥かに重たい一撃。
 目の前から虎の姿が消えて、遠くの方でドォンと激しい轟音ごうおんが鳴り響いた。
 一度急上昇し、旋回で速度を落としてから地上に降ろしてもらう。

「大丈夫か! イグニール、ジュノー、ゴレオ!」
「ト、トウジ~!」

 ジュノーが涙ぐみながら俺の顔面に飛び込んでくる。


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