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身代わりβの密やかなる恋の行方3

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「ぅ……っ、んっ、は……っ」

 メリメリと音を立てながらお腹が広がっていくような気がした。拳どころか頭の大きさくらい広がっているんじゃないかと思えて、ますます痛みと苦しさが増していく。

「千香彦くん、やっぱり、」

 修一朗さんが言い終わる前に頭を振った。

「でも、」

「続けてください」と言いたかったけれど、口を開くと悲鳴が漏れそうで頭を振り続ける。本当は痛くてたまらない。苦しくて息が詰まりそうになる。それでも僕は続けてほしいと願っていた。
 指のときは痛くなかった。変な感じはしたものの、最後は何となく気持ちよかった気がする。だから大丈夫だと思ったのに、実際に後ろを広げられる感覚は想像以上の痛みと恐怖で頭がぐちゃぐちゃになった。痛くて苦しくて自然と涙もあふれてしまう。
 そんな僕を見た修一朗さんは「やっぱりやめよう」と言ってくれたけれど、それだけは絶対に嫌だった。

(だって、いまやめたら二度としてもらえないかもしれない)

 絶対に叶わない想いだと諦めていたのに、こうして結ばれようとしているのにやめるなんて嫌だ。最後までしてちゃんと結ばれたい。どんなに痛くても苦しくても、ただのβでしかない僕の体で修一朗さんを感じられるなら我慢できる。

(お願いだから、やめないで)

 そう願いながら必死に修一朗さんを見た。涙が滲む目で見つめながら、このまま最後までしてほしいと心の底から願った。

「……ますますきみを手放せなくなりそうだ」

 何かをつぶやいた修一朗さんが体を起こした。もしかしてやめてしまうんだろうか。せっかく肌を重ねることができると思ったのに、やっぱりβの男でしかない僕では駄目なんだろうか。

「苦しいかもしれないけど、辛抱できるかい?」

(よかった、やめるわけじゃないんだ)

 僕は必死にコクコクと頷いた。力が入らない両腕を何とか持ち上げ、逞しい修一朗さんの腕にそっと触れる。素肌の腕は少ししっとりしていて、もしかして興奮しているからだろうかと思うだけで嬉しくなった。
 そのとき、ふわっとした香りが鼻孔をくすぐった。ずっと感じている修一朗さんの香水よりももっと爽やかで、でもそれだけじゃない香り。清々しい中にほんの少し甘さが混じっているような、そんな不思議な香りがする。

(この香り、どこかで……そうだ、前にも嗅いだことがある)

 修一朗さんにもらったハンカチから感じた香りだ。すぐに消えてしまったけれど、その後ももらった本やペンからも一瞬だけ感じたことがある。

(香水かと思っていたけど、この香りだったんだ)

 大好きな修一朗さんの香りにうっとりしていると、入り込もうとしていた硬いものがズズッと動いて「ひっ」と悲鳴が漏れた。慌てて唇を噛んで声を押し殺す。

(この痛みだって、修一朗さんと結ばれている証だと思えば耐えられる)

 そうだ、そう思えばいい。αの修一朗さんがβでしかない僕を抱いてくれているんだから、こんな痛みくらい……そう思いながら、体の奥を押し広げられる感覚を必死に受け止めた。
 そうしてどのくらい経っただろうか、修一朗さんの動きが再び止まった。

(もしかして、全部、入った?)

 そうだとしたらこんなに嬉しいことはない。僕でも修一朗さんを受け入れることができるのだと誇らしい気持ちにさえなる。
 ホッとしたからか、ほんの少し体から力が抜けた。お腹に信じられないくらい力が入っていたことにも気づく。そのお腹の中心に修一朗さんの存在をありありと感じて胸が熱くなった。

(みっちりって感じがする)

 僕の中を修一朗さんが満たしているような感覚だ。忙しない僕の鼓動と重なるように、トクトクと脈打っているようにも感じる。
「あぁ、これが修一朗さんなんだ」とうっとりした次の瞬間、お腹の中がぞわっとした。指でいじられたときよりも強烈な刺激に驚く。中を押し開いているものがやけに鮮明に感じられて、お腹の奥がゾクゾクして震えるような何かが体を突き抜けた。

「しゅ、いちろ、さ、」

 気がつけば修一朗さんにしがみついていた。自分の体がやけに激しく揺れているのがわかる。あまりの激しさに必死にしがみついたけれど、手が滑って何度も離れてしまいそうになった。そのたびに大きな背中を掻き抱き、両足も使って全身で修一朗さんに抱きついた。

「い……っ」

 肩を噛まれて少しだけ意識がはっきりした。そういえば肩や首を何度も噛まれているような気がする。それなのに痛みを感じるのは一瞬で、すぐに気持ちがよくなり意識が飛びそうになった。

「……っ」

 今度は首筋を噛まれた。本当なら痛くて怖い行為のはずなのに、噛まれる痛みさえ気持ちがいい。体の内側を押し広げられながらあちこちを噛まれるのが気持ちよくて、そう感じてしまう自分に目眩がした。修一朗さんに抱かれているのだと実感できるからか、噛まれることにも興奮して体がカッカと熱くなる。

「もっと、かん、で」
「きみは、どれだけ僕を虜にするつもり、だろうね」

 少し笑っているような修一朗さんの声がすぐそばで聞こえる。直後に耳たぶをカリッと噛まれて顎が上がった。すると、今度はさらけ出したのど仏を甘く噛まれて体が震える。

「すき、しゅうい、ろ、さんが、すき」
「く……っ。ふ……危なかった。ノットまで入れてしまうところだったよ」
「すき、すき」
「意識が飛んでいるのに“好き”だなんて、きみはどれだけ僕を魅了するんだろう。このままでは、この小さな穴にノットまで入れてしまいそうになるよ。……いけない、想像しただけでまた大きくなってしまった」

 奥まで押し広げているものが、またビクビク震えているのを感じる。これを感じると、お腹の奥がじんわりしてたまらなく幸せな気持ちになった。

(また、香りが強くなった)

 爽やかな香水と、清々しいのに甘いような不思議な香りが混じり合いながら僕を包み込んでいく。その香りが、さっきよりもほんの少し濃くなったように感じるのは気のせいだろうか。
 この香りを嗅ぐと安心できるのに胸がざわついてどうしようもない。このままずっと嗅いでいたくなるような中毒性の高い不思議な香り。

(Ωも、こんなふうに感じるんだろうか)

 僕は大きくて熱い体をぎゅうっと抱きしめ、首筋に感じる唇と歯の感触に身を委ねた。
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